第6話『二人のアカリ』
邪鳳将軍シュヴァルヴェルトと戦っているうちに、いつの間にか日はすっかり暮れていた。テップに合流するためにいったん村に帰るわたしは、その背後に迫る影には気づかずにいて……
「はぁっ![コードBF:バーニング・フィスト]!」
不穏な気配を感じて、即座に飛びのく。燃え盛る拳が大地に突き刺さり、土煙が巻き起こる。
「うんうん、反応速度はバッチリみたいだね」
即座に
土煙が晴れた奥に現れた人影。それは……
「わたし!?」
そこに立っていたのは、わたしそっくりの女の子。でも、身につけているものは全然別物みたい。
身体を覆うような白いスーツで包まれて、手足や頭を機械みたいなもので守っている。
わたしのニセモノ?でも、それならどうして成りすまして誰かを騙したりせずに直接襲ってきたの……?正体を見極めるために、
光の鋼鉄勇者 アカリ
Lv:1
HP:136/136
EP:38/38
物理威力:26
物理防御:14
スキル:
[コードSK:スパークル・カリバー]C+
[コードBF:バーニング・フィスト]D
[コードJW:ジェット・ウィング]E
えっ……?さっきの[コードBF:バーニング・フィスト]って、明らかにDランクの威力じゃないはず。もしかして……
光の鋼鉄勇者 アカリ?
Lv:■■
HP:---/136
EP:0/0
物理威力:■6
物理防御:error
スキル:
[こおどえすけえ:すぱあくる・かりばあ]■+
[コードnull:null]D
[コード■W:■■■・ウィング]E
もう一度見直してみたら、やっぱり。どんどんおかしくなっていくステータス表示を見て確信した。わたしと同じで[ステータス偽装]してるみたい、それも普通じゃ考えられないほど強力な……
「あなたは何者なの!?どうしてこんな事するの!?」
「私は、別の世界から来たあなた自身なの」
「わたし自身?別の世界?わたしが人間界からこっちの世界に来たみたいな感じ?」
いま言っていることは本当のはず。
「うん。私は魔法界とは違う世界、機甲界――機械テクノロジーが進化した世界――から来たの。いきなり攻撃してごめんね。シュヴァルヴェルトとの戦いっぷりを見てたら、どのくらい強いのかちょっと気になっちゃって……」
め、迷惑だなぁ……でも、気になっちゃったならしょうがないか。わたしにも本当のステータスが見抜けないくらい厳重な[ステータス偽装]に、今の攻撃。これだけでも強さが伝わってくるから、わたしだって向こうのわたしが気になっちゃうよ。
「わたしだって負けないよ!」
手に持ったままの
「はぁっ!
ぐぅぅぅぅぅぅ……
「そういえば、お昼食べてないや……」
ぐぅぅぅぅぅぅ……
「私も……」
「この先に、わたしが今拠点にさせてもらってる村があるんだ。あなたも来ない?」
「うん!」
わたしたちはお互い変身を解くと、二人並んで帰路についた。
――――――――――
「おかえり!あか……えっ?」
村に帰り着いたわたしの、もといわたしたちの姿を見るなり、テップは目を丸くしていた。元々丸いけどね。
「あれ……?ボク疲れてるのかな?」
「け、毛玉がしゃべった!?」
「紹介するねテップ、この子は別の世界から来たわたしだよ。向こうのわたし、この毛玉みたいな子はこの世界で出来たお友達なの」
「あかりが二人……別の……世界……」きゅう。
ちょっとびっくりさせすぎちゃったかも。テップ、また気絶しちゃった……
――――――――
東の森を守ったお礼に、村の人たちがパーティーを開いてくれた。
「ここの人たちって(もぐもぐ)みんなテップみたいな(もぐもぐもぐ)感じなんだね」
お肉にかじりつきながら喋ってるのは、機甲界のわたし。もう、飲み込んでから喋ってよぉ〜!
