第一章 ゲーム理論で分かる! 男装王女の救いかた
第一章 ゲーム理論で分かる! 男装王女の救いかた(1)
「やつらの
その部屋は、とても
わたしを除いては。
それは当然のことでもありました。ここは国家の運営について話し合う評議会です。
人が3人は縦に並んで
そして、そのわたしには──その話し合いに参加しようという意欲が、まるで
やがて言いたいことを言い
そうして全員が
いわば最長老とでも言うべきかたで、こういった議事では
「あー……ごほん、王女
王女
わたしには軍権があり、いまの会議で
その呼び名のとおり、わたしは王の息女であるから。ここに
いずれにせよ、いまより先のことを見通すべき立場にあります。ここで話し合われることは、これより先の、この国の未来を左右するということです。それは、この部屋に集まる大人たちも同じなのです。
……同じ、であるはずなのに。
「〝いかが〟? いま、〝いかが〟と聞かれましたか?」
「そ、そのとおりですが」
「いまの話し合いで、意見は全てなのですね? あそこで守ろう
「それは……まあ……」
老臣たちは、お
その
「……かつて平和同盟という名目で結ばれた、不平等な条約によって我々の国を
「はあ……もちろんですとも」「当然だ」「そうしてる」「知ってるとも」
いまさらなにを当たり前のことを言っているんだ、という顔をされてしまいました。居並ぶ臣下たちからは、まばらな返事しかありません。
わたしは
「では、いつになったら、〝問題〟について話し合うのですか?」
その言葉に、ウィスカー候は
「…………はい?」
「聞こえませんでしたか? あなたたちは、〝問題〟の解決策をいつになったら口にするのか。そう聞いているのです」
「あ、ああ……ええと……」
ひそひそと、
ひとしきりざわめいてから、ようやくまとめ役のウィスカー候が、
「
その言葉に
「それは良かったです。それでは、言ってください。──〝問題〟は?」
「ですから、その話し合いをしていたのです。問題などわかりきっています」
「具体的に、言ってください」
「いま話していたではありませんか。……問題のことはわかっています」
「ええ、
「問題は……その……」
ウィスカー
できれば、家臣団のだれかから、わたしと同じ
「問題は」
わたしが声を発すると、全員の目が集まりました。その視線を見返して息を
「問題は──この世界が、弱肉強食というルールに支配されていることです」
老臣たちが再びざわめき始めました。わたしは立ち上がり、部屋の
「かの有名な血船王エイベル四世のオルデンボー王国。海向こうの
各勢力の
「そして、わが国。ファヴェール王国」
最後に、こんこん、と地図の上のほうにある国を小さくノックします。領土は決して小さくない。むしろ大きいとすら言えるでしょう。しかし、広くはあってもしょせんは北の大地です。雪と氷に閉ざされていて、人が快適に過ごせる領土はその半分以下でしかありません。
そこが、わたしの生まれた国。周辺の全てを、口にして語られるほどの強国に囲まれた、北の大地。ファヴェールという国でした。
「いまわたしが口にした全ての勢力が、過去十数年のうちに必ず戦争をしています。そこらじゅうで兵隊がはびこり、国が領土を
「
「おう!」「そうだ!」
うなずき合う
どうしてそんな話にしてしまうのでしょうか。
「ちがいます。わたしはむしろ、それを
「は?」
間の
「わかりませんか? 強い国が弱い国を
……だというのに、その時代を認めて、どうして
老臣たちはわたしから目を
「わたしたちは条約を
当初はこの国にある鉄や銅の鉱物資源を輸出して、経済に役立てるつもりでした。しかし、海の向こうにある他国と貿易をするには、オルデンボーの
いまや我々は、戦争で直接
男たちから重々しい
ウィスカー候がわたしを落ち着かせようとするかのように両手を見せる仕草をしながら、立ち上がりました。
「
「ただ話し合っているだけで強くなるなら、市場の女たちがこの世界で最も強くなれます。わたしたちには兵が無く、船が足りず、金も
ただ自分の望みを口にするのではなく、〝問題〟をはっきりと自覚して、それから話し合いをしてください。でなければ、この国に求められるような
「ならば、
かすかにわずらわしそうな
わたしは全員によく聞こえるように、しっかりとした声を心がけました。
「ルールを変えることです」
「は……?」
心して言ったつもりのわたしに対する家臣団の反応は、だいたい、ウィスカー
「……
「言葉どおりの意味です。わたしたちは、いまが弱肉強食という時代であるなら、時代そのものを否定せねばならないという意味です。
弱きが
こう
その
「
「できなければわたしたちは消えます」
白い
「そ──」
「次の
再び
「……そんなことは、短くても十数年ほど先の話ですから、この部屋の半分くらいのかたはそれでもいいかもしれません。ですが、わたしと、そして多くの
わたしの語る未来の話に、家臣たちは不満そうなうなり声を上げて目を
「そんなつもりは……」
「弱きは
「……それは……どのような……?」
そこまで言われてようやく、わたしの意見を否定する言葉ではなく、
まったく聞いてもらえもしなかった状態から一歩前進です。
しかし、
「わかりません」
「え?」
答えがわかっているなら、わたしは最初からそれを口にしています。
「ですから、探しています。そして、あなたたちにも探してほしいと求めています」
わたしにとってそれは当然の意見だと思ったのですが、
「「「…………」」」
評議会を
ついにウィスカー
全員が無言です。
まるで主君が失態を
わたしはいったん目を閉じて間を置いてみます。少し時間を置いたのです。
それでもけっきょく、部屋の中のだれひとりとして、わたしに
しかたなく、わたしは今日の会議を無駄と認めることにします。
「……敵国が進軍してくるまでには、まだ少し月日があるはずです。また会議をします。それまでに、わたしの言ったことをよく考えてみてください。それでは」
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