第14話 自爆テロへの対抗策

 俺は自分の携帯端末を使って紀里香さんにメールを打つ。

『自分たちは厨房に遊びに来ている時にハイジャックに遭遇したみたいだ』

 と。返事なんて期待してなかったんだけどすぐに返ってきた。

『自分の身の安全を最優先にしなさい。できれば艦内の情報を送って欲しい。でも無理はしないで。必ず助けに行きます』


 俺がメールを読んでいると、エミリが覗いてきた。

「紀里香さんってあの斉藤紀里香?アキツシマ副長の?」

 目を真ん丸にしてエミリが尋ねてくる。

「ええそうですけど、ご存知なんですか?」

「そうよ。日本に留学している時お世話になったの。日本で一番の親友なのよ」

「そうなんですか。同じ学校だったとかですか?」

「私は普通の大学で文学部よ。彼女は軍関係の学校だったわ。高校生のころからね、SNSでやり取りしてたの」

「どんな?」

「聞きたい?」


 その時ジャンが首を振りながら割り込んできた。

「タツヒコ。ダメだ。エミリは腐ってるんだ。正常な男子には毒だからその話には乗ってはいけないよ」

「え?それは何ですか?」

 エミリは笑いながら話しかけてくる。

「知らない方が幸せって事もい多いかもね」

「そうなんですか?」

 俺の言葉にジャンは頷いている。俺はその話題は終了させることにした。

 エミリも自分の携帯端末を使ってメールしているようだ。

「お、速っ、もう返事きたよ。紀里香暇なのかな?えーっと。タツヒコの事は任せる。安全第一に。必ず行くから待ってなさい。だってさ」


 とりあえず安心した。しかし、今は月と地球の間。本当に助けが来るのだろうか。


 その時妹の由紀子が手を挙げて発言を始める。

「発言よろしいでしょうか」

 突然大人びた言い方をする由紀子。いつもは生意気だが普通の小学生女子なのだ。しかしこの妹は時々人格が変わったかのように変貌する。

 俺はそれをよく知っている。由紀子はいわゆる天才であり、まだ小学5年生なのだがIQは150位らしい。しかも自分でオリジナルのAIを組んだりしている奴なのだ。コンピューターとネットワークには特に強い。こいつが天才的な能力を発揮するときは雰囲気が変わり口調も変わる。

「ここに隠れているだけでは情報の収集はできません。また、外部に通信している事が分れば抑えられるのは必至です」

「そうね」

 エミリが頷く。まあその通りだろう。

「私が提案する内容は以下の通りです。この宇宙船クラージュのAIを表と裏の二重構造へと変更します。恐らく犯人はAIを支配または停止させ宇宙船のコントロールを掌握します。当然通信管制も実施するはずです。そうされては何もできなくなり犯人側の思い通りになります。それを阻止する為、第二人格を構築し、表側から見えない裏側のAIとします。この裏側のAIにより、監視システムと秘匿通信を確保、それを通じて船内の様子を逐次報告します。その報告相手は斉藤紀里香さんのみとします」

「ああ、犯人を騙すんだね。何で紀里香さんだけに通信するのかな?」

 ジャンの言葉に由紀子が続ける。

「それは、この宇宙船がハイジャックされた事が大きいです。宇宙船は厳重な警備がされています。搭乗員だけでなく乗客も前日から拘束されます。このような環境でハイジャックを成功させるためには事前に用意周到な計画が必要とされますが、そのために特に重要なのが内部における協力者だと思います。つまり、月面の警備隊基地やアキツシマ内にもそういった協力者が存在している可能性を考慮しなくてはいけません。この船のクルーも疑ってかかるべきです」

「つまり外部の対応は紀里香さんだけに任せるんだね」

「はい、紀里香姉様にお任せします。そのためには内部の情報を正確に伝える必要があります。そのためのAI二重構造化です。時間がありません。即時実行すべきです。私に任せてください。5分でやってみせます」

「アミティエ聞いてたでしょ。出来る?」

 エミリの問いかけにアミティエが返事をする。

「予備のエリアを使用して構築する事は可能ですが、5分では不可能だと判断いたします」

「大丈夫。私の親友をインストールして。名前は……ミニョン。ミニョンがいいわ。その娘を中核として第二のAIを構築します。基本データは携帯端末に持って来てるの。送るから受け取って」

「了解しました…………。ミニョンのデータ受け取りました。再構成はどういたしますか?」

「私がやるわ。ホログラムでいいからキーボード出してちょうだい」

 壁のモニターを見ながらAIと話す妹。猛烈なスピードでホログラのムキーボードを操作し始めた。今時、こんな速度でキーボードを打つなんて芸当ができる奴なんていないんだが由紀子は特別だ。こんな天才な妹を持った兄がどういう気分なのかはこいつが知る由もない。


「うーん。困ったわ」

 由紀子は急に手を止めしかめっ面をする。

「ユキコどうしたんだい」

 ジャンが心配そうに尋ねるのだが、由紀子はベロを出しながらおどけて見せる。

「ミニョンのビジュアルを考えてなかったのよ。画像データ何も用意してない」 

「別にいいじゃないか。見た目なんか関係ないだろ」

 由紀子は頬を膨らましムッとする。

「辰兄ちゃんは黙ってて。せっかく可愛い娘組んだのに、名前も可愛いって意味のミニョンにしたのに、今のままじゃ見た目は雑なポリゴンだけで積み木の人形なのよ。これじゃ全然可愛くない」

「端末の待ち受けに使っている魔法少女MARIKAじゃどうかな?ものすごく可愛いじゃないか」

 ジャンの提案にも首を振る由紀子。

「ジャンおじさん。著作権ってものがあるのよ。勝手に使えないわ。それに、私が組んだAIだから私のオリジナルの超可愛い娘にしたいじゃない」

「じゃあさ。お前の姿を使えばいいじゃないか。お前はそこそこ可愛いし、双子の妹とかさ、そういう設定にすれば問題なさそうだぞ」

「何言ってんのよ馬鹿兄貴!それってものすごく恥ずかしいじゃないの。馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿の大馬鹿!!」

 顔を真っ赤にして怒鳴る由紀子である。

「そんなに怒らないの。中良くしなさい。私の子供の頃の写真があるから、これ使ってみる?」

 エミリさんが写真を見せてくれた。

「エミリさん良いんですか?え?コレ?超可愛い。可愛い。可愛い過ぎる~」

 と、狂ったようにキーボードを操作する妹。すぐに完成したようだ。

「できた!!」

 と叫ぶ妹。画面に10歳くらいの金髪白人女児が出てきている。にっこりと笑うと頭を下げた。

「ミニョンと申します。現在の状況は十分に把握しております。皆様の生還を第一にお手伝いさせていただきます。よろしくお願いします」

 その少女は豪華なドレスをまとい微笑んでいる。それは、子供の頃のエミリさんそのまんまだが服装をお姫様にしているのだ。いったいどんな魔法を使えばこんな真似ができるんだろうか。

「ミニョンはアミティエの妹って事にして。お願い」

「かしこまりました。由紀子様。おや、アサルトライフルを携帯したテロリストが戻ってきました」


 厨房に隠れているのはバレている。俺達を殺しに来たのか。それとも他の目的があるのか。

 あちら側としては行動が把握できない別室で船員を野放しにはできないのだろう。当然の行動だった。

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