22話 彼の名前は馬鹿王子
「こうして後に健国王となる青年ロムスは多くの女性と結婚して子宝に恵まれ、末永く幸せな日々を過ごしました、お終い」
「「「わー!!」」」
ボクの絵本の朗読が終わると一斉に子供達が拍手をする…でもね、この物語の結末は一体なんでこんな終わり方なんだろう?大勢の女性達と関係を持ち最終的には全員を妃として迎え入れるという最後、しかもこの絵本はソルフィア王国を築いた健国王の実際の話を題材にして作られた子供向けの絵本なのだ。
いいのかな?こんな結末で、色んな意味で子供達に悪影響があるんじゃないのかな?とボクは思っているけど孤児院で読み聞かせをする時に決まって子供達が聞きたがるのはこういった偉人を題材にした絵本だ、特に脚色のしようがないとまで言われている健国王のお話は男女関係なく大活躍の冒険活劇だから、子供達に大人気でこの絵本を読むのはこれで三回目だ。
「それでは皆さん、マリアお姉さんにありがとうをいいましょう」
「「「はい」」」」
子供達は一斉に立ち上がり孤児院の院長さんの号令に合わせてボクにお辞儀をする。
今日、ボクは王都にある国営の孤児院にチャリティーの一環で絵本の朗読会をする為にネスタ兄さんと一緒に訪れている。
何でチャリティーをしているかと言うとそれはリンドブルム家が名家だからだ。
事の発端は今から100年近く前の事、現国王であるガイウス陛下がまだ王太子だった頃に問題になっていた戦災孤児や悪質な孤児院などの対策の為に国営の孤児院を王国中に開設し、最初の運営資金を自身が築いた私有財産から捻出した事に由来している。
それ以降、孤児院などを支援する事が上流階級の間で一種のステータスになり、制度が始まって100年近く経った現在は物などの支援だけだけじゃなく朗読会のような奉仕活動も盛んだ。
「ネスタさん、マリアさん、本当に何時もありがとうございます」
「いえいえ、これも子供達の為ですから、それでは来週も今日と同じ時間に朗読会をする予定なのでお願いします」
「はい分かりました、それではお気をつけて」
院長さんからお礼を言われたネスタ兄さんは笑顔でそう言いお互いに会釈をしてボクはネスタ兄さんと手を繋いで屋敷へと戻ろうとした時だった、何時も最前列で絵本を楽しそうに観ている男の子がネスタ兄さんに近付いて…。
「なあ、ネスタは何時マリアに告るんだ?」
いやボクとネスタ兄さんは血は繋がっていないけどそういった関係ではないしそういった感情は抱いていないよ、とボクが言う前にネスタ兄さんは真顔ではっきりと言う。
「いや妹だぞ?妹に恋をする兄はいない、可愛い自慢の妹だが恋愛対象ではない」
と真面目に答える、うんまさにその通りだ。
ネスタ兄さんの返答を聞いた男の子は何か呟いて孤児院に戻って行く、何だったんだろう?そう思いながらボクとネスタ兄さんは屋敷へと帰る為に高級住宅街…じゃなかった、ええと…何て名前だったかな……。
「エリシオン地区だぞマリア、もしかしてまだ高級住宅街で覚えてるのか?」
「はい…一度そう覚えてしまったので中々覚え直せなくて…」
「はっはは、まあゆっくり直して行けばいいさ」
ネスタ兄さんはそう言ってくれているけど人によってはそういった呼び方を嫌い人もいる、爵位を持っている家柄の人は特にこの呼び方を嫌っているとエデ様は優しく窘めてくれたけど他の人が同じように気にしないとは限らない。
だからリンドブルム家に仕えるメイドとしてしっかりと間違いは直さないといけない。
ボクは通り過ぎる通りや地区の名前を何度も頭の中で確認しながら歩く。
手帳に地区や通りの名前を書いてあるけど完璧にはまだ暗記できていなくて、間違っていたらネスタ兄さんが教えれてくれたけど…ううん、全体の半分も覚えれていないないな…この調子だとついうっかりでエリシオン地区を高級住宅街と言ってしまいそうだ。
「難しく考えすぎだぞマリア、もう少し…気楽…に……」
「ネスタ兄さん?」
屋敷が見える位置にまで近付いた時、急にネスタ兄さんは立ち止まる。
その表情は何と言うか…必死に隠していた物を絶対に知られてはいけない相手に知られてしまった様な、そんな悲痛に満ちた表情にネスタ兄さんはなっていた。
「馬鹿な…どうやって……」
「あのネスタ兄さん、一体どうしたんですか」
