第一章 ゲーム理論で分かる! 男装王女の救いかた(5)
「異世界、というのは……神話のようなお話ですね。海のかなたにあるという、
「
「わたし、これ好きです。なんて便利なんでしょう、デンタ・クー」
ア・バオア・クーみたいに呼ばないでほしい。
ファヴェール王国の王女ソアラ・エステル・ロートリンデが男装し
お
幸い、
「このパンはすごく
「ふふ、この国が
くすくすと笑って、ソアラは関数
返してくれる、が……
「どうしました?」
首を
「……これを売るって言ったら、いくらくれる?」
「売っていいのですか? 貴重な物ではないのですか?」
「本当は良くない。そろばんや筆算じゃ、あれを導き出したようなホルト・ウィンタース法のグラフは作るのにもっと時間がかかるようになるだろうし。
だけど、これを
「
ソアラは
「どうした?」
「
「初めてだってことか。本当に苦労してるな」
どうにもいちいち
「こほん、すみません。ええと、そうですね、デンタ・クーを買うなら……フィセター銀貨で100枚。それでどうですか?」
「なるほど。それっていくらくらい?」
「? ですから、大銀貨が100枚です」
まあそうなるか。
「
「なにか、お困りですか?」
「なにもかもさ。でもまあ、とにかく当面暮らしていけるくらいのお金になってくれればいいよ。それと、村じゃなくて街があるなら、そこに連れて行ってほしい。そこなら、数学的トリックを使ったイカサマでなんとか食いつなげるかもしれないし」
「保証人のいない外国人が犯罪なんてしたら、すぐに
心配そうに言ってくれるソアラに、
「正当な方法だ。犯罪じゃない。
いまだ不安げな顔の王女に、
「その値段でいい。市場価格はぼちぼち覚えるよ」
しかし、ソアラは
「どうした? もっと高く買ってくれる気になったのか?」
「……ある意味では、そのとおりです」
「うん?」
「ナオキさん!」
「うおっ」
ソアラがお
「ナオキさんは──」
パガァン!! 空気を打ち
つまり、小屋の
「あなたは、
ソアラが
「やっぱりな。若い女がこそこそ出かける理由なんざ、男しかねえって思ったぜ」
「ち、ちがいます! これは──」
「いいわけはいらねえですぜ
それを聞いた
口を引き結び、理性的な目の中に
とにかく──先ほどまでの未熟な〝少女〟の顔ではない。
「それは、わたしが
「へっ、あんたみたいな
それを聞いた
「では、わたしの不徳ではなく──あなたが故国を裏切る
「おおっとォ!」
ソアラが立ち上がって
引き金を引かずに、
「
「お、おう、わかった」
事情はわからないけどピンチだ。そして
しかし、小屋の
「
その言葉どおり、外にいる馬には
ソアラは男が
「──
「それ
「では、いまから
ピィッ! と
おおかっこいい。
しかし乗馬経験ゼロの
──
「うおおっ!?」「えっ──!?」
馬がどうっと横に
「王女
その声にはっと
男は身体の周りに
「お
先ほどの男とはまるでちがう
動く馬の頭を精確に
「仲間がいたのかよ! あの兵士、見た目に反して用意
「なんだてめェ!? その女はおれのエモノだぞ!」
小屋の角から出てきた兵士のひと言で、
「
「うるせェ! てめえこそ
仲間割れ──という
「まさかこいつらふたりは関係無い?
「そのようですね……」
ややこしいことになったようだ。
3人がお
その
「……
「当てる自信はあるのか?
そう
「どちらも、無いです。……弱肉強食の縮図ですね。
つまり、勝つのを
年下の女の子を置いて、自分ひとりだけ命
──
たったひと言、
「……そんなこと、できるか」
「わたしが
「ふむ……ルールか……」
いいことを言う。
つまりこれは、ルールに
見たところいちばん強い──すなわち、命中率が高いのが、黒衣の男。次に兵士。そして最後に
3人のプレイヤーの勝利条件は、敵対者に
その条件で、最適解を探せ。
「なるほど……つまり、これはゲーム理論だ」
「なっ、なにを?」
重い
「
「あ、あのっ、ですが──」
「いいから、僕に任せろ」
ふたりで持った
「てめぇらぁ! なにごちゃごちゃ言ってんだおらぁああ!!」
◯
そこからは、まるでせき止めた水が流れ出すように、
わたしたちの
ですが──それだけです。その身体のどこからも、血の出るようなことはありません。
当たり前です。ナオキさんがわたしの手を取って
次の
「っ────!!」
わたしは強く身体をひっぱられたような
こうなるのは
敵を
──そのはずであったのに。
「あ、あれ?」
わたしは生きていました。どこも、
生き残って、いました。
「大当たり。うまくいった」
地面に
わたしの
兵士と
信じられないことです。
その事実に
「……なぜ、ですか?」
わたしは、
「なぜ、あんな
わたしの疑問に、ナオキさんは
「これは最適化戦略の問題だ。いいかな? 単純化して、
言われて、考えてみました。
「それは……いちばん強い人を
「ちがうね。正解は──
ばあん、と口で言いながら、空に向けて引き金を引くふりをしています。先ほど同じことを実際にやりました。
「そんなことをしては、なにもできなくなってしまいます」
わたしはそう反論しました。しかし、ナオキさんは首を横に
「相手の立場になって考えてみてくれ。
「──もう
わたしたちを
その答えを聞いて、ナオキさんは笑ってうなずきました。
「大正解。同時に
わたしの受けている、この胸が苦しくなるほどの
「それでは……わたしたちは、弱いから生き残ったのですか?」
「そうとも言える。人は目に見える〝強さ〟で判断をしてしまいがちだけど、感じたものをそのまま信じるなんて、動物でもできる。目に見えない情報を理性で
「未来を、選び取る……」
心臓が、ひときわ強く脈打ちました。
それこそ。
胸を強く打つ
「数学は理性的
「──数学は、時を
出会った時からの
「ナオキさん……」
「ん、どうした? どこか痛むのか?」
手を
いまこそ、手を
「お願いがあります」
「な、なんだ?」
「わたし、デンタ・クーだけじゃなくて……ナオキさんを買いたいです!」
そう口に出すと、
ごくり、と
やがて、ナオキさんは迷うような口ぶりで、言いました。
「えーっと……欲求不満、とかか……?」
「よっ──!? ちがっ、ちがいます! ちがいますから!!」
わたしの一世一代の気持ちを
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