第2話『襲来!魔王の影』

「ええ〜っ!?時間の流れが違う異世界で不老不死になって戦ってた!?」

「うん、[ステータス秘匿]が使えるようになったのもその時なんだ。強いのがバレちゃうと家族や友達が危ない目にあっちゃう事もあるから、普段は隠してるの」

 でも今朝は寝坊して慌ててたから、もしかしたら一瞬だけ解けちゃってたかも……?

 そっか、今朝、なんだね。なんだかあっという間だったような……


 ぐぅぅぅぅぅぅ……


 お腹鳴っちゃった、そういえば晩ごはん食べてないんだった……

「ご、ごめんごめん。立ち話もなんだし、ボクの住んでる村に案内するよ。」

 テップはそう言うと、岩があったのとはちょっと離れた方を指した……のかなぁ?

 さっきもだけど、指したというか、そっちの方を向いただけというか……

「ここから遠いの?だったら飛んでった方がいいよね」

「うん。陽も落ちてきたし、歩いてると夜になっちゃうかもね。じゃあ抱えてくれるかな。ちょ、ちょっと待って!まさか[不死鳥の双翼]フェニックス・デュアルウィングとか使わないよね!?それはマズいよ!」

 あ、そっか。いくらなんでも目立っちゃうもんね。じゃあ……えいっ!

「わわっ!?浮いた!?」

 わたし達の体が大きなシャボン玉に包まれながら浮き上がる。

「どう?[泡の風船]シャボン・バルーンだよ、これならたぶんそんなに目立たないよね?」

「十分目立つような気もするけど、まぁいいかな……」


 ――――――――――

「ちょっとちょっと!流されてる流されてる!」

「あはは……このスキル、風に弱くて……」

[風神の風袋]フウジン・フローターで風を操ってどうにかなったけど、危なかったぁ……

 ――――――――――


 そんなこんなでどうにかテップたちの故郷にやってきた……はずだったんだけど……

「あ、ああ……ボ、ボクの村が……」

 ――視界に広がったのは、辺り一面の瓦礫の山と、焼け果てた更地だった――

「ほう、遅かったな召喚士よ。うっかり巻き添えにして殺してしまったかと思ったぞ」

 ――そこにいたのは、漆黒の鎧に身を包んだ、見上げるほどの巨躯を持ったふてぶてしい怪物――

「あかり!あれは……魔王だ……!」

「……あなたがやったの……?村の人たちは……?」

人間ヒューマ族……なるほど。貴様が召喚獣か、面白い」

 ――アカリが突如放った矢が、魔王の顔を掠める――

「村の人たちはどうしたの!答えて!」

「ほう、スジはいいな。だが狙いが甘い、所詮小娘か」

(……違う、あかりはわざと外したんだ、ボクの仲間のことを聞くために……)

「安心しろ、生かしてあるとも」

 魔王が指を鳴らすと、空中から魔力の檻が現れた。

 その中には、テップによく似た生き物が、何匹も閉じ込められてて……

「みんな!みんなを放すんだ!」

「構わんさ、召喚獣だけ渡してくれればな!だが拒むようなら…こうだ」

 瓦礫が浮かび上がったかと思うと、はじけるように爆発した。

 魔法の強さだけならどうにでもなるんだけど、人質を取られちゃうと……

 魔王の言ってた事がヒントにならないか、わたしはひそひそ声でテップに聞いてみた。

(ねぇテップ、さっきから言ってる召喚士とか召喚獣とかって何?)

(その召喚士ってのはボクの事なんだ、魔王に対抗するために異世界からあかりを呼び出したから……)

(つまりわたしがその『召喚獣』……?)

 うん、大大大丈夫、それならなんとかできるかも!


