35話 穴があったら隠れたい

「お母さん、本当にこの格好をしないといけませんか?」

「ええ、ちゃんとおめかししないといけません」

 

 アレックスから今日一緒にお祭りを見て周うと誘われた事をお母さんに伝えると何故か女将さん達が大騒ぎをして急に服を買いに行く事になって、そしたらアンリさんやフランシスさんが王都で流行っている最新の服を無料でくれると言い出して、気付いたらボクは今、着せ替え人形の様な状態になっている。

 何て言うんだったかな、確かゴスロリという物に似た服をボクは着せられている。


 ボクの肌や髪の色に合わせて白を基調としたド田舎のアーカムでは悪目立ちしそうなドレス、他にも綺麗な装飾が施された革靴や帽子、うう……落ち着かない。

 何でこんなに無駄にフリルやレースやリボンが付いているんだ。

 動き辛い、それに袖も派手だからナイフとか出し辛い。

 それに何時もなら太腿に巻いている投げナイフをしまうポシェットが付いたベルトは付けちゃいけないとか、ナイフも袖に隠しちゃいけないとか……。


「やっぱり辞めませんか?すごく恥ずかしいです……」

「マリア!こっち向いて、その表情でこっち向いて!」


 それと何で副女将さんはさっきから鼻息を荒くして写真機でボクを撮っているんだろう。


「はい、完成!とっても可愛いわ」

「ううう……」


 恥ずかしい、穴があったら入りたいくらい恥ずかしい。


「ほら恥ずかしがってないで鏡を見て」

「……はい」


 諦めて鏡を見る、そこには綺麗なレースやフリルを多用した白いドレスを着る少女が写っていた、ボクだ、あああ!恥ずかし過ぎるよ!


「もうお姫様みたいに可愛いのに、でも恥ずかしがってる顔も初々しくて可愛いわ」

「マリア、こっち向いてください」


 お母さんも副女将さんも他人事だと思って楽しんでいる。

 アレックスと待ち合わせにはまだ時間があるのに衣装合わせと称してさっきからずっとこの調子だ。

 まあいいさ、人生初