40話 アストルフォは見た
ちわ!アストルフォだよ……ふむ、これは無理があるな。
我が主改め主殿に合わせて堅苦しい喋り方を変えようと努力していたが、少々迷走気味ではある、まあ目の前で無自覚に異性の心を刺激し続ける主殿の姿を見ていたら少し頭が痛くなってきて変な喋り方になってしまっていた。
そして副女将殿はリーリエ殿に引き摺られながら強制退場となった。
どうやら店の方が忙しくなった様で帰らねばならず、そこで我が…ふむワシ、違う、まあ適当にワタシか、よし……ワタシが副女将殿に変わって主殿達を見守っている。
決して監視している訳ではない、あのアレックスとか言う虫が主殿に変な事をしまいか見守っているだけだ。
ふむ、アレックスは主殿に贈り物をするつもりらしい。
それに対して主殿は最初は遠慮したが厚意を無下に出来ずに何か選んでいる様だ。
主殿なら実用を優先しそうだな、包丁やそれこそ暗器の類か、少なくとも女性らしい……女性らしい物を選んだ、しかもペアのペンダントだと!主殿の心がついに乙女に!なってないな、ただ友達とお揃いのペンダントを選んだだけだ。
主殿も罪作りなお人だ、今日も周りが自分を奇異な目で見ていると勘違いしていた、実際はあまりの美しさと少女とは思えない艶っぽさに誰もが驚愕していただけだ、あの何度も主殿に嫌がらせをする三人組も今では主殿に好意を寄せている。
さっきからアレックスも主殿に好意を寄せているのか笑顔を見る度に顔を赤くして目を逸らしている。
まあアレックスの様に不器用ながらしっかりと相手を大切にする、紳士の様な羽虫の方が圧倒的に有利だ、主殿もアレックスに対しては無警戒に自然体で接している。
しかし羽虫調子に乗るなよ、主殿の最初の友達はワタシだ!
そしてペアのペンダントも普通なら愛の告白だが、主殿にとっては友情の証だ!
さて先程から主殿にちょっかいを掛けようとしている三人組、この辺りでは三馬鹿と呼ばれている者達はどうしたものか、以前も親御から叱られていたというのに、それ以前に主殿に振り向いて欲しいなら優しく接するべきだ。
生前は辛い人生を送り優しくされる事に慣れていない主殿だが悪意に対しては慣れている、如何なる誹謗中傷もどこ吹く風の如く流してしまう、故に未だに貴様等の名前を主殿は覚えていない。
基本的に相手の名前をちゃんと覚える主殿が、だ。
さて怪我をしない程度に追い払うか、今の主殿に何かすれば烈火の如く怒るのは火を見るよりも明らかだ。
頭上から適当に何か落とすか、確か向こう側に臭いが中々取れない液体があったな、体に特に害もなかった筈だからあれでいいだろう。
「いいか、このスリリングであいつの服を汚してやるんだ」
「おう、それで次はどうするんだ?」
「何も知らないふりをして優しくするんだそうしたら―――」
主殿が烈火の如く怒ってお前等を埋めるだろうな。
ワタシは頭上から液体をぶちまける、これは染色に使う草の絞り汁だ。
単体だと酷い臭いだが別の草の絞る汁を混ぜると臭いが和らぎ、防虫効果を持たせる事が出来るらしい。
以前、主殿と歩いていて職人から耳にしていた。
「「「ぎゃあ!?」」」
ふむ、ついでに搾り汁を入れていた桶も適当な所に落としておこう。
そろそろこの三馬鹿の親御が近くを通る、盛大に叱られてしまうと良いい。
さてワタシは主殿の護衛に戻るか。
しかし主殿、食べ過ぎだぞ。
結局、職人の露店市は早々に切り上げて馬車通りで食べ歩きをしている。
まあ、あの満面の笑みが見られるのなら些細な事など気にしても仕方がないか。
そうであろう?アレックス。
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