「貴方の言う通りにすればいいんだよね?そうすれば、テップの仲間を返してくれるんだよね?」

「分をわきまえているようだな、こっちへ来い」

「ダメだ!あかり!身代わりになんて……」

 まだ気付いてない……よね?魔王はカエルみたいななっがいベロで舌なめずりしてるし……

「じゃあ、余計な事をされないようにバリアを張りますね」

 わたしと魔王を包む、半球状の巨大な光の壁[守護女神の鏡]ディフェンダー・オブ・アイギスを展開して、それから……

「おい召喚獣。わざわざこんな豪勢なバリアを張らなくても、虫ケラどもはもう手出しできんのではないか?」

 わたしは、魔王の言葉を無視して[きらめきの矢]トゥインクル・アローを構える。


「なるほど、『余計な事』とは物は言いようだな!余が虫ケラどもに手を出せないようにという事か」

「わたしは『こっちに来い』しか言われてないもん、後はどうしたってわたしの勝手だと思うな」

「だが、中途半端に知恵が回るのも困り者だなぁ!見たところ魔法反射のバリア、となればそんなものを放てば自滅は必至!かといって魔法を使わなければ余の膂力の前には脆弱な貴様に万に一つの勝ち目もなぁい!実に虫ケラらしい最期、せめて死に方だけでも選ばせてやろう!」

 放たれた光の矢は、魔王の背後の光の壁に一直線に飛び込んでいく。

 はね返された光の矢は、小さくなりながら何本にも分かれて、魔王をかすめながら更にはね返ってもっとたくさんの矢に分かれて、最後には目に見えないほど小さな無数の光の矢が、[守護女神の鏡]ディフェンダー・オブ・アイギスの中を満たして駆け巡る。

「バ、莫迦な……!そんな事をすれば、貴様も唯では済まない筈…………ぐあああああっ!余が!余がこんなところで……!」

[きらめきの矢]トゥインクル・アローは邪悪を祓う浄化の光。『闇』だけを焼き尽くすの、あなたにも無垢な想いが少しでもあれば完全に消えちゃう事はないはず。本当の想いを、本当の姿を、本当のあなたを教えてほしいな」


 ――まばゆい光に埋め尽くされるあかりを見守るテップと村人たちは、固唾を呑んでいた。自滅覚悟の特攻か、はたまた何か策があるのか。

 そんな村人たちの意識は、地面に放り出された事で引き戻された。魔力の檻が消滅したのだ。それが意味するのは、つまり――


「言ったでしょ?大大大丈夫だって」


 ――そこに立っていた人影は、あかりのものただ一つ。――


「おお……」

「勝った、勝ったんだ!魔王に!」

 村人さんたちが無事でよかった……でも、もっと早く駆けつけてれば怖い思いをさせないで済んだかも……

「あかり、『もっと早く駆けつけてれば』って顔だね。ボクだってあかりをもっと早く呼べてたらとは思うよ。でも、もう心配はいらないんだ。その事を喜ぶのも大事じゃないかな。」

「うん、そうだね。ありがとうテップ。」

 それはそれとして、目立たなくて速く移動できる方法はなにか身につけておかないと。今まで[不死鳥の双翼]フェニックス・デュアルウイングで速攻で駆けつけてばっかりだからあんまり考えてなかったなぁ……


「ゲコッ、ゲコッ!」

 わたしの足元にいたのは、太ったカエルだった。あれってもしかして……

「ゲコッ!?ゲッゲッゲッ……」

 あっ、わたしを見るなり逃げてっちゃった……


 ともあれ、これでこの世界の危機は去ったんだよね……?

 なんだかけっこうあっさりしてたような……


 ――――――――――

「ほう、『あちら』の世界の魔王が滅びたようですね……これで目下の障害は消えましたね。いよいよ侵攻の機会かと」

「ふん、たわけが。魔王を倒せるということはそれと同等以上の力を持っているという事もわからんのか」

「ヤツの恐るべき点は大いなる軍勢を率いているという事だけです。たしかに大軍があればどれほどこちらの戦力があろうとも必ず多少の被害は避けえない、それ故にそもそも戦いを避けねばいけませんからね。ですが逆に、個の力がいくら優っていようとも多勢に無勢。恐るるに足りません」

「だが、実際にはその個の力によって敗れ去ったという事を忘れるな。ヤツを倒した者について探ってこい。なんなら始末しても構わんぞ、できるものならな」

「はっ!陛下の仰せのままに」

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