ボクはネスタ兄さんに声を掛けるけど聞こえていないらしくて表情はどんどん険しくなって行く。
屋敷に何かが起こりそれをネスタ兄さんは感じ取ったのかとボクは思い屋敷の方を見たけど特に変わった所は…とても豪奢な馬車が止まっていた。
その馬車に掲げられている旗に描かれている紋章は獅子と若き青年、あれ?それって確か王家の紋章だよね?もしかしてネスタ兄さんはあの紋章を見てこんな悲痛に満ちた表情…そう言えば前に言っていた。
エドゥアルド第二王子殿下には自分が王都に移住した事を伝えていないって……。
「何で馬鹿王子が家に来てんだよ!?」
ネスタ兄さんはそう叫び血相を変えて屋敷に向かって走って行った。
突然の事だったからボクは呆然としてしまいネスタ兄さんより少し遅れて屋敷へと走る。
♦♦♦♦
居間の入り口の前では大奥様がいたルサディール領のお屋敷から来たメイドのまだ若くて背の高いヒメナさん、家族と移住して来たデボラさんとマレナさんが仲を覗き込んでいた。
ボクは三人の後ろから居間の中を見るとそこには平静を装っているけど本心では確実に渋い顔をしたいネスタ兄さんと、少し知的だけど野性味があるせいで狡猾そうな顔立ちに見える少し長めの前髪を
いそうだから実際には全く
「あの、何をされているんですか?こんな事をしていたらロバートさんに叱られますよ?」
「何や帰っとったんかマリア、見てみ、王子やで王子」
ボクを見るなり三人の中で一番年長のメイド長さんと同年代のデボラさんが南部訛りの喋り方で暢気に言うけど、来客をこんな風に見ていたら間違いなく怒られる、気になるのは分かるけどロバートさんは執事だけあってそういったマナーに関しては人一倍厳しいのだ。
「いえそれは分かっています、ただロバートさんが見たら絶対に怒ると思うので離れましょう」
「ロバートさんならララさんが殿下の物言いに腹を立てて暴れそうになったから、ララさんを羽交い絞めにして地下の方に行きましたよ」
とボクは言ったけど二人とは違って南部訛りじゃないヒメナさんはそう言って覗き見を続ける。
ララさんが怒って暴れたなら確かにいくらロバートさんが強くてもララさんが相手ではすぐには戻って来れない、だからって覗き見をするとか…まあ本音を言えばボクも気になるけどやっぱり良くない。
ボクはどうやって三人に覗き見を辞めさせるか思案していると殿下はこっちを見てから、とても嫌味ったらしく意地悪な顔で笑った。
「おいおいネスタ、ここは客人に茶の一つも出せないのかよ?もしかして貧乏か?」
「煩い、今日は曾祖母様も母さんもシャーリーさんも不在でメイドの多くがそっちに言って残った人達だけで家の事をしているんだ、急な来客に対応できる程の暇を持て余していない」
「覗き見する暇はあるらしいがな」
「くっ…」
うわ、いや確かに覗き見をしているこっちが悪いのだけど態々それを指摘するかな?せめて友人の顔を立てようとか思わないのだろうか?あとこの三人、紅茶が載せてあるトレイを放置して何してるんだろう。
「あの、冷めちゃいますよ?」
「え?ああぁ…マリアちゃん」
ボクの指摘に対して三人は訴えかける様な目でこっちを見て来る。
まあ確かにロバートさんが手こずってしまう程にララさんが激怒したというのなら相当な事を言われたのだと思う、それで三人はこんな風に覗き見をしていてお茶を出さずにいたのか…仕方がない、このままだとネスタ兄さんが皮肉を言われ続ける事になる。
妹としてそれは看過できない。
ボクは小さく溜息を吐いてからトレイを持って居間の中に入る。
「大変お待たせ致しました、紅茶をお持ちしました」
ボクは出来るだけ殿下の機嫌を損なわないように恭しくお辞儀をして紅茶とリーリエさんが作り置きしてくれている、バターの風味が程良い絶品のクッキーを殿下の前に置く。
王宮でどんな物を食べているのか知らないけどリーリエさんの作るお菓子は例え相手が老舗の高級菓子店でも引けを取らない美味しさだとボクは自負している、何度も屋敷を訪れているギルガメッシュ商会の幹部さん達もあまりの美味しさにお土産として欲しがるほどだ。
「おいおいおいおい、遅過ぎだろう、んでこのクッキーはどこの店のだ?」
「これは当家のメイドが作ったクッキーでギルガメッシュ商会の系列店で取り扱えないかと声が掛かる程の美味しさの品です」
