第21話 悪夢コソガ永遠――現実ハ泡沫ノ如ク


 あの怪異から三日。豊岡村高校は雑な復旧を終えて、またいつも通りの登校をすることになった。

 校庭にできたヒビや体育倉庫の火事は、地盤沈下の影響だという名目で処理された。

 まるで学校側も今回の怪異について知っていてあえて隠しているかのような対応だった。だが、わからないものには理由を作らなくてはならないのだろう。そう司は納得することにした。


 大輔の様子が心配で、彼の家に電話したところ、本人ではなく母親が出て事情を説明してくれた。

 どうやら大輔は、自室に引きこもったまま出てこないらしい。

 事件のショックで、ふさぎ込んでしまったようだ。


 彩女のことも心配だったが、そちらは司から連絡する必要はなかった。

 彼女はわざわざ一時間以上の距離を歩き、司の家に見舞いに来てくれた。


 そう、司自身の精神もまた、限界ギリギリまですり減っていたのだ。すっかり気力を失ってしまった司の姿を見て、彩女は切ない表情をしていた。

 だからなのか、登校日である今日もまた、彩女は朝早く起きて司の家を尋ねてきてくれていた。

 彼女も辛いはずなのにこうして気にかけてくれることを、司は心から感謝した。


「あの、司さん……本当に大丈夫ですか?」

「ああ……ただ家に籠もっているだけじゃ、逆におかしくなりそうだ」

「そう……ですか。では、私も一緒に行きます」


 彩女だって当事者だというのに。司はなんと身勝手な言い方をしてしまったのだろうと自己嫌悪しながら反省した。だが、彩女は全く気にした素振りもなく司を気遣っていた。

 だから司も、無理してでも明るく振る舞おうと思った。

 たとえ空元気だって、いずれ時が経てば本物になるはずだ。


「それじゃ、行こうか。今日は歩きだから早めにでないと」

「そうですね……すみません。私も自転車を持っていれば」

「いいって。こうして来てくれるだけでありがたいんだし」


 そのようにお互いを気遣う会話を何度も繰り返しながら、司と彩女は学校への道を歩いた。

 空を見上げると、いまだ暗い雲に覆われていた。

 そんな陰鬱な天気でも、彩女の混濁のない澄んだ声を聞いていると少し心が洗われるような気がするから不思議だ。


 そうして二人が山道に差し掛かったときだった。


 こつん。


 高い靴音が、辺りに響く。


 こつん、こつん。


 振り返ると、背後の空間に歪みが生じていた。


「あ、あれは――まさか……」

 司がそれを見て呆然と呟く。


 彩女も瞳を揺らしながら口元を抑えた。呼吸が細く短くなる。

「あ、ああ……そんな……」


 歪みの中から、ボロ布をまとった人物が――無貌の狩人が、姿を現した。

 恐怖に震える司たちのことを気にもとめず、それは山道を歩いていく。

 靴音を響かせて二人の横を通り過ぎる。

 やがて、再び空間の歪みの中へと消えていった。


 この怪異は、終わらない。

 それはきっと、救いもない。

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