4.社会の窓から始まる恋 久保 良文様
人の心とは複雑怪奇であり、至極単純でもある。
仕事が忙しい時に新しい仕事を持ってこられると、それはもう嫌な気持ちを抱くのも無理のない話である。
上司からの指示で、事務所の引っ越し作業で忙しさ真っ盛りの事業所に持って行けと、10円玉の束を渡された。経理を担当しているその事業所で処理をしなければならないものらしい。
こんなん絶対嫌がられるやんと言う思いを胸に秘めず、「本当に持ってくんですか?」といやいや尋ねるも、上司は笑うばかりであった。
本当にいやいや持っていくと、当然事業所の職員たちは不平不満をもらしていた。私はきちんと責任逃れをするために、上司からの命令であることをことさら強調した。賢い人間である←ちっちゃい人間だよ
その翌日、上司は大量のチーズカップケーキを購入していた。で、それを10円玉を持って行った事業所に持って行くようにと指示を受けた。
「本当にいいんですか? ありがとうございます!」
先日は疲労と怒りで赤子の手をひねりそうな(誤用)顔をしていた職員たちは、喜色満面の笑みを浮かべていた。
不満しか口にしなかった彼ら彼女らも、ひとしきり上司に賞賛と感謝を述べていた。
上司のその件を報告する。
「これが人心掌握だよ」
初めにあえて嫌なことを押し付け、そのあとに労いのご褒美を与える。
単純ではあるけれど、下げて上げる。実に見事なものだと思ったものだった。
というかそれを渡す時に
「僕からです!」って言っておけば自分の株が上がっていたのだろうな(ゲス顔
社会の窓から始まる恋 久保 良文様
https://kakuyomu.jp/works/1177354054889678802
恋。恋かあと思わず呟いてしまう私も、そんなに若くないなあと感じる。
とりあえずあらすじから。
堅苦しくてちょっと古風な思考をしている安田虎次郎は、一介の高校教師である。
普通(普通ではない)の彼も人間であるため、とあるきっかけで恋に落ちる。
そのきっかけとは日常で体験している人もいるかもしれない、ほんの些細なことであった。
でも恋のきっかけなんてなんだって良くて、数多の偶然を運命と感じ取れば、どのようなことだって真実である。
で、そのきっかけというのは
「チャック空いてますよ」
彼の社会の窓が全開だったことである。
こうして彼は、チャックの女神(真に受けないで)千鳥さんと恋に落ちるのである。
チャックの中にリスを飼っていた場合ってなんて言うと思います?
もうおわかりですね?
チャックノリスです(今だ。こいつをやれ!)
ふざけた茶番はともかく、まずは感想を言ってしまいましょう。
とてもおもしろくて、いいじゃないですか!
更新分を読ませていただいた感想をレッテル張りしてしまうのもどうかと思うのですが、素直に言います。感想として抱いた要素は森見富彦先生の小説に近いスパイスで味付けされていますね。
「夜は短し歩けよ乙女」+「太陽の塔」+「四畳半神話体系」+「DSのゲーム、きみのためなら死ねる」
恋愛物でありながらも、タグである通りループものであるという要素は、同じ要素を持っていても展開が変わっていくことに醍醐味があります。
行動の変化によって思考も変わり、行動も変わり、展開も変わる。とても難しいギミックですが、うまく描き切れるものってえてして名作なんですよね。
「CROSS†CHANNEL」に「シュタインズゲート」に「四畳半神話体系」もそうです。いいですねループ物。好きすぎてそういえば過去に書きましたもん。
ループはギミックであり後の核心的なものでしょうが、主題としてはあくまで恋について、です。
きみのためなら死ねる、も恋が成就するまでの物語です。というか作中にラブラビットとか出てくるなら、嫌でも意識してしまいます。まあモチーフ的にはうさぎと亀のようですが。
あとはポルノグラフィティのミュージックアワーという曲でも、恋するうさぎちゃんがでてきますね。
「きみのためなら死ねる」なんて、私なら絶対にそんなセリフは言えないので、少しあこがれもあったりします←このお話ではそんなセリフでてきてねえから。
作中で、恋は馬鹿にしかできないと豪語する場面があります。
自分のすべてを投げうって、打算や計算なんて思惑のとりこになったりせずに、全力で取り組むことなんて、確かに馬鹿者にしかできないのかもしれません。
それほどまでに衝動で突き動かされる思いに身を委ねる。それはさぞかし快感でしょう。
恋について考える時、生物学者の考えが頭をよぎります。
「利己的な遺伝子」リチャード・ドーキンス著という書物の中で、男女間の恋愛関係に至る過程は、あくまでも利己的な戦略だということらしいです。
なんで世の中の動物界の雄たちは雌に求愛するのか。たとえばクジャクのように着飾ったり、ハチが特別なダンスを行い求愛するのか。