ボクは自慢げに言うと…何だろう、殿下はすごく嫌そうな顔をしている。
「おいおいおい、俺が王族だぞ?第二王子だぞ?一流の菓子店の品を出すのが道理だろ、そこらのメイドが作った物を出すなよ」
殿下はそう言って手に持ったクッキーを食べる事無く床に投げ捨てる…殴って良いかな?誰か「いいとも!」って言ってくれないかな。
だけど隣のネスタ兄さんが拳を握って必死に我慢しているからボクも我慢だ。
「んでネスタ、お前は何時からそんなに薄情になったんだ?王都に引っ越して来たなら一言あっても良かっただろ、それとここお前の家だったんだな…ウサギ小屋かと思ったぞ」
「王宮に比べればどんな豪邸でもウサギ小屋だ、お前はそんな皮肉を言いに来たのか?」
カチーン来そうですね、カチーンと…無礼失礼大変失礼の重ね技になおもネスタ兄さんが我慢しているからボクも我慢だ、ええ我慢しますとも!
「あと妹いたのなら早く紹介してくれよ、何つーかエロくて夢魔みたいなエロい子だな」
うわ…生理的に嫌悪感を覚える目で殿下はボクを見て来る。
ボクは元男だから正直に言ってそっちの趣味はないから生理的な嫌悪感しか感じない、あと隣のネスタ兄さんは顔を真っ赤にして今にも殿下に殴り掛かりそうだった。
「マリアは義理の義兄弟みたいな関係だ、あと!マリアに対してその物言いは我慢ならないぞ!」
「ネスタ兄さん、ボクは平気ですよ」
「いいや、マリアは我慢し過ぎだ!嫌な事は嫌と言え、外に出れば何か―――」
「あああ!!思い出したお前、セドリックが惚れてる女か!」
ネスタ兄さんが話している途中で今更その事に気付いた殿下はボクを指差して大声を上げる、だけどそれよりも指差しはいくら王族でも失礼だと思う。
「今更気付いたのかよ…あと指差すな、失礼だろ」
ネスタ兄さんも呆れて溜息交じりだ。
本当にこの人は天才で名高いエドゥアルド第二王子殿下なのだろうか?ただの馬鹿王子にしか思えない、もしくは人違いかもしれない。
だけどネスタ兄さんの反応を見る限りは間違いなくエドゥアルド第二王子殿下で間違いない。
「そうか、あのマリアローズか…なあお前さあセドリックの女にならずに俺の女になれよ?」
「「は?」」
同時に、ネスタ兄さんと同時にボクは間抜けな声を出してしまった。
あと何を言っているんだろう?この人は一体何のつもりで……。
「いやぁ別に婚約しようとかそういうのじゃないだよ、何つーかあれだよ妾とか愛人かな、これだけエロいなら将来的に相当なエロい美女だろ?なら今の内に目をかけておくのもな、それに王族と関係が持てるならプラスだぞ」
ああ、馬鹿だこの人は…本物の馬鹿なんだ。
あまりの馬鹿発言にネスタ兄さんも呆然としている。
「それに王族と子が作れるのも色々と都合がいいぞ?父上も若い頃は相当遊んで全員を娶ったけど、俺もそれに倣ってハレームを築くのもありだと思っててさ」
それとボクの大嫌いなタイプの人だ。
「それに俺ってこの国の第二王子、つまりすごく偉いしさネスタもその方が良いだろ?それにマリアも俺と将来を約束すればネスタの立場も向上するぞ?まさに一挙両得だ!」
「お前!もう我慢出来ない、この馬鹿が!」
ネスタ兄さんは我慢が出来なくなってで…殿下に掴みかかろうとしたけどボクは咄嗟にネスタ兄さんの前に手を出して静止する、ボクの行動は予想外だったみたいでネスタ兄さんは動けなくなっている。
ただ別にボクはまだ我慢するとかじゃない、この目の前の最低な男を許すつもりは無い。
「お、同意し―――」
「殿下、大変なご無礼を働きますのでどうか歯を食いしばって耐えてください」
握り拳は…さすがに駄目だからボクは平手で馬鹿の頬を叩く。
力加減はしっかりと2,3日は痛む程度で叩いた。
「は?え?は?ええぇ…」
叩かれた殿下は何が起こったのか分からず文字通り鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。
「殿下、もしボクがそれに同意すればネスタ兄さんは妹を売った男とい汚名を背負う事になります、それは仕える者として妹として看過する事は出来ませんなのでお断りします」
「ふざけるな!お前、俺を!王族の俺を叩いたんだぞ!断るだのの前に許されるとでも思ってるのか!」
ああもう!何でバウマンと同じような事をするんだこの人は!
