第38話 系外惑星探査へ向けて

 ネルソンの搭乗していた機体はトリプルDを大型化したものだった。その大質量を支える為、エビのような多脚の外観になったという。ユーロで開発中だった機体だが、コストがかかり過ぎる為、計画は中止されていた。その設計情報を盗み秘かに建造していたのだという。

 ゲイ・ボルグの特攻でネルソンの計画は失敗した。ラバウルが中破し、クー・フーリンが轟沈したのは半ば成功なのかもしれない。しかし、秋山は生きているのだ。これは俺達の勝ちだと言って差し支えないと思う。


 俺は斉藤和馬。先の戦闘では推進ユニットを撃ち抜かれ、早々に戦線を離脱したてしまった。情けない。

 ここは病院船『フローレンス』内の病室になる。ラバウルが中破してしまったため俺達はこちらへ移動していた。

 目の前に玲香がいる。最後まで踏ん張っていた彼女を褒めてやりたかったのだがまだ眠っている。イジェクトが間に合わなかったのか未だ目覚めない。記録では衝突直前にイジェクトを完了していた。


 コンコン


 ノックの音がした。秋山が病室に入ってきた

「玲香さんは?」

「ああ、まだ目覚めない」

「そうですか。守護天使とおしゃべりしているのかもしれないですね」

「そうかもな」

「きっとそうでしょう」

 そう言って秋山は玲香の手を握る。するとどうだろう。玲香が目を覚ましたのだ。

「あ、イケメン様。やだー恥ずかしい」

 そう言って秋山の手に頬ずりをする。

「ボク、誰かに会ってたんだよ。うーん。誰だったかな?」

「その人は守護天使って言ってなかったかな?」

「そうそう、守護天使って言ってた気がする。二人いたんだよね。男の子と女の子」

「子供だったの?」

「うーん。中学一生って感じだったかな?思春期ちょっと前?双子だった気がするよ」

「名前は覚えているかい?」

「うーん。フレイとフレイア、そうフレイとフレイアって言ってたよ」

「そうか、それは北欧神話の双子の神様の名前だ」

「えへへへへ。何だか嬉しい。双子の神様がボクの守護天使だったなんて」

「良かったな」

「うん。ところでイケメン様。ちょっと聞きたいことがあるんですけど」

「なんでしょう」

「ボクにぶつけなくても良かったんじゃないですか?ボクはね、天然とか鈍感とか空気読めない奴とか言われてますけど、そんなボクでもあれは傷つくよ。いやホント」

「申し訳ない」

 素直に頭を下げる秋山だった。

「玲香。そこまでにしろ。あれは、あのネルソンを出し抜く最高の作戦だった。お前も無事帰ってきた。文句を言う筋合いじゃないぞ」

「それはわかってる。ボク達が何やっても通用しなかった相手にね。イケメン様だけが勝ったんだから。あの鬼手はね、普通思いつかないよ。思いついたとしても理性が否定する。あ、そういえばフレイアもそうだって言ってた。女の子の方」

「守護天使はちゃんとわかってるんだ」

「うん。そう思うよ」


 守護天使。守護霊とも言うらしい。すべての人に一人ずつ存在していると聞いた。玲香の場合は二人付いているという事だろう。俺は今までそんな存在を信じたことはなかった。しかし、今、秋山と玲香の会話を聞いていると、今までの自分の認識は間違っていたのだと感じる。


 ネルソンの生死は確認されていない。彼もまた、義体を使用していると疑われているのだが、詳細は何もわかっていない。しかし、WFAの活動は沈静化していた為、ネルソンは死んだと噂されている。


 その後、系外惑星探査計画「オケアノス」は復活した。先の戦闘で、ゲイ・ボルグの有用性が確認された。今後、小惑星破砕作戦はランスではなくゲイ・ボルグが中心となる。

 

 7年前のテロ事件の際に破損していたアキツシマは修復が完了している。すでに、地球に迫る小惑星の探査に活躍していたのだが、この度正式にプロキシマケンタウリへ向かう探査船として決定された。月軌道上でもう一度、各部の点検と補修を行い、1年後に出発することとなった。


 その乗組員も公募されたのだが、俺は応募していない。何故かというと、妻の紀里香がアキツシマ副長として選出されたからだ。俺は一時軍を離れ、家事と子守を引き受けることとなった。

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