第37話 直線番長

「操舵、B席へ譲渡しました」

「B席受け取りました。艦長、掘削機回転開始お願いします」

「秋山大尉。ぶつけるのか?」

 このゲイ・ボルグがいくら頑丈だとは言え、相対速度15㎞/sで衝突してはとても耐えられない。

「いえ、ほんの少し掠らせるだけです。相手はこちらが回避する無防備な瞬間を狙います。向こうが回避してくれたら儲けものですよ」

「分かった。進路は任せる。掘削機起動しろ」

「了解」

 

 艦首のドリルが回転を始めた。その回転で艦が細かく振動する。

 その時、クー・フーリンがビーム砲に穿たれて爆散した。

「クー・フーリン。轟沈。轟沈です」

「イケメン様。下にいた火竜を撃破。ネルソンではありませんでした。合流します」

「そうか。分かった。玲香さん、ゲイ・ボルグの後方について来てくれ。他のDDDは?」

「指揮は俺に任せろ。スマンが俺の機体ではついていけない」

「了解しました」

 斉藤大尉の通信だ。バリオンは散開し両脇にいた小型艦にビームを集中させた。その2隻は爆散した。しかし、中央にいた大型船はそのまま突っ込んでくる。向こうも回避する気はないようだ。

「大尉離れてください」

「分かった」

 バリオンはさらに散開していく。


 光学カメラが正面に大型船を捉えた。民間の輸送船を武装させた違法改造艦のようだ。俺は迷わずプラズマロケットを吹かし加速していく。後方からシロ02まるふたもついてきている。

「イケメン様。ネルソンじじいはどこ?」

「正面の艦内か、その後ろだ。玲香さんはゲイ・ボルグの後方から接敵をねらってくれ」

「わっかりました!」

 

 本当にそこにいるのか。確証はない。


 俺は更にプラズマロケットを吹かして加速する。

 ぶつからないように進路を微調整するのだが、向こうも衝突するように調整してくる。

「このままでは衝突します。後15秒」

「艦長。核融合ブースターを使いますよ。1秒だけGに耐えてください」

「分かった。各員、対加速G防御姿勢」

 相手の動き方はわかっていた。俺の調整に合わせて微調整してくる。一回フェイントを使う。これを読まれていては本当にぶつけてしまう。迷っている時間はなかった。

「後5秒」

 サリバン少尉のカウントに合わせ進路を変更しすぐに戻す。そして核融合ブースターを起動した。

 ほんの1秒の起爆だったが生身で味わうこの加速度は正に殺人的だった。ブリッジ内に加速度アラームが鳴り響いた。


 ゲイ・ボルグは改造輸送艦の上部に突き出ていた構造物をわずかに掠めすれ違っていた。そのままの速度で突き進む。

「このままだと月を使ったスイングバイの軌道には入れません。どうしますか?」

「例の新航法を使ってUターンすればいい」

「なるほど」

「操舵、A席へ戻します」

「了解。A席操舵受け取りました」

 操舵を渡し一息つく。

「秋山大尉。終わったのか」

「あの改造貨物船はもうついてこれません。WFA総裁のネルソンがどこかにいると思うのですが、分からないですね。私は改造貨物船をかわした後に攻撃を仕掛けてくると思っていましたが、この方向にはいないようです」

「そうだな。何もいないな」

 本当に終わったのか。不安感はぬぐえない。その時シロ02まるふたから通信が入る。

「きゃっ。何、機体掴まれた」

 光学カメラがシロ02まるふた、玲香の乗るハドロン改を捉えていた。シロ02《まるふた》は、伊勢海老のような恰好をした大型の機動兵器に掴まれていた。


「秋山君、聞こえるかね。WFA総裁のネルソンだ」

「ああ聞こえている。貴様の作戦は失敗した。直ぐに投降しろ」

「まだ終わっていないさ。こちらの加速度ではもう追いつけない。この、前途有望なお嬢さんを助けたければ減速しろ。直ぐに追いつく」

「分かった。艦長と相談する。少し待て」

「選択肢はないと思うよ」


 俺は一旦通信を切った。

「秋山君。どうするんだ。私としてはネルソンの言い分を聞くことはできない。この艦の安全と君の安全を考えるとな」

「分かっていますよ。ここで新航法を使えませんか。突入と回帰の座標を同一、ベクトルは真反対で」

「秋山君。まさかぶつけるのか。シロ02まるふた共々……」

「ええ、彼女は今、義体に精神移植しています。その方法ならあの伊勢海老みたいな奴を確実に撃破できるでしょう」

「なるほど。ランス搭乗員らしい発想だ。サリバン少尉、航路設定を急げ」

「了解しました。この設定……えっと、できます。可能です。設定終了、次元跳躍航法へ移行します。後20秒」

 俺はネルソンへ通信を開いた。

「秋山だ。今からそちらへ向かう。俺と玲香を交換する。そのハドロンのパイロットだ。それでいいな」

「良いとも。約束しよう。ふふふ」

「必ず玲香を解放しろ。そして、このゲイ・ボルグにも手を出すな」

「分かっているとも」

 俺がしゃべっている間にもカウントダウンは進んでいく。 

「5……4……3……2……1……次元跳躍航法開始します」


 その瞬間周囲は虹色の光に包まれる。義体でも肉体でもこの解放感は同じだった。これは、肉体ではなく魂が感じている快感なのだと、そう思った。


 唐突に周囲が暗くなる。


「通常空間に回帰しました。敵アンノウン接触します」

「玲香、イジェクトしろ」

「え?マジですか?」

「まさか。ワープで!!」


 その瞬間、ゲイ・ボルグは伊勢海老のような大型DDDと玲香の乗るハドロン改に衝突していた。

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