3話 問題発生からの問題発生

 学校に変な術式が刻まれている事が発覚して一週間が過ぎた。

 今も除去作業が続けられている。


 そこで問題になったのは学力を測る試験をどこでするかと言う事だった。

 当初の予定だと学校でする筈だったけど件の術式の除去が完了するまで基本的に関係者以外は立ち入り禁止、子供は以ての外で代わりの会場に仕えそうな施設は無くそこで飲食店を試験会場とする事になった。


 お店の規模が大きくて開店時間が遅い飲食店に協力を仰いで学力試験をしたのだけど何故かボクだけ再試験を言い渡された。

 何故なんだろうと思いつつ渡された答案用紙に記入して行った。

 国語、算数の二教科で100点中65点が合格点、それを下回ったら学校が始まるまでの間に補修をするという流れになるんだけど、何でボクだけ再試験?それなりに高得点を取ったつもりだったけど、何か変な回答でもしていたかな。

 ボクがそう悩んでいると採点を済ませた先生が入って来る、確か国語を担当する事になるカリム先生だ。


「ふむ、ふむ、ふむ。ルシオさん、貴女の試験結果ですがはっきりと言いますと、入学はしないでいただきたい」

「ふえ!?」

「んだとテメエ!!」


 ボクは驚いて変な声を上げて付き添いで居たリーリエさんは声を荒げる。

 どういう事!?何で入学拒否!?ボクはそんなに酷い点数を取ってしまったのだろうか、それとも何か別の理由だろうか、兎に角理由を聞いてみないと納得が出来ない。


「不服、でしょうがはっきろと申し上げます。ルシオさんの学力は高過ぎます」

「なら別に問題ねーだろ!」


 カリム先生に掴みかかりそうな剣幕でリーリエさんは怒鳴るけど、カリム先生は全く気にせずに話を続ける。


「既に基礎教育を済ませている、その上で中等教育まで。天才としか言えませんが…」

「なら!」

「だからこそ入学を断るのです!周りは満足に教育を受けられなかった子供ばかり、場合によってルシオさんより年上の子供も一緒に勉強する必要がある、そんな中で彼女の様な天才は周りの生徒に対して害悪となります」


 え?そんな理由で?確かにボクより年上の人が環境が原因で勉強出来なかったからボクが通う予定の1年生のクラスに入って来るけど、だからってボクをそれで締め出すなんて横暴だ!


「それならボクを別の学年に入れればいいじゃないですか!」

「ッ!マリア?」


 リーリエさんは驚いて呆気に取られているけど目の前のカリム先生は面倒な者を見る様な冷たい目でボクを見下ろす、その顔はさっきまでと別人の様に歪んでいる。


「聡明な子だと聞いていましたが、どうやら自分勝手な性格の様ですね、自分さえよければ踏み潰される相手の事など気にも留めないという事ですか、残念です……」

「っ!?ボクはそんなことを言っているんじゃない!突出しているから排除するとい―――」

「黙っていただこう!!はっきりと申したがそれでも横暴だと言うのなら、そうですねこれも教育です、分かりました条件があります」


 カリム先生の顔は酷い顔で、楽しそうな目でボクを見る。

 気持ち悪い、この先生はすごく気持ち悪い!

 それでも気圧されてなるものか!!


「条件ですか?どういった内容ですか」

「そうですね、そう―――」



♦♦♦♦



「「「はぁあああああ!?」」」


 お店中に皆の叫び声が広がる。


「なんだいその条件は!内のマリアを馬鹿にしやがって!!」

「処さねばなりませんね、カリムでしかその教師の名は」


 女将さんは手の平に拳を打ち付けて言葉を荒げて、副女将さんは静かに刃物を研ぎ始める。


 ああぁ……ボクも売り言葉に買い言葉でこんな条件を飲んでしまったけど今思えば一教師にボクの入学の可否を決められる訳が無いのに、なんでこんな馬鹿な事をしてしまったんだろう。


 さっきからボクの頬を皆が代わる代わる引っ張ったり抓ったり、ボクはボクが思っている以上に血の気が多いみたいだ。

 生前は何事も柳の木で心を殺して生きて来たから、全く知らなかった。

 一通りボクへのお叱りが終わるとお母さんはボクを膝の上に乗せて頭を撫でてくれる。


「でもまあ、私の娘ってことね。私も若い頃は納得が出来なかったらどこまで食い付いていたから、マリアも似てしまったのかもしれないわ」


 お母さんがスッポンの様に食らいつく、全然想像がつかない。

 すると副女将さんがしみじみと言う顔で頷いている、え?本当に昔はそんな性格だったんだ、人って変わるものだ。


「んで、どうするかね…まさか入学の条件がね……」


 皆の顔が一斉に暗くなる。

 ああ、ボクは勢いに任せてあんな条件を飲んだばっかりに……ごめんざない。

 でも改めて思うのはカリム先生は相当な嫌な性格の人だ。

 ボクが入学しても良いという条件は。


『一つ、授業中に質問されない限り自主的に答えを言ってはならない。二つ、周りに対して自分が勉強出来ると言ってはならない。三つ、試験は常に満点を取らない様にするの三つだ』


 何だろう、本当に何でこんな条件を出したのだろう。



♦♦♦♦



 それから一週間が過ぎて、ようやく学校の使用許可が下りた。

 すると滞っていた準備が一気に進められて許可が下りて二日後には学校が再開された。

 そして今日は最初の登校日だ。


 ボクが目指すのはちゃんと卒業してイリアンソス学園へ入学する事、それと友達100人作る事だ。

 まあ、100人はさすがに無理だけどそれくらいの勢いを持たないと。

 二頭を追う者は一頭も得ずって言うけど二頭を負う気概が無ければ三頭は得れずだ。

 何事もチャレンジ魂、友達沢山作るぞ!

 と意気込んでいたけど、どうしよう、これ……。


「ねえあの子……」

「うん、だよね……」


 なんかすれ違う同い年の子供達がこれでもかってくらいにボクを指さしてひそひそ話をしているんだけど!! 

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