第15話 抗う者たち

「テロリストは二人。一人はアサルトライフル、一人は斧を持っています。シャッターを破壊し侵入する目的だと思われます」

 ミニョンの説明に俺達は顔を見合わせる。

「タツとユキは奥の倉庫に隠れるんだ。あそこはロックすれば容易に開けられない」

 ジャンの言葉にエミリが頷く。俺達は奥の倉庫に入れられドアはロックされた。

「ミニョン。いい。安全になるまではロックを開けてはダメ。分かった?」

「承知しました」

 俺達は閉じ込められた。

 外からはシャッターを開けようとしているのか、ガンガンと金属音が響く。

「お兄様。今のままではあのお二人は殺されます。助けに行くべきです」

 いきなり妹が無茶振りをしてくる。今は天才の方だ。

「助けるったってどうするんだよ。武器を持った大人に勝てるのか」

「修理用の工具があると思います。ミニョン。何かありませんか?」

「電気溶接用のトーチガンと破砕用のハンマーブレーカーの用意があります。ちょうどこの倉庫の奥、そこ、その工具収納ケースの中です」

 壁に備え付けのケースを開けると各種の工具類が並んでいた。

 ミニョンが指示しているのだろう。ランプが点滅している所の工具を取り出す。大きい方が破砕用のハンマーブレーカー。小さいほうがトーチガンらしい。俺は大きい方ハンマーブレーカーを持ち、妹はトーチガンを掴む。

「本来、人に向けて使用するものではありません。十分にご注意ください。ブレーカーには鋭利なピックを装着してください。トーチガンは電源ケーブルを接続したまま使用します。先端が目標に接触したらトリガーを引いてください。大電流が流れ一万度以上の高熱が発生します。どちらも殺傷能力があります。十分にご注意ください。犯人がシャッター内に侵入した後での使用が効果的だと推測します」

 ミニョンの指示に従いピックを装着する。AIのくせに法規は無視しているのか。このままじゃ俺達兄妹は傷害もしくは殺人を犯すことになるのだ。正当防衛にはなるんだろうけど、普通のAIならば全力で阻止する案件ではないだろうか。さすがは俺の妹が組んだ奴だ。普通じゃない。


 シャッターを破壊しているであろう金属音は響いている。その音が止みジャンの叫び声が聞こえた。直ぐに銃声がする。

「中に入ってきました。ロック解除します。姿勢を低くして接近、接触した時点でトリガーを引いてください」

 ミニョンの合図で倉庫の扉は開き、俺達は倉庫から出る。ジャンは撃たれたようで血まみれになって倒れていた。

「へへへ。別嬪さんがいるじゃねえか。こりゃ楽しめそうだ」

 犯人たちは日本語でしゃべっていた。坊主頭でずんぐりした背の低い奴と、長髪で背の高い奴だった。奴らは武器を置き二人がかりでエミリさんに襲い掛かる。エミリさんはモップで殴りかかるもののすぐに押し倒された。坊主頭は両手、長髪はは両足を抱えエミリさんを押さえつけている。

「犯人の意識がエミリさんに向いているわ。今がチャンスよ」

 妹が小声で合図する。俺たちは工具を構え犯人たちに接近する。

「この白い足がたまんねえな」

「おっぱいもデカいぜ。うーん興奮する」

 犯人たちは好き勝手にエミリさんを触りまくっている。彼女はは必死に抵抗しているが手足を押さえられ口も塞がれた。スカートが破かれ、エミリさんの足と下着が露になったところで俺たちは突っ込んでいった。

 俺は坊主頭のわき腹に、由紀子は長髪の背中に工具を押し当てトリガーを引く。

「ぎゃああああ」

 悲鳴を上げ犯人が悶絶する。

「なな何でこんな所にガキがいるんだ」

 由紀子はまだしゃべる長髪の喉に工具を突きつけトリガーを引く。喉が黒焦げになりそいつは絶命した。覚醒した妹は容赦がない。

「信じられねえ。ここんなガキにやられるなんて……」

 坊主頭は口から血を吐きながら、這って逃げようとする。エミリさんはヤツが置いていたアサルトライフルを手に持ち射撃した。そいつは一時痙攣した後動かなくなった。

「あなた達、隠れていなさいって言ったのに……でも助かったわ」

「ごめんなさい。俺達が加勢しなけりゃ二人とも殺されると思って」

「そうね。もっとひどい事されそうになったし」

「ジャンさんは?」

 エミリさんは首を振る。

「もたもたしない。今からここを拠点化します。辰兄様とエミリさんはシャッターの穴を何かで塞いでください。私はこいつらの携帯端末で小細工します」

 死体の持ち物を漁り携帯端末を取り出す妹。子供らしさは微塵も感じない。

 俺はエミリさんと一緒にシャッターの修復を試みる。折れ曲がったシャッターを叩いて伸ばし、真っすぐにする。そこへ適当なパネルを当てて穴を塞いでいく。

「私の方は終わりました。エミリさん。申し訳ありませんが、命よりもセックスを選ぶ設定としています。何か連絡があった場合、ここで性行為しているという返事をします。こいつらの声や喋り方をAIに再現させ通信します」

「あのー、私は何もしないけど、犯人を騙すためにそういう情報を流すわけよね」

「ご不満かもしれませんが欺瞞の為です。さあ辰兄様、情報を収集報告しますよ。エミリさんは周囲を警戒していてください」

「わかったわ」

「ああ」

 妹の特殊な能力、天才化とでもいうのだろうか。覚醒した時は二重人格のようだが違うらしい。潜在意識が解放されるだけで別人格ではないのだとか。詳しい話は俺には理解できない。妹とミニョンが情報を収集する。俺がそれを紀里香さんにメールで報告する。延々とその作業を続けていく。

 犯人は12名。ここで二人死んでいるので残りは10名だ。コクピットに4人。客室に6人だ。俺が無重力体験の時に見た違和感のある男性はリーダーの様でコクピットにいた。そこではAIが掌握され、クラージュはアキツシマとの衝突コースへと進路変更されていた。コクピットの乗務員3人は既に殺害されている。

「やっぱり自爆テロだわ。攻撃目標はアキツシマよ。作戦目標をアキツシマとの衝突回避とします。人命はその次とします」

 冷徹な天才児の言葉に息をのむ。

 確かに、クラージュとアキツシマが衝突すれば、クラージュ側は全員死亡確定だ。アキツシマ側の損害も計り知れない。何よりも優先なのは衝突の回避なのだ。決して人命軽視ではない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る