数字で救う! 弱小国家

長田信織/電撃文庫

『水着の角度を求めよ』

※この短編は、川上稔氏のレビュー記事「読書感想文「数字で救う! 弱小国家」」へのアンサー短編となります。予めお読みください。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054885551466/episodes/1177354054886067526


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「いいかいソアラ。よく聞くんだ。真面目な話だからな」


「あのっ、あのっ、このかっこうで真面目になるのおかしいと思います!」


「いわゆる算数や数学で語られる二次元平面上の三角形の求めかたは『底辺×高さ÷2』で済まされる。紀元前の数学者であり幾何学の父と呼ばれたエウクレイデス。またの名をユークリッドという数学者によって、2300年前から数学的証明が行われていたわけだ」


「続けるんですか!?」


「しかし、ユークリッドの幾何学は「歪みが無い空間において成立する」幾何学であり、現実的な世界では齟齬が出る。もっとも簡単なのが三次元空間で球面上に3点を結ぶ三角形をつくり、その内角の和を求めると180°を超えてしまうとかだ。つまり歪んだ三角形はユークリッド幾何学を否定する」


「説明しながらまじまじ見つめないでくださいよぅ……恥ずかしいんですから」


「そしてユークリッド幾何学の平行線公準についての数世紀に渡る論争はとある観測で決着を迎える。それは「光が湾曲する」という観測だ。アインシュタインが発表した一般相対性理論によって、時空の歪みも取り入れた非ユークリッド幾何学として扱うことが可能になった」


「まばたきしてませんよナオキさん?」


「アインシュタイン方程式である『Rµν − (1/2)gµνR =[(8πG/c^4)] Tµν』により、右辺に質量というかエネルギーを代入すれば、その物質の周辺の時空の曲率を求められるんだ。つまり、その水着のえぐい角度を数学的に求める場合、つまり……」


「つまり? どうして手を前に出してるんですか?」


「まずオパーイの質量求めるのが数学的に必然なんだよソアラさん!」


「いいい勢いで持ち上げようとするのダメですよぅっ!?」


「数学的だから! 大丈夫数学的だから! 数学的行為だからしかたないんですよソアラさん!!」


「だめですっ」


「ええっ、ダメか……本当に? マジで……? 土下座しようか?」


「だっ、だって、だって、だって……」


「だって?」


「その……褒めたりしてくれるのが先じゃないと、や、ですよぅ……」


「…………このままだと僕の中のエモみが無限大に集合しそうだよ」


「も、もうっ、無限大だなんて……ℵ0《アレフ・ヌル》でも褒めすぎです」


「なに言ってるんだ。もちろん2ℵ0だよ」


「え、えへへ……あれ? でも、それならどうやって証明するんですか?」


「……僕はほら、無限大集合とか専門外だし」


「証明できませんか?」


「カントール以上の天才にいますぐなれっていうのか!?」


「それじゃあ……やっぱりだめですよぅっ」


「あっ、ちょっ、ソアラさん――!?」






「うぅ……ソアラ、頼むから曲率を! 頼むから曲率を求めさせて……はっ、あれ?」


「ナオキさん? どうしたんですか?」


「えっ、あれっ、ソアラさん……普通の服だね?」


「? はい。普通の服ですけど。それより、大丈夫ですかナオキさん? 机に突っ伏したまま寝ちゃって、なんだかうなされていましたけど」


「――――ナンデモナイデスヨー」


 ははは、夢オチ。




◆次週より、文庫第一巻を特別連載スタート! 期待の新シリーズを見逃すな!

 第一回は電撃文庫公式サイトで掲載の試し読み範囲+αを掲載!!

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