「まったく、もう少しボクを驚かせないように出てきてほしいよ。別の世界のあかりだなんてムチャクチャじゃないか……」
「あはは……ビックリさせちゃってごめんね。でも心強いよ、わたしだけじゃ騎械帝国の人たちに勝てるか不安だったもん」
「そう?(ごっくん)私は、『そっちの私』だけでも勝てそうだと思うけどな」
わたしも、人間界で言えばシチューに近い食べ物を飲み込んでから答える。
「それがすっっっごく相性が悪いんだよ〜、もう大大大ピンチ〜……」
わたしの魔法と『電撃を防げる機械の大群』との相性の悪さについて話した。
「それなら、私の攻撃はだいたい効くから大大大丈夫!囲まれたって[コードBB:ブラスト・ブレイザー]の熱光線で焼き尽くしちゃうよ!」
「ね、熱光線……?そっちのあかりはずいぶん物騒なものが出せるんだね」
テップはちょっと引いちゃってるけど……
「そうかな、雷とそんなに変わらないと思うよ?まぁ酸の竜巻とかも出せるから、そっちは確かに物騒かも」
酸の竜巻……はわたしもちょっとやだなぁ。
「でも、悪意を検知しないと防御できないのは大変そうだよね。機械がダメってことは落石とかで間接的に攻撃されてもダメなんだよね?そういうのはどうやって対処してるの?」
「ホントに困るんだよねぇそういう時。魔法だったら
「えっ!?魔法の世界でもゾンビとか生きた人形とかみたいなのとかならいそうじゃない?」
向こうのわたしは、驚いた様子だった。
「うーん……そういうのは闇の力で動いてたり動かしてる人の怨念がこもってたりするから浄化できてどうにかなるかな」
「なるほどね。私は逆に浄化とかはからっきしだったから、操られてる人たちを助ける時にすごく困ったなぁ」
「そうなんだ〜、その時はどうやって解決したの?」
「話すと長くなるけど、その時は頑張って傷つけないように振りほどいてから洗脳してるボスを倒したらみんな元に戻ったから良かったよ……」
「それでどうにかなるんだ……後でお話し聞かせてほしいな」
「うん、いいよ。そういえばけっこう特訓とかもしてたんだよね?どんな感じでやってた?」
「わたしは魔法を反射できるようになってからは
「ねぇあかり。あの電撃、最初に見た時すごく驚いたんだけど、あんなものをラリーしてたの?」
テップがおっかなびっくり聞いてきた。そういえば、テップに初めて見せた魔法も
「だったなぁ、じゃないよ!あの時は心臓が止まるかと思ったんだからね!?」
「ごめんごめん。ねぇ、そっちはどんな特訓してたの?」
もう一人のわたしに聞いてみた。
「廃線になった無人リニアモーターカーを使わせてもらってね。立ったまま片手で止めたり、その後また元の位置まで押し返したりしたのが一番驚いてもらえそうかな?一度か二度しかやってないけど」
「そんなの止めれるの!?」
向こうのわたしがそんなにパワフルだなんて思わなかったよ……
「ねぇ二人とも、リニアモーターカーってなんだい?」
テップが不思議そうにしてる。そっか、こっちの世界にはないもんね。
「リニアっていうのはね……」ごにょごにょ。
「え……?なんで……?」
「ん?もしかして魔法界って磁石もなかった?磁石っていうのは……」
向こうのわたしが説明してあげてるけど、多分そういう事じゃない気がするなぁ。
「違うよ!そこじゃないよ!なんでそんな事しようとするんだい!?なんでそれで実際にやれちゃうんだい!?もう訳がわからないよ!」
やっぱり。
「二人とも、ピンチの時の対処法が『頑張ってどうにかする』だって聞いた時には不安だったけど、その様子だとどうにかなりそうだね……」
そんなこんなでテップに困惑されながらも盛り上がって、夜も更けていった。
――――――――――
「そろそろ寝よっか」
「うん。ねぇ、さっき言ってたそっちのわたしの戦いのお話、聞かせてくれる?」
「いいよ。50年くらい前の事なんだけどね……」
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