最終話 その旅立ちは未来への翼

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 俺はお腹が大きくなった女性を連れてきている。彼女の名は秋山アイリーン。

 そのアイリーンにじゃれついているのは俺の娘二人だ。

 天音あまねかなで。四歳と二歳の娘だ。

「おねえちゃん。おなかおっきいね。赤ちゃん生まれるの?」

「ええ。もうすぐ生まれるわ」

「あかちゃん。あかちゃん。かわいいあかちゃん」

 下の娘はまだしゃべり始めて間がないのだが、なかなか口が達者だ。

 二人でアイリーンの両腕につかまりぶら下がろうとする。

「こらこら。お姉さんはお腹に赤ちゃんがいるんだから大変なんだ。お前たちがぶら下がると迷惑なんだぞ」

「めいわくかな?」

「めいわくめいわく」

「パパが抱っこしてやる」

 すかさず飛び込んでくるのは下の娘の奏だった。

 奏を抱きかかえると天音がむくれる。

「パパ。私も抱っこして」

「わかった。こっちに来い」

 左手で天音を抱える。幸い、ここは重力が弱いので子供二人抱えるのも容易い。

 今いるのは戦艦シキシマ内に設置されたイベント会場だ。今からここで系外惑星探査オケアノスの記念式典が開催される。俺達は関係者の家族という事でここに招待されている。

「和兄ちゃんモテモテだね。もう羨ましいぞ~」

 そう言って声をかけてきたのは妹の美紗江みさえだ。こいつはまだ結婚していないので姓は三笠のままだ。

「本当にモテモテですわね。和馬さん」

 美紗江の後ろから出てきたのは秋山の妹、由紀子ゆきこさんだ。今は高校を卒業して、軍の大学へ通っている。実は、最新航法における理論方程式に関しては、この由紀子さんの力が大きかったと聞く。全くこの兄妹ときたら、二人でどれだけ人類に貢献しているのだろうか。

「ゆきこおねえちゃんのいくー」

「わたしも由紀子おねえちゃんがいい」

 娘が二人して由紀子さんに飛びつく。

「あら、私もモテモテですか。ありがとうございます。お姫様」

「おねえちゃんきれい」

 そう言って由紀子さんに甘えるのは奏だ。この娘は何故か美少女には鋭く反応する。

「あれ~私の方は無視ですか?もう、一緒にお風呂入ってあげないよぉ」

「天音、みさおばちゃんとお風呂はいるよ。いっしょがいい」

 風呂で体を洗ってもらえたのが嬉しかったのか、天音は美紗江に抱きついてしまった。

「羨ましいです」

 そう言って微笑んでいるのはアイリーンだ。

「君の所ももうすぐにぎやかになるさ」

「そうだと良いのですが、まだ不安でいっぱいなのです」

「今は無重力で無痛が主流だからものすごく楽になったって話だよ。私はまだ未経験だけど」

 美紗江が話しているのは分娩の話だ。確かに、依然と比較するとずいぶん楽になっているらしい。もちろん、その以前とやらをよく知っているわけではない。

「ありがとうございます。でも大丈夫です」

「ところで、秋山は意志を曲げなかったんだな」

「そうですね。昇進の話を蹴ってでもプロキシマ・ケンタウリに行くと」

「頑固だな」

「そうですね」

 宇宙軍としては、英雄となった秋山をオケアノスに参加させたくなかったのだ。全てが人類初、何が起こるか分からない。しかし、奴は進んで志願しやがった。しかも、新婚ほやほやなのに。

「三年も離れ離れになるんだ。辛くはないか?」

「それはそうです。辛い気持ちはありますけど、もう十分愛してもらいました」

 お腹をさすりながらアイリーンが答える。アイリーンはさらに続ける。

「それに、彼はきっと帰ってくる。間違いなく帰ってきます」

「自身満々だな」

「ええ。彼が私にこの時計を持たせてくれたんです」

 そう言って腕を見せてくれた。身に着けていたのは男性用の機械式腕時計だった。

「あの人が大事なものが2つ、いえ3つです。この大事なものの所へ必ず帰ってきます」

「3つというのは?君とお腹の子と?」

「この時計です。でも最初のは間違っています」

「間違っている?」

「ええ。私ではありません。あの人が命を懸けて守り抜いたもの、そこに見えている青く美しい星、地球です」

 そうか、そうだった。秋山はこの地球を守りたいのだと常々言っていたな。しかし、地球を入れるなら答えは違ってくるだろう。秋山の大事なものは4つになるはずだ。この事はあえて指摘しない。

 俺はアイリーンの言葉に頷きながら前を見る。壇上にはオケアノスに参加するクルーが勢ぞろいしていた。俺の妻紀里香、秋山、城島など知った顔がいる。


 彼らは3日後に出発する。


 人類初の偉業。未知の系外惑星探査へ向けて。



  了

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