4話 中身はこれでも加算で20代

 どこかで見た事がある、そう思ったけど何処だっただろうか。

 世界史や日本史で国際博覧会、つまり万博に関して習った時だっただろうか。

 それともテレビで不思議を発見する番組だったか。

 何を見て知ったのか思い出せないけど名前だけはしっかりと覚えている、海外の駅と言われてボクが最初に思い浮かぶパリ北駅、それに似た光景がボクの眼前に広がっている。


 大きな屋根を支えるにはか細く見えてしまう、鉄の橋と三角形を組み合わせた構造の日本にはない美しさを持ったパリの駅と同じ様に、石と鉄とガラスで形作られたホームには大きな鉄の塊である蒸気機関車がひしめき合っている。

 これが鉄道の街と謡われるエルベの姿、行った事は無いけど日本有数と言われている東京駅にも負けない規模だった、いや、東京駅には行った事が無いのだけどたぶんそうだと思う。

 ボクはアストルフォに跨りながら目の前に広がる光景に息を飲む。


「さて、汽車も来た事ですし最後の確認をしますか」

「はい」


 ……だからね、これは仕方がなかったと思うんだ。

 はい、ボクが悪かったです。

 また興奮して暴走してしまいました。


 でも本当に仕方がないと思うんだ!誰だってあの光景を見たら興奮して暴走してしまうと思うんだ!無数としか言えない量の乗車券を間違える事無く箱から適切な量を取り出して、それを日付印字機に通して適切に印字されたか確認する。

 その一連の作業を手早く素早く的確に、誤る事なく流れる様にやってのける駅員さんの仕事がカッコよくて見入ってしまったのは、確かにボクも反省するべきだと思う。


「見入った、という次元ではなかったですね、サーカスの催し物を見て興奮している様だった、が正しいですよ」

「付け加えるなら、ホームを興奮して見て走り出したのも減点よね。聞いていたけどここまで暴走するのは予想外だったわ」

「はい、反省しています……」


 ロバートさんとシャーリーさんに注意されてボクは改めて反省する。

 何でだろう、何でかボクは興奮すると自分を抑えられなくなってしまう。


「では、今から言う事を復唱してください」

「はい」


 今から汽車での旅が始まるのだけど、今度は興奮して暴走すると色んな意味で危険という事から移動中にボクが守らないといけない4つルールが出来た、そしてそれを今から復唱する。


「一つ、ホームで待っている間は?」

「アストルフォから降りない」

「二つ、座席に座る時は?」

「座席の真ん中か誰かの膝の上で大人しくする」

「三つ、汽車から降りる時は?」

「アストルフォに跨ったまま下りる、もしくは誰かと手を繋いで下りる」

「四つ、興奮した時は?」

「大きく深呼吸をして落ち着く」

「では最後に守らなかった時は?」

「お尻を10回叩く」

「はい、よろしいですよ。では、もうすぐ出発ですので乗りましょう」

「はい」


 ボクはお尻から感じるヒリヒリとした痛みを我慢しながら客車に乗る。

 ううぅ……お尻がとても痛い!

 走り出した瞬間にお母さんに捕まって、ボクはお尻をお母さんに叩かれてしまった。


 うん、もっと理性的になれる様に頑張らねば!

 アストルフォが動く度にお尻が痛いけど我慢だ、それよりも生まれて初めて乗る蒸気機関車を楽しまないと!


「クエ」


 ボクがそう興奮していると「下の音も乾かぬうちに」という意味が込められた声でアストルフォは鳴いた、あ、うん、また興奮していました。

 客車の中は温かみというかノスタルジックな木で出来ていて、昔懐かしい鉄道の客車という感じだ。


「マリアちゃん、こっちよ」


 シャーリーさんはちょうど、出入り口の近くの席に座っていた。

 座席は向かい合わせになっていてシャーリーさんの前にお母さんが座っていて、その隣にはリーリエさんが、シャーリーさんの隣にはダンテスさんが座っていた。


「さあマリア、お母さんの膝の上に座りましょうか」

「…はい」


 お母さん、まだ怒ってる。

 笑顔から怒気が感じられる。

 大人しく従わないと次はお尻叩き10回じゃすまい。


 ボクはアストルフォから下りてお母さんの膝の上に座り、アストルフォは女将さんやロバートさんが座っている座席に移動する。

 座席に座って10分程で汽笛を鳴らせゴトンという揺れと共に機関車はゆっくりと走り始めた。

 これが蒸気機関車なんだ!電車とは違う感覚だ!


「楽しそうねマリア、機関車に乗るのは初めて?」

「はい、ボクが生まれた頃には蒸気機関車は観光用に走るだけで基本的に電気の力で走る物に変わっていました」

「電気!?マリアちゃんの居た世界はこっちよりも進んでいるのね」


 ボクとお母さんの話を聞いたシャーリーさんは驚いているけど、そう言えばソルフィア王国では電気を使う物を見た事がない。

 灯は魔石か蝋燭、冷蔵庫も魔石か氷で何と言うかとても進歩している物があれば殆ど進歩していない物があったり、両極端と言うべきか何と言うべきか。


「電気……一部の地域で電気を使う方式が研究されていると聞いた事がありますね」

「そうなんですか、ダンテスさん」

「はい、詳しくは知りませんがイリアンソスで盛んに研究が行われているそうです」


 つまり電機の概念はある、だけどまだまだ黎明期で実用化にまでは至っていない?

 文明レベルは世界史や日本史で習った知識を照らし合わせると第一次大戦前、20世紀と19世紀の間で産業革命に似た事は起こっていているなら、それこそ石油や電気を使った文明を築いてるのが普通だ。

 だけど何かが決定的に欠けていて文明の歩みはとてもゆっくりだ。

 石油や電機は魔石を用いる事でその穴を埋めているけど、何でだろう?何かボクのいた世界と決定的に違う所があるのかな?

 魔法の有無じゃなくて、ボクのいた世界にあってこっちの世界に存在しない何か…ううん……まあ、いいかな。


 何か専門知識があるならそれを利用して立身出世とかあるのかもしれないけど、ボクは料理好きで勉強が出来るだけだった普通の中学生だ、少しだけマニアックな事を知っているけどそれはテレビの受け売りで詳しくない。

 ならボクはボクを大切に思い愛してくれる人達に胸を張れる生き方をする。

 それだけだ。


 あと王都に行くなら、アレックスに会えるかもしれない。

 約束よりも早くなってしまうけど、ボクは無事だって教えてあげたい。

 あ、いや、無事ではないか、顔の左側は酷い火傷だから、心配をかけてしまうかな。

 それでもグリンダには悪いけど少し、いや、とても楽しみだ。

 アレックスは元気にしているかな。

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