第36話 最後の攻防
翌日1200になった。
時間通りに始る新航法の実証試験。
テロを警戒するなら時間をずらすという方法もあると思うが、今回はむしろWFAの主力を誘引する事の方が大事らしい。
例の新航法以外はすべて既存の技術であるし、その新航法も他の艦艇では実証できている。囮作戦だとは向こうも理解しているのだろう。来なければそれで良い。この新しい小惑星破砕計画は確実に実現される。
「秋山大尉。退屈かもしれないが我慢してくれ」
「大丈夫ですよ」
ここは特殊改造艦ゲイ・ボルグのブリッジになる。艦の中央部分、しかも掘削作業専用に改造されているため、艦の外殻は硬度の高いタングステン系の合金を使用している。熱にも強く、レーザー等の光学兵器にも耐性が高い。
「後方100にクー・フーリン、250にラバウルです。ラバウルからDDD4機発艦しました」
報告してくるのは索敵班の真名曹長。
「他の反応はありません。DDDはハドロン改が2機、バリオンタイプBが2機です。ハドロン改はゲイ・ボルグを追い越します。前方に展開しました」
追い越すときに敬礼したのが斉藤大尉、クルリと錐もみ状の旋回をしたのが遠山兵長だろう。その柔らかくスムーズな操縦は新兵とは思えない上級の技術だ。俺にはああいう操縦は真似できないだろう。
今から月軌道へ向かいスイングバイで加速する。そこから火星軌道へ向かう途中で新航法の実証試験を行う。そういう計画だ。
囮作戦に呼応するとしたら、月軌道周辺だろうと予想されているのだが、俺の勘は今この時間が危ないと言っている。
前方にいた大尉の搭乗するDDD、ハドロン改は突然火を噴いた。やはり来た。WFAだ。
「シロ
大尉の乗ったハドロン改は背負った推進ユニットを切り離して減速後退する。
「何処だ、どこから撃っている」
艦長の問いに索敵班の真名曹長が答える。
「分かりません。レーダー反応無し」
「重力波探査始め!発砲点の特定急げ!」
「了解」
「当艦はどうしますか」
サリバン少尉の問いに艦長の指示が飛ぶ。
「進路そのまま。対ビームシールド展開。急げ」
「了解」
ビーム兵器の光線がゲイ・ボルグを掠める。
「発砲点特定。347-010」
「
「了解。アストロン発射します」
サリバン少尉の操作で対艦ミサイルが発射される。今回は6発しか積んでいないのだが、それを全部発射した。
目標が見えないのに攻撃するのは間違いではないか?
いや、大体の位置さえわかればいい。このミサイルを回避、または迎撃した瞬間を狙うのだ。
「アストロン着弾します」
前方やや左上で閃光を確認した。その衝撃で艦影が見えた。
そこを狙ってクー・フーリンがレーザービームを射撃する。
ビームは敵艦を貫き、それは爆散した。
「電磁波シールドを使ってくるとは難儀だな。気を抜くな。警戒怠るな」
「了解」
真名曹長が返事をする
「ラバウルよりバリオンタイプB発艦しました。ラバウルは加速しています。20秒後に本艦を追い抜きます」
巡洋艦ラバウルがゲイ・ボルグに接近してくる。
「ラバウル。盛んに重力波ピンガーを発信しています。おや?ラバウルのエンジンから出火。プラズマロケットエンジンが爆発しました」
「何があった。撃たれたのか?」
「ええっと。後方よりの射撃だと思われます。ラバウルより通信はいります。我航行不能。我航行不能」
敵の工作なのだろうか。ラバウルは沈黙してしまった。
「秋山。スマンな。DDD隊長機とラバウルが先にやられるとはな」
「大丈夫ですよ。まだ負けたわけではありません」
そうだ。まだ負けていない。月軌道上で待ち伏せていた艦隊からの支援が到着するまで十数分持ちこたえればよい。
電磁波シールドで姿を隠して接近してくる事は予想されていた。しかし、タイミングが違っていた。
「後ろのヤツ見つけたよ!」
遠山兵長から通信が入る。
「あったれ~」
シロ
命中した。良い腕をしている。バリオンタイプBもそこへ射撃を開始する。そこにいた艦は爆発し四散した。
これで終わったのか?そんなはずは無い。きっと何か隠している。前、前方だ。
「真名さん。前方に何かいませんか?」
「重力波ピンガーでは索敵範囲が狭いんです」
「光学ならどうですか?見えない星があるはず。隠れているならそこに違いない」
「分かりました。概ね前方の星の位置を確認します。データ照合開始」
俺の提案に乗って作業を開始する。
「アオ
「射線は概ね020-300です」
「そっちが本命か?」
「いや、前ですよ」
「見つけました。本艦の正面000-000に不可視領域を確認しました」
やはり前。何か大きい物体をぶつけてくる。直感的にそう思っていた。
「クー・フーリンに座標を指示、射撃以来しろ」
「了解」
「クー・フーリン。射撃します」
ビームは命中しなかった。しかし、高出力のレーザービームが電磁波シールドの不可視領域を壊す。そこには3隻の艦船が確認できた。
「玲香さん。下側の方がネルソンだ」
「ああ、イケメン様から直通でぇ。ボク、もう死んじゃうかも♡」
「馬鹿野郎!突っ込め!!」
「分かってますよ!!」
斉藤大尉の檄に反応してシロ
接触するくらいの至近距離でかわす。
その方法しかない。
そう思った俺は艦長に提言し、操舵を譲渡してもらった。
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