最終章 もしも君が織姫だったとして 3
自室のベッドに転がりながら、
『やっぱり
結局、男子たちは何人かの女子とお祭りへ行くことに成功したらしい。だれが行くかまではわからない。
その中に
今日は家から出ないかもしれない。まぁでも、のんびりと休日を過ごすのもまたいいだろう。
そんなことを考えていると、妹が
「今日、七夕祭りだけど、おにぃは行かないの」
「あー、うん。今年は行かないことにした」
「ふぅん。そうなんだ」
「
「バカじゃないの」
短く言い放つと、
夏は日が長いけれど、
だというのに、いつもと空気が
うちから祭りの会場まではそれなりに
しかし、それよりも近くで何だか
その後ろから、「あんまり走らないでー」と母親らしき女性が声を上げているのが見えた。女性はふたり。それぞれの母親だろうか。共通しているのは、ふたりとも
はしゃいでいるふたりは本当に楽しそうで、まだ祭り会場に着いていないのに満面の笑みだった。楽しみで仕方がないといった感じ。ほんわかした気分になる。
……しかし、それと同時にえも言われぬ感情が自分に芽生えていることに気が付いた。
「………………」
自分でもよくわからない感情なのだけれど、なぜだか
久々に意識させられる、胸に開いた穴の存在。どうしようもないほどの
「あれ、なに。
「えー、あー、うん。ちょっと、コンビニ」
なぜ
自然と足は祭り会場へ向かっていた。まるで
屋台の間をたくさんの人たちが歩いていて、
他にもたこ焼きやお好み焼きから始まり、チョコバナナにわたあめ、りんご
ここは楽しい
なのになぜ、
あまり見られたくない姿だというのに。もし、遊びに来ているつばさたちに見つかったら、どう言い訳をすればいいだろうか。
「あ、よかったらどうぞー。願いごとを書いて、
そんな声が聞こえてきたので、視線を向ける。「パパ、
七夕祭りが
近くの
それを見ていると、何だか
「………………」
願いをさらさらと書いて、再び祭りの中を歩いていく。どこにつるそうか。別にどこでもいいといえば、いいのだけど……。
そこでひとつ、思い出したことがあった。
今では
そのとき、なぜか神社の
ほかの人はだれも気付いていない。
それにはしゃいだ幼い
「今も用意してくれてるのかな、あの
だから、あそこに
思い出すと、何だかとても気になってしまった。せっかくひとりで来ているのだし、ふらりと
さすがにひとりで祭りの場に留まっていても、楽しいことはないだろう。
そうと決まれば、すぐに
祭りの
いや、
足を上げるごとに光から
静かだった。
木々に囲まれた場所で、参道の先に小さな
しかし、しかしだ。
……しかし、ただの人ではない。
それだけでも「おっ」となるのに、その顔を見ればリアクションはそれで済むはずがない。長い
彼女の名前は
なぜ彼女がこんなところにいるかはわからない。けれど、それは
足音でだれかが来たことはわかったらしく、
何が言いたいのかは
「きぃくん、どうしてここに?」
「灯里ちゃん、なんで君がこんなところに?」
そう言いつつも、まさか、と思う。
彼女の手には
つまり、つまり、それは──、って待ったちょっと待った。
今さっき、彼女はなんと言った? 再び同じタイミングで、
「きぃ、くん……?」
「
なぜそんな大昔の呼び名が飛び出したのだろうか。
しかも、ふたり
わからないのに、なぜか
そのときである。
急に風が巻き起こったのだ。勢いのある突風に目を
小さな
そこで気が付いた。
木の葉を巻き上げているように見えたのだが、よく目を
「桜の花びら……?」
顔に張り付いたものを指で取ると、
しかし、おかしい。
季節は
いや、そうではない。
いつの間にか、大量の桜の花びらが風に
なんだあれは。
花びらの
大量の桜の花びら。
それは女の子の姿をしていた。
銀色に
あまりにも
「──
彼女は
彼女は一体何なのだ、と混乱している
「ドイツの詩人、ハンス・カロッサの言葉です。本当にその通り。たやすく
彼女が地面へ下り立つと、
そして、彼女は手のひらを差し出す。
その上にあるのは大量の桜の花びら──だが、それは
「すべては忘れ去られた物語。けれど、
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