第31話 未知の強者
ゆっくり旋回するVTOL機。
その横腹からは複数の火砲が突き出ている。あれに一斉射撃されたら俺達も病院も全滅は必至だ。
そして目の前に立つ銀色の巨人。
原型はハドロンと思われるのだが、やや背が高く12m程度ある。バリオンを更に重装甲化したような骨太で力強いデザインをしている。
「ふふふ。チェックメイトだ」
ふいに通信が入った。
画面には白髪を長髪にしている初老の男が映っていた。
「はじめまして、三笠君。いや今は斉藤くんだったかな」
「どうして俺を知っている」
「当然さ。私の計画を邪魔してくれた大御所の婿だからな」
「大御所とは紀里香のことか」
「そう、紀里香とかいう名だったね。ムカつく名前だ」
「させない」
そう叫んだ玲香が切り込んでくるが腹の部分を左腕に仕込んだレーザービームで打ち抜かれる。
「このやろ」
さらに突っ込んで行くがレーザソードで右腕と胴体を切り裂かれて倒れた。クロ
「玲香!」
俺はそう叫んで実剣を投げる。しかしあっさりと打ち払われた。
「チェックメイトだと言っただろう。もう逆転は無理だよ」
その時ツバキが報告してきた。
「小松基地から発進したスクランブル機はアンノウンの戦闘機と交戦中。また空母しらさぎはアンノウンの攻撃を受け発艦できません」
してやられた。支援を断つ手立ても済んでいるとは……
「お前は何者だ」
「失礼。名乗ってなかったな。私はWFA総裁のネルソン、ネルソンガラナだよ」
「ネルソンガラナ……」
「もちろん本名ではない。まあ、抵抗を止めてくれれば命は奪わないよ」
「秋山を殺すんだろ」
「ああ、彼のような英雄を生贄にするのが良いんだ。効果があるんだよ」
「生贄だと……気違いめ」
「何時の時代も新しく事を始める者は気違い扱いされるのだよ。何時の時代もね」
「俺は生贄になどなる気はない」
秋山の声だ。どこから?
病院の屋上に人影がある。そいつは携帯用のロケット弾を構え、VTOL機のガンシップに向けて発射した。ロケット弾は見事に命中し、機体は爆散したがヤバイ。あの位置は丸見えで他のガンシップから狙い撃ちされる。
「させないわ」
ややハスキーな声で通信が入る。今度は紀里香の声だった。
直上よりレーザービームが数本、ガンシップに刺さる。
「雷光4機、衛星高度より突入して来ます。現在、高度4万mより急降下中」
ツバキが報告する。再び数本のレーザービームがガンシップに命中し爆散した。7機いたガンシップは全て撃墜された。
「またあの女か。忌々しい」
アンノウンのDDDは両肩から信号弾を発射した。
撤退の合図か。
「じゃあな。斉藤君。次はこいつと対等にやりあえるよう準備しておくことだ。名前は昇竜だ」
そう言い残して奴は消えた。電磁波シールドを展開したようだ。
数分後、雷光4機が低空まで下りてきた。翼を振りながら旋回している。
「和馬大丈夫だった?」
「ああ、何とかな」
「くっそー、あいつジジイだったのか。次はぜってー負けない。ボクが勝つ。このやろー」
コクピットから這い出てきた玲香が悪態をついている。相当腹が立っているようだ。無事でよかった。
「あの顔には見覚えがあります」
突然秋山が話し始める。
「クラージュの船内で見かけました。皆が楽しんでいた無重力イベントの最中に一人でむすっとしていたので覚えています。その後、コクピットに押し入って色々指示していたリーダー格の男だと思います」
「犯人は全員射殺したんじゃないのか」
「多分、義体に精神移植をしていたのでは?」
義体に精神移植をしていたのか。それなら撃たれても元の体に戻ればいい。実況見分の資料は改ざんされていたのだろうな。義体の犠牲者などという記録はなかった。
「ところで秋山。お前、動けたのか?」
「ええ、義体を使ってますから。ここは精神移植専門の医療機関ですよ」
「お前、やめるんじゃなかったのか?」
「ランスには乗りませんよ」
「そういう事か。わかった」
雷光が4機旋回している。
「一旦小松に降りるわ。和馬、またね」
紀里香の機体、赤と白のツートンカラーの隊長機はヒラヒラと翼を振り上昇していく。残り3機も彼女についていった。
「敵部隊の撤退を確認しました。パワードスーツ部隊の反応消えました。交戦中だった敵戦闘機も撤退。第一戦闘配備は解除されました」
ツバキの報告を聞く。
今回も運が良かったとしか思えない。
裏をかいたつもりが読まれていた。由紀子さんの戦術も不十分だった。天才の上を行くWFA総裁のネルソン。クラージュのハイジャック事件もこいつの策略だったのだ。今回の敗因はあのハドロンの改良型であろう昇竜の出現だった。
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