「父上にも母上達にも打たれた事の無いお―――」
ボクは返す刀でさらに殿下の頬に平手打ちをする。
もう我慢が出来ない、すっごく腹が立つこの人は!
「だからどうしたんですか?この国の第二王子?はっ!所詮、第二王子の間違いだ!ガイウス陛下のように大争乱で傾いた王国を再建したわけでも王太子殿下のように後継者として多くの功績を積み上げて来たわけでもない、お二人の七光りで威張っているだけの第二王子の分際だ!」
腹が立つ!今もダンテスさんが、キルスティさんが、セリーヌさんが、アデラさんがこの国の為に危険な任務に身を投じているというのに何で、この国を背負うかもしれない人がこんなに度し難い馬鹿なんだ、ふざけるな!
ボクは感情に身を任せて馬鹿の胸倉を掴んで睨む。
殿下は呆気に取られていたけど5歳も下のボクに胸倉を掴まれたのが気に入らなかったのかボクを睨み返す、だからどうした?という気分でボクは気にせず言いたい事を感情に任せて言った。
「さっきから偉そうにしていますがそんなに敬われたかったら、そう思えるくらいの立派な人になってください!貴方が王族で良かったと思えるくらい、誇りに思えるくらい立派な人に!」
ボクは突き飛ばす様に胸倉を掴んでいた手を放す、殿下は何も言い返さずただ……。
「俺は…そんなに…酷いのか?」
と、呟くだけで呆然としている。
だからボクは正直に驚いている。
今まで無自覚に自覚せずにあれだけの言葉を言っていた事にボクは驚きを隠せずにいる。
「たく、とんでもない妹だな、我慢するなと言ったが兄の言いたい事を全部言って良いとまでは言ってないぞ」
「ふえ!?ごめんなさいネスタ兄さん、でもすごく腹が立って……」
ボクが謝るとネスタ兄さんは何時もの様に優しくボクの頭を撫でると馬鹿の前に立つ。
「なあエド、お前は何時からそんな酷い奴になったんだ?最初の頃は己惚れが過ぎる男だったがそれでもこんな、こんな馬鹿な事をする奴じゃなかった」
「ネスタ……」
ネスタ兄さんの目はどこか悲しそうだった。
そうか最初の頃は殿下は馬鹿じゃなかったのか。
「イリアンソスに行ってからお前は変わった、何度も諫めた…だが俺の言葉はお前には届かなかった、責任は感じてる、だがな俺ももう限界だ…これ以上、お前とは一緒に居たくない」
「……」
ようやく殿下も分かったみたいだ、ネスタ兄さんの目を見て自分が何をして誰を傷つけて蔑ろにして来たのか。
「だから今日はもう帰ってくれ、日を改めて王宮に出向いて陛下にお伝えするつもりだ」
「…ああ、そうか」
殿下はそうれだけ言って力なく立つと居間から出て行く、ネスタ兄さんは振り向かずただ悲しみに満ちた目をしながら上を向く。
玄関の扉が閉まる音がしてそして馬車が走り出し音はどんどん遠のいて、それからネスタ兄さんは溜息を吐いてから小さく呟いた。
「何で…こうなっちまったんだろうな、俺はあいつの騎士になりたかったのにな……」
♦♦♦♦
『なあエド、お前は何時からそんな酷い奴になったんだ?』
親友だった男の言葉がエドゥアルドの心の中で木霊する。
何時からだったのだろうか?とエドゥアルドは自問自答を繰り返す。
帰りの馬車の中で専属の執事とメイドが王宮に戻り次第、事の顛末を報告する為に話し合いをするのを横目にエドゥアルドはひたすら自問自答を繰り返す。
(まだ…まだもっと小さい頃、あいつと出会って離宮で一緒に暮らしていた頃は…ああ、確かに己惚れの過ぎる性格だった、あいつにネスタに何度も注意されたな)
