39話 ブレないマリア
お祭りは三つの区画に分かれて行われている。
灯台のある広場はギルガメッシュ商会が手配した王都や周辺の領地で有名なお店が出店していて、馬車通りは飲食店が中心になって食べ物の屋台を開いている。
そして軍馬通りはアーカムに住む職人さんの露店や周辺の村々で作られている工芸品を売る露店市が開かれている。
「マリアは食べる事が以外にも興味があったんだな」
アレックス…君ちょっと失礼だよ、と思っても食べる事を優先した行動を何度も取っているから否定が出来ない、でもこれでもボクはこういった職人の手仕事も大好きだ。
親方さんが作る包丁は切れ味抜群でお弟子さん達が作る作品もそれぞれの個性が強く反映されて面白い物がばかりで、何度もお店で使う調理器具とかを注文した。
それに新しい事に挑戦する事を喜べる人達だから変な物を注文しても笑って作ってくれる、親方さんの工房がなかったら淑女の酒宴で出されている料理の多くが作れなかったと断言できる。
他にも普段来ているメイド服の生地は街に残った職人さんの中でも他の領地に移れば今よりずっと楽な暮らしが出来る魔法を使った機織りを得意とする、魔工職人もいてその人達が織った亜麻布はそれこそ防火・防刃といった現代日本でも驚愕の一級品だ。
染色だって高い技術で行われていて色落ちが全然しない。
実はお祭りを見に来た他の領地の商人さんが街で普通に使われている布製品の完成度を見て、腰を抜かしていた。
だから軍馬通りで開かれている露店市に来ている人は、一般の人よりも商人さんの方が圧倒的に多いのだ。
「よう嬢ちゃん」
「あ、親方さん」
振り向くとニムネルさんと一緒に歩ている親方さんがいた、そう言えば露店はお弟子さん達の修行の為に任せていると言っていた、と言う事は二人はデート中ということかな。
「そっちの坊主は、前に嬢ちゃんが言っていたアレックスか」
「初めまして、アレックス・ベイツと言います」
「そうかそうか、礼儀正しい坊主だ、それならアドバイスをしてやる」
「アドバイス?」
アドバイスに、何にだろうとボクが疑問に思ってると親方さんはアレックスを見ながらお弟子さん達が開いている露店を指さす。
「俺ん所の露店行ってみな、いいもん売ってるぜ」
アレックスにそう言うと親方さん達はデートに戻って行った。
良い物って何だろう?アレックスは何か分かったという感じだけど、とりあえず言ってみればわかるかな。
お弟子さん達の露店に到着すると親方さんの言っていた意味が分かった。
ネックスレスや指輪といった装飾品を売っていた、ただデザインは少し無骨で可愛さとか無かったけどカッコいいデザインばかりだ、少し中二病なデザインの物もあるけど確かに良い物が売っていた。
「いらっしゃいマリアちゃん、それにアレックス君だったね」
「「こんにちわ」」
ボクとアレックスが揃って挨拶をすると店の中から他のお弟子さん達も顔を出して来た。
「おやおや、おやおや……頑張ったなアレックス」
お弟子さんの一人が何やらニヤケた笑いをしている、それを見たアレックスは珍しく声を荒げて「うるさい!!」と顔を真っ赤にして怒っている。
何を頑張ったんだろう?
「そ、それよりマリア、何か欲しい物はないか?買ってやるぜ」
「いえ、それは悪いです」
「マリアちゃん、ここはお言葉に甘えておきなよ、アレックスも男を見せたいんだ」
「余計な事言うなよ!」
ん?男を見せる?何でアクセサリーと買ってあげる男を見せる事になるんだろう。
「と、とにかくだ好きな物を選んでくれ!何だって買ってやる!」
ううん、好きな物……これでも中身は男なのでそこまで女性用の装飾品には心動かされない、でも並んでいる物は基本的に女性向けの物ばかりで男性向けは大きさ的に合わないから無理がある。
だからと言ってアレックスの厚意を無下には出来ない。
何がいいかな……あれはペンダントだけど片翼の鳥の飾りが付いていて一緒に置かれているペンダントも片翼の鳥が飾りが付いている、これはどうやら二つ合わさる様に作れているペアのペンダントみたいだ。
お祭りの思い出ならこれが良い。
「アレックス、ボクはこれが欲しいです」
「ん?これか、いいぜ」
「マリアちゃん、天然過ぎるよ……」
お弟子さんのボクを見る目が少し変だ……まあいいかな。
「ほらマリア」
「ありがとうございます、それではアレックス、少し屈んでください」
「ん?分かった」
ボクはアレックスが被っている帽子をとって首にペンダントを掛ける、うんとても似合ってる。
んで次は……この帽子じゃまだ、確か顎の所の紐で固定しているんだけど固く結んでいて上手く外れない。
「アレックス、帽子を取るのを手伝ってください」
「ボンネットの事か、よくあるんだよな顎の紐をきつく結び過ぎたって」
アレックスに手伝ってもらって何度か帽子ことボンネットを取ってペンダントを首にかける、よしこれでお揃いだ。
「お揃いですね」
ボクがそう言うと何故かアレックスは顔を赤くしてボクから目を逸らす。
何でアレックスはボクと目を合わせたがらないのだろう、特に笑うとすぐに目を逸らす。
でも、もうすぐ時間だ。
悔いが残らない様に遊びつくさないと!
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