第二章 駆け抜けろ青春、まるで転がり落ちるように 7
「さ、いつまでも笑ってないで行きましょ。まだわたしたち、何も終わらせてないんだし」
彼女は立ち上がり、プールの方を指差す。確かにそうだ。
どうやら人は残っていないようだし、外から見られる心配を考えると、走った方がいいのだろう。収まっていない
だれもいない夜の学校に
「あは。なんだかドキドキするわね」
わずかな月明かりだけを
フェンスの
「
「そうだね。わかってたことだけど」
「そうなると……、これも乗り越えるしかないわよね」
そういうことになる。フェンスはそれほど高いわけでもないし、
これなら数秒と
「あ」
残念ながら
……うん、まぁわかっていたことだ。そんなラッキーはなかなか回ってこないってことを。
ふたりして地に足を着けたあと、目の前の光景に「おー」と声を上げた。
夜だからプールも暗くてよく見えないのかと思っていたけれど、
遠くの電灯の光、空にぽっかりと
予想していたよりも
「思ったよりも
しかし、
「きゃー、気持ちいい」
プールの近くにしゃがみこむと、ぱしゃぱしゃと
「水、冷たい?」
「ぬるい! ぬるいけど、ちょうどいいぬるさ! ここ最近ちょっと暑かったからねー、気持ちいいよ」
うーん、本当に気持ち良さそうだ。つい
彼女の
先ほどまで走っていたこともあって、熱くなった身体を
ぴかぴかと光るプールの水と、
「……むしろ、飛び込んでしまいたいわね」
「わかるけどさ。さすがにそれは、ね」
いくら何でも、プールに入るのはダメだろう。そのときは気持ちいいかもしれないが、あとが大変だ。現実的ではない。それは
しばらくはしゃがんで水と遊んでいたが、
しかし。
「……で、どうしよ」
『夜の学校にこっそり
あのアホっぽいミッション内容を思い出す。〝青春ミッションボード〟にはそう書かれていた。そして、
「クリアしたなら、きっと
「クリアしていないんだ、きっと。ミッションを達成できてない。でも……」
場所はクリアした。同行人もクリアしている。ならば、あと足りていないものといえば……。
「はしゃぎ方が足りない……?」
「そう……、なるよね」
はぁ、と
「でも、まだまだってことなのかな……? もっともっと、はしゃげってこと……?」
なかなかに難しい注文だ。そもそも、はしゃぐって言われてやるようなことじゃないし。プール以外に何もないこの場所で、これ以上テンションを上げるにはどうすればいいのだろうか。
「よし、やろ! もっともっと、はしゃごう!」
「ほら、
「白目に対する
しかし、そう指定されてしまうとやらなければいけない気がしてくる。よし。ミッションのためだ。
それを見て、
「よーし、わたしも
しばらくの間、お
あまりにカロリー消費の激しい運動に、先に体力が
「……………………」
「……………………」
周りを
「……うぐぅ」
突然、
泣き出しそうな声で、「は、
「でも、困ったね。どうしよう、これ」
「ね、本当にどうしよっか……」
「……あ」
何か
「あれ? あれってどれ?」
「あれだってば。ほら、真ん中のほう。見えない?」
「んー?」
そのときだ。
「はーい、ちょっと失礼しますねー」
「え、あ、あの、ちょっと、何を……?」
しどろもどろで
「お、あったあった。
ようやく
なぜかそこには、満面の笑みで立っている
「はい、どーん」
「え」
思わぬ
どぼん、と勢い良く水の中へ落ちていく。全身に水の温度が届いていく。不確かな視界と服が水を吸っていくのを感じながら、ごぼごぼと口から
「な、なにするのさ、
当然ながら、そんな
どうするんだこれ。帰りも電車だというのに──。
「……え」
ここまで
その光景がとても
しばらくは水の中でごぼごぼとしていた彼女だったが、飛び込むときと同じくらいの勢いで顔を出した。ぷは、と口を開く。
ぷるぷると首を
「あーッ! 気持ちイイ! 最高に気持ちいいよ!」
「いや、気持ちいいじゃないよ! どうするのさ、
「うるさいうるさーい!」
だれもいない学校内で、彼女の笑い声だけが
「やったな、このっ!」
「わぁ!」
その笑い声につられるように、
夜の学校に
しかし、しばらくはしゃぐとさすがに
「あー、すっごく気持ち良かったわ!」
満足そうに胸を張る
白いセーラー服はぴったりと
「ん。
残念でした、と
しかし、
彼女はそれを自覚していないらしく、
「……にしても、どうしようねこれ。どうやって帰ろうかしら」
「……いや、本当に。
「ぜんぜん」
へへ、と悪びれもせず笑ってみせる。まぁそれもそうだろう。後先を考えない無茶をしたからこそ、ここまで楽しかったことは否定できない。こんな
「きた」
「そうよ。ここまでしたんだから、来てもらわないと困るってものよ」
「ミッション、完了です。見事な青春でした」
光が消えた本をぱたんと閉じると、
ようやく。ようやくである。散々苦労させられたが、どうにかミッション完了までこぎつけた。
あまり元気は残っていないようで、「で、どう、
「いえ。残念ながら、まだ」
「あぁそう……、いや、何となくそんなことじゃないかと思っていたんだけど。じゃあ、また次のミッションが来るまで待機しないといけない?」
「いえ」
「次のミッションは
『ふたりの男女が心を
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