呆然と馬車の窓から見える景色を見つめながらエドゥアルドは自嘲気味に笑う。
(だけど…そうだ、俺は何時か父上や兄上の様な立派な男になりたいとあいつの前で誓って、あいつも俺を支える騎士になると誓ってくれた…俺は約束を違えたけどあいつは今も約束を違えずに…マリアだったか?あの子の言う通りだ……)
「殿下、聞いていますか?」
「ん?ああ、すまない聞いていなかった…今回の事は全て俺の不始末だ、リンドブルム家が責を問われないようにしないとな……」
「「……」」
話し合いに参加せず窓から外を見るだけのエドゥアルドの態度に業を煮やし、苛立ちながら執事はエドゥアルドに話を聞いているか尋ね、素直に聞いていなかった事を謝り更に自分の不始末だと認めた事に執事もメイドも驚きのあまり目を丸くする。
(もう取り返しのつかない事なのかもしれない、虫の良い事を言うのだと思う)
エドゥアルドは空を見つめながらマリアローズの言った言葉を思い出す。
『さっきから偉そうにしていますがそんなに敬われたかったら、そう思えるくらいの立派な人になってください!貴方が王族で良かったと思えるくらい、誇りに思えるくらい立派な人に!』
傲慢になり濁っていたエドゥアルドの瞳に光りが宿る。
纏っている雰囲気も変わり、まるで憑き物が落ちたかのように晴れやかな表情になると呆気に取られている執事とメイドにはっきりと謝罪の言葉を口にする。
「今まで、今まで二人には苦労を掛けた…何度も諫めてくれたというのに俺は聞こうともせず、逆に煩わしいと口汚く心無い言葉を投げかけてきた、本当にすまなかった」
エドゥアルドは二人に深く頭を下げて自身の非を認める。
「殿下、いいえ殿下!力不足で殿下を導けなかった私共が悪かったのです、ですかどうか顔を上げてください!」
「それは違う、俺がただ馬鹿だっただけだ…自分の才能に溺れて偉くなったと勘違いして、今更だとは思う、だがそれでも俺を見捨てる事無くついて来てくれた二人が誇りに思える立派な男になって見せる、だから…」
その先をエドゥアルドは言えなかった。
二人に今まで言って来た心無い言葉はネストルに言った以上に酷い言葉だったからだった、これからも俺について来てくれなどとエドゥアルドには言えなかった。
「殿下…ではまずは陛下に事の顛末を説明しなければなりませんな」
「それから今までの反省を含めて幾つか慈善活動も、手配は我々が行います」
「二人共…ありがとう……」
二人はエドゥアルドを優しく見つめる。
誇りを取り戻し歩み直そうと決意したエドゥアルドをこれからも支えて行くという意思を篭めて。
(俺は…俺は本当に恵まれている…今度こそ絶対に道を違えず進も―――)
その時、ふと何か忘れている様な気にエドゥアルドは襲われる。
そして再び親友だった男の言葉が頭の中で木霊する。
『なあエド、お前は何時からそんな酷い奴になったんだ?』
(思い出した、そうだ俺はイリアンソスの基礎学校に通い始めた頃にアンダーソン家に招かれて、そこでアリスと会って…それからだった様な気がする、責任を押し付ける訳じゃないがアリスの言う事が心地良くて身を任せたくなって…それからだった様な気がする)
エドゥアルドはそう思い至りながらも責任転換だと思い直して忘れる事にする。
それが後に王家を揺るがす大きな災いに繋がると、この時のエドゥアルドには知る由もなかった。
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