第33話 新兵器護衛

 俺達は衛星軌道上で改修中の新兵器の所へ来ていた。

 

 駆逐艦を掘削機に改造して小惑星を破砕するという特殊作戦艦だ。全長は50m程。細長い艦体の先に掘削用の巨大なドリルが据え付けられている。元々の艦名はラエ。外観はもう別物と言っていい位に改修されている。この新兵器には名前がまだついていない。

 隣には大型のレーザー砲を抱いた別の特殊作戦艦がいる。こちらはポートモレスビー。周囲には多数の運搬用シャトルや工作船がいる。また、宇宙服を着ている作業員も多数いた。この2隻を護衛する事が今回の任務だった。

 

「こいつは駆逐艦というよりミサイルだな」

 周囲を警戒しながら俺がつぶやく。

「ドリルミサイルって感じですね。何だかアニメに出て来そうなスタイルだよね。ボク、こういうの大好き」

 今はバリオンで哨戒中だ。宇宙戦用の装備で固めている。

 今回も玲香が俺の相棒になっている。これは仕方がない。俺以外に玲香を引き受ける奴がいなかった為だ。ここにはDDDパイロットを後4人連れてきている。しかし、皆、玲香の先輩であるにもかかわらず玲香と組むのを断りやがった。

「ねえ大尉。聞いてる?少佐の事ばっかり考えてるの?それとも可愛いお嬢さんの事かな?」

 少佐とは妻の紀里香の事だ。相変わらず俺の上官である。紀里香との間に娘が二人いるのだが、まだ1歳と3歳だ。当然と言えば当然の振りだった。

「いや。お前の事だ」

「やだー。それ、愛の告白ですか?ボク、大尉の事嫌いじゃないんですけど告白はちょっと困るなぁ」

「どうして告白の話になるんだ。お前が面倒だという話なんだが」

「えー。ボクがお荷物だって事?」

「お前の面倒を誰も見たがらない」

「何で?ボク、可愛くないの?」

「可愛いとかそうじゃないとかの話じゃない」

「じゃあ何なのさ。ボクが嫌いって事?」

「違う。もう喋るな」

「え~大尉のケチんぼ。もうちょっと相手してよ」

 こんなやり取りも平常運転である。

「今日は暢気だな」

「そうだね。何も感じないし、何もないと思うよ。ボクの勘はよく当たるんだ」

「知ってる」

「任務終了まであと3分です。帰還準備に入ります」

「分かった。任せる」

「進路変更、ラバウルへ向かいます」

 AIのツバキが報告してくる。ラバウルは護衛の巡洋艦だ。俺達のねぐらも今はそこになっている。

「もう帰還。もっと飛んでいたいなぁ~」

「我慢しろ」

「はーい」

 不満げな玲香を引き連れ、俺はラバウルへ着艦した。

 

 その後、数回哨戒任務に当たるも何も起きなかった。しかし、転機は訪れる。


 秋山と技術将校の山本大佐が乗艦してきた。3機の新型DDDと共に。


 俺達はミーティングルームに集められていた。

 話しているのは山本大佐だった。

「原型はハドロンですが、安定化の為出力を押さえてあります。代りに外部リアクターを強化してあります。この為、機動性と火力が大幅に向上しています」

 高機動型ハドロン改。ビーム砲標準装備で宇宙戦専用の機体だった。

「明日よりこの機体の実証試験を行います。参加者は秋山大尉と斉藤大尉、それと」

「遠山上等兵であります」

「そう。遠山君だな。君の才能には期待しているよ。よろしく頼む」

「了解であります」

 きちんと敬礼する玲香である。新型機搭乗に期待しているのだろうか。今日は大真面目だった。


 俺達三人は食堂へ行き食事を取っていた。

「早かったな。もう体は動くのか?」

「ええ、問題ありません」

「じゃあ、思いっきりイチャイチャできるね」


ゴツン!


 こうして拳骨を食らわせるのも俺の日常になっている。

「この馬鹿者。秋山にはな、ちゃんと彼女さんがいるんだよ。余計なちょっかいを出すんじゃない」

「えー。ボク知らなかったよ。何て名前の人?」

 秋山の顔を見ると頷いている。喋ってもいいって事だろう。

「シキシマの操舵士。アイリーン時山少尉だ。長身で色白の美人さんだぞ。お前とは月とスッポンだ」

「ボクが月かな?」

「お前がスッポンだ!!」

「もう酷いな。そんなに可愛くないの?」

「ん?スッポンは可愛いだろうが」

「え~。ごまかすの止めてよ」

 秋山は声を出して笑っている。

「秋山様。今のウケましたか?ウケてますよね?ボクだって月とスッポンの意味くらい知ってますよ。わざとボケてるんですよ」

「分かってるよ」

 秋山が笑顔で返事をする。玲香の明るさは場を和ませる良いアクセントになると思っている。ボケも絶妙だ。

「ところで秋山。ここに来たのは囮か?」

「恐らくそうでしょう。地上だと何処から攻められるか判りづらい。しかし、此処なら攻撃意図を読みやすい。紀里香さんにそう説明されました」

「なるほど」

「それに、此処なら民間人への被害は最小に抑えられる」

「そうかもな。自分の事はどうなんだ。ここの方が死ぬ確率は高いと思うが」

「そういう事は深く考えていませんよ」

 あっさりと返事をする秋山だった。

「大丈夫。ボクが全力で守ります!!」

「ありがとう。心強いよ」


 その時だった。TVのモニターにニュース速報が流れる。


――ユーロとPRA連合の空爆開始。目標はイラク北東部にあると推測されるWFAの本拠地――

 

 対WFA作戦が始まった。AALの承認の元、ユーロと我らPRA(環太平洋同盟)の作戦が開始された。




 

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