24話 夏休みが明けたから本気出すⅢ
後日。
つまり夏休みが明けてからの最初の登校の日。
昨日はあの後、アルフォード先生が紹介すると言ってた協力者の一人と予定が合わなかったということから、今日の午後、つまり午前の授業を終えた後のお昼休憩中になら都合が合うから、話の続きはお昼に食堂でという事になりボクは昼食の入ったバスケットを片手に食堂へと向かっている。
何で食堂に向かっているのにお弁当持参?
理由は昨日、ちょっとした事があってお弁当を持って食堂に集合する話になったのだ。
なのでお弁当の持参は必要だ。
飲食店に飲食物を持参するようなことだけど必要なことなのだ。
そう思いながら進んでいると、徐々に人だかりが現れ入口付近は昼食を求めて彷徨う学生で溢れていた。ボクはその合間を潜り抜けながら先に来ている筈のメル達を探す。
食堂の中は落ちつ……え?何これ?
何というか……ポストアポカリプス食堂?
廃墟とまではいかないけど、とても食べ物を食べる所とは思えない汚れっぷりだ。
床はまともに拭いていないのか、汚れがびっしりで壁にはちらほらと蜘蛛が巣を……それに料理の乗っている食器は、通り過ぎ際に見ている限りだけど汚れが目立っている。
場所、間違えたかな?
だけど遠目からでもはっきりと分かる長身のレオの姿が……つまりここは食堂で間違いない。
「こっちやでアルベール!」
「うん、ちょっと待ってね!」
ボクに気が付いたレオはこっちだと手を振る。
そこは窓際の、比較して綺麗な場所で既にレオの他にもメルやグリンダも来ている。
あとアルフォード先生と、昨日アルフォード先生から紹介してもらった、フォートナムの店長アシュリー・ステファンさんも来ている。
気の強そうな凛々しい顔立ちの女性だ。
「待ったわよ、さてどれ程の実力なのか試させてもらうわよ」
「お手柔らかにお願いします」
アシュリーさんはそう言って好戦的な笑みを浮かべる。
昨日、アルフォード先生が指を鳴らした直後に現れて目の前にいたのが学生の、しかも一年生だと知るなり本当に大丈夫なのか?という話になり、後日ボクの実力とメルの企画書を確認する為に食堂で、昨日来れなかった人との顔合わせのついでに試験を行うことになったのだ。
そして今日のお昼はオムライス弁当!
淑女の休日でも大人気メニューで定期的に料理教室が開かれる料理教室では、一番受講希望者が多い料理だ。
ちなみにソースはシンプルにケチャップ。
付き添えにはお弁当の定番のから揚げ、それとメイド風という名前になっているナポリタンスパゲティー。
サラダは季節の野菜のチョップドサラダ、ドレッシングはシーザードレッシング。
スープは冬瓜のあっさりコンソメスープ。
「すっすみません!遅くなりました!」
「遅いわよエステル!」
おどおどした声が聞こえて振り向くと小麦色の髪の、胸の豊かな眼鏡をかけた女性が行きかう学生達の波に揺られながら、こっちへ向かってきていた。
あの人が昨日来れなかったもう一人の協力者…なのかな?
エステルと呼ばれた女性は何とか学生の波を渡り切り、ボク達の座る席に到着するとアシュリーさんの隣に座り、軽く会釈をしてから自己紹介を始める。
「初めまして、エステル・トリッシュです。普段は食堂の隅でバケットだけ売ってるマリーのパン屋の店主です」
「ちなみにマリーのパン屋はうちと同じくらい歴史のあるパン屋よ、ラグサ商会が現れるまで大人気の、バケットサンドが売りのパン屋よ」
ラグサ商会……確かルッツフェーロ商会から枝分かれした商会で、学園から学生寮、食堂、商店街などの業務委託をされていてる商会…だったはず。
「それでは自己紹介も終わった事ですし、ヴィクトワール家が誇るアルベールの料理、ご賞味あれですの」
「そやで!アルベールの作る料理はどれも絶品や!オムライス…トマトケチャップで味付けして作るチキンライスを卵で包んだオムレツなんやけど、癖になる美味しさやで!」
メルとレオに促されてアシュリーさんとエステルさんはお弁当箱を堂々と鎮座するオムライスを一口、すると目を見開いて驚く。
隣のアルフォード先生に至っては髭にケチャップがついても構わず頬張っている。
さてと、この反応ならボクの腕は合格のようだからお昼に……、
「あれ?アルベールじゃん、それにメル達もいる。珍しいね君達がここにいるなんて」
「それとなんの集まりだ?隅っこのパン屋も一緒に」
しようと思ったらクライン君達が現れた。
トレイに思い思いの昼食を載せて空いている席を探して彷徨っていたみたいだ。
ふと周りを見渡すとこの近辺だけ人が少ない。
どうやら何かの集会だと思われて遠巻きにされていたみたいだ。
「ちょっとした秘密会議だよ、クライン君達は席を探して放浪中?」
「ああ、生徒の多さに対して食堂が狭いから毎回立ち食いだ。近く座っても良いか?」
「いい―――」
「何や、短足やのに狭いんか?」
レオーーーーー!!
何で毎回息を吐くようにクライン君を挑発するのかな!?
「うるせーよ!お前こそ口の周りにケチャップつけ過ぎだぞ?拭けよ、ガキじゃねーんだから」
「ええやんか、短足やないんやから」
「足の長さ関係ねーだろ!!」
「レオさん、あまり口が過ぎますとお昼抜きですわよ。それと些細な挑発に乗らないでくさいですの、クラインさん?」
ああ、メルが怒っちゃった。
さすがに二人ともこれ以上はメルが黙っていないと分かるなり、静かにご飯を食べ始めたけど……何でクライン君はこんなにも辛そうにご飯を食べているのだろうか?
それに他の人達も苦行をしているかのような表情だ。
以前、レオが食堂のご飯は美味しくないって言っていた、少し気になるからクライン君のを少し貰おう。代わりにこのから揚げを進呈だ!
「ねえクライン君、このカラアゲを一個あげるからそのラザニアを一口分けて欲しいな」
「……」
あれ?
何で無反応??
と、思っていたら何か考え込んでから苦渋の決断をするような表情をクラインは浮かべる。
「すまん、分けてやれねー、ああ、お前は知る必要はねー」
「それが正しい判断やで、世の中には知らん方がええことはるんや」
「英断だよクライン、ああ、英断だ」
え?
ええと…どういう事だろう?
そんなに美味しくないの!?逆にとても気になる。
ちょっとはしたないけれど、
「クライン君、ちょっと口を開けて」
「こうか?」
「とりゃあ!!」
執事道の動きは常に最短最速。
ちょっと口を開けた隙あらば、口の中にカラアゲを入れるなんて造作もないのだ。
そしてそのままラザニアを一口貰おう。
「やめーアルベール!」
「馬鹿野郎!早まるな!!」
「止めろ!?その先には絶望しかない!」
またまた、これでもボクは多少の事なら平気だ。
そもそも最初から料理上手だったわけじゃない。
何度も失敗してはしっかりと自分で食べ切ってきた。
塩と砂糖を間違えたり、大さじと小さじを間違えたりした料理をだ。
それに気を失う程、美味しくないっていうのはフィクションの話で現実にはあり得ない、そして学食のラザニアも見た目はちゃんとしたラザニアだ。
層も綺麗に重なっていっている。
なら―――――、
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