その答えを導き出すには「生物の目的は自分の遺伝子の数を増やしていく」という前提を必要としています。
雄が遺伝子を残すためには、当然雌に受精をしなければならないのですが、もし求愛なんてまどろっこしいことを必要としないで、好き勝手に受精を許したとしたら、雄と雌ではどっちが有利か。
それは雄ですね。
精子の量と卵子の量では精子のほうが圧倒的に多く、たくさんの遺伝子を残すためにはいろんな雌と交わればいい。
でも雌の遺伝子も子供は受け継ぐので、WINWINの関係。
とはならないんですね。
それは子育ての時間、手間などをほとんど雌が負わなければいけないというところに不公平性があります。
雌が子育てをしている間に、雄は自由だからいろいろな女性をとっかえひっかえできてしまう。
そのための戦略として、雌は雄の交尾を拒むという戦略が生まれたそうです。雄はそのために雌に求愛しなければならないというコストを負うことになった。
そして雌側も、遺伝子を残すのであれば、遺伝子を世界の中で最大化するために、より生き残りやすい遺伝子を選別したほうが効率もいい。
だから雌は雄のことを吟味するいろいろな材料が必要。それは力強さだったり、能力の高さだったり、豪奢な見た目だったり。雄をいろいろな要素で選別する。そうして男女の駆け引きが生まれた。
なんとまあ夢のない話かもしれない。恋愛とは弱肉強食だという言葉もありますが、それはおそらく真実だと思います。
モテるためには、なんらかの優れた資質が必要であるそうな。明晰な頭脳? 力強い肉体? 安定した精神性? なんでも尽くしてくれる親愛性?
全てにおいて網羅的な人物はいないでしょうが、そうなると優れた何かを持ってないと自覚した時、それはとても生きづらいでしょうね。
だからこそ、虚構の恋に憧れるなあってわけですよたぶん。
作中で寅次郎は、千鳥さんをデートに誘う。映画を一緒に見てドキドキする。あわや告白のような言葉を言ってどぎまぎする。男女間の関係が変わるかもしれない葛藤に意見をぶつける。恋に恋することを憧れる奴らに追いかけられる。
誰もがあこがれの恋を求めて西へ東へ。
恋愛関係でない仲の良い変人女性、鈴木とのエピソードは男女間の友情とはといったテーマを感じます。
男と女がいれば絶対に恋愛関係に陥るわけではないだろうし、その気もない(ちょっとはあるかもしれない)のだけど、人の感情ってそれもまた人に影響を与えていく。
亀の団という恋愛に恵まれていない者たちの団体(語弊がでそうだ……)は他者の恋に寛容になれずに暴徒と化す一面があります。
ああ哀れなり。でも共感もできる部分はある。
取れなかったぶどうはすっぱいぶどうだと言い張って、でも本当はそのぶどうを食べたいと思う狐のよう。
恋に振り回されるその煩わしさは、成就しようが道半ばとなろうが、どっちにしろ疲れるだろうし自分でコントロールできない感覚には嫌気がさしそうです。
でも、そのどうしようもないエネルギーに突き動かされる情熱こそが、恋の醍醐味なんでしょうね。
「かぐや様は告られたい」赤坂アカ著の中でも、真実の愛はなんだろうとかぐや様が相談する場面があります。
そんな中、後輩の石上は言います。
「各々が心に抱く愛の形が、真実の愛だとなぜ気づかないのですか」
素晴らしいセリフですね(鳥肌
あああああむずがゆいと思いつつも、なんだかわかる気がする。
文章の古風な雰囲気は主人公のキャラに合っているし、地の文と会話の配分もとてもいい。それでいてくどくなりすぎないくらいにバランスがとれています。
物語の性質上、ループするということはおそらく望まれた結果にたどり着くことができるでしょう。様々な過程を経て。
恋に恋する馬鹿者を少しでも眺めたければ、この物語を読まれることをおススメしますよ。
というわけで、
完結したら誰か呼んでください(完結物語至上主義)
(物語の内容よりも、言いたいことの前振りのほうが長くね?)←いつものことだよ
そういえば今回、今までとは違い意図なくはじめたため、ルールめいたものがなかったので、少し考えていることを記します。
2年前の感想でもやったような、キャラクターものの感想(ゴリラとか)も気が向いたらやるかもしれません。
そしてくじびきで読む順番を決めていましたが、今回は独断で読みたい順に読みます。
で、今回は物語の紹介分はすいませんがないです。過去の紹介分を見たことで、過去の自分を八つ裂きにしようと思ったくらいです(羞恥)
まああの時のテンションであったことも事実であります。間違いなんてないさ。今の自分に力が足りないだけのこと。
最後これが肝心なことなのですが
全部読む←自分への死刑宣告
約13万
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