最終章 もしも君が織姫だったとして 2
教室に入っていくと、
「どこ行くの?」
「いつものショッピングモールだよ。
「お、いいじゃん。おれは行く。
「ん、そうだね。行こうかな」
今日は特に予定もない。つばさを
机に
「そういえば、この前チラシ見たんだけど、
「七夕祭りのこと? あるけど、そんなでっかい規模の祭りじゃないよ?」
期待されても困るので正直なことを言うが、彼は「えー、でも祭りっていいじゃん。みんなで行こうぜ」とうきうきしながら言った。周りの男子も「おお、行きたい行きたい」「
「
「あぁ行きたい。つーか、行く。おれは射的やりてぇし。この前、
「あれ? そうなの? じゃあ、
「なんで? お前らも行くんだろ? 祭りなら大勢の方が楽しいだろうし、いっしょに行けばいいだろうがよ」
男だけのアホで
そして、後者を望んでいることは彼らの表情を見ればわかった。
そんな中、ひとり冷静な
「大人数の方が楽しいのはそうだけど、
「わかったよ。じゃあ聞いてくる」
つばさはさっさと女子のグループの方へと歩いて行ってしまった。相変わらず行動が早い。
「マジ? もしかして、
盛り上がってしまう男子グループ。みんながみんな女子のグループを見ないようにしながらも、必死で耳をそばだて、眼球だけを動かして様子を
「
「見たら死ぬ系のやつじゃないかそれ。俺の血管は
「お。
「んー……、いや、どうしよう」
なぜかはわからない。
いつもならふたつ返事だったろうに、どうしてだろう。自分でもわからなかった。女の子たちといっしょにお祭りだなんて、心
ほかに予定があるわけでもないだろうに。
つばさがあれこれと女子たちに説明しているのを、男子たちはひっそりと聞き耳を立てる。「えー? どうするー?」「男子といっしょかぁ」なんて声が上がる
その話の中で、つばさはごく自然に
「
つばさのその言葉に、
クラスの女の子たちといっしょに行くお祭りはもちろん特別だし、夏の思い出としては申し分ないのだろうけど、そこに
「えー? いやでもわたし、多分その日、予定あったと思うんだけど……」
しかし、
わずかな希望にすがりついたのだ。
「……あれ?」
「七夕祭りってこの日だぞ。何も書いてねぇじゃん。この日に予定なんて、ないんじゃねーの?」
「あれ……、おかしいな。本当だ。何か約束があった気がしたんだけどな……」
そう言って、
その約束事は結局彼女の口から出ることはなく、話は女子が男子と行くかどうか、というものへ
その様子を見ながら、
大事な、大事な、とても大事な約束を。
あぁだから、
でも、どんな約束か思い出せない。本当に約束したかも
……ような気がする。
そんな
気のせいなのだろう。きっとそうなんだろう、と
何か意味があってしたわけじゃないけれど、
朝からずっとまとわりつく
「………………」
裏返した面には、何もなかった。
なぜ、
「? どうかしたのか、
「いや……、何でもない。何でもない、はず」
そこで
「はぁい、
「今日は欠席者もおらず、全員出席ですね。みんな
生徒が全員
それにしては、生徒の数が足りないのではないだろうか。
だれか忘れているんじゃないか?
そうじゃなきゃ、こんなことを考えないだろう。きっと、存在感のある人がいないのだ。それがだれかはわからない。ただ、だれかが足りないということだけがわかる。
「……ねぇ、つばさ。うちのクラスってこれで全員
「は? 当たり前だろ、何言ってんだ。見りゃわかんだろ」
前の席のつばさに小声で
もちろんもも先生は気が付いていて、「そこのふたり、静かにしようね?」と人差し指を
「………………」
おかしい。そう思いつつも、
「
ふわりと
カットなんてできるわけもなく、
彼女は白球を
「今日は集中できてないんじゃねぇーの、さっきから返ってくる球が
放課後、クラスメイトたちと約束した通り、
そこで始まったのがこの
「このままだと、前回に引き続いておれの二連勝になりそうだな。ごちそうさん」
「ん? いや、二連勝はおかしいでしょ。前回は
「あ? 何言ってんだ、ケーキなんて
「あれ、そうだっけ……?」
そう言われると、そんな気がしてくる。前はそれなりに快勝だった気がしていたんだけど、これも気のせいだろうか。うーん。集中力どころか、
そんな精神状態で彼女の球をさばけるほど
それどころか、その日一日は
スポーツ
何となくプリクラを見ていたら、「何だよ、
そんなことばかりだ。どれも別に意図があって見ていたわけでないのだけど、気が付けば視線が吸い寄せられてしまっていた。
何だろう。
何なんだろう。
自分から何か大きなものが欠けてしまっている感覚。小さいころから大事にしていたタオルケットを取り上げられてしまったかのような、何とも言えない心細さ。
それがずっと
それも大事な、本当に大事なことを。
いつもと変わらない一日を過ごしているというのに、
穴は大きく広がっていて、そう簡単に
そんな気がする。
けれど、答えが出ることはなかった。
穴が開いたまま過ごしていく。
そうしているうちに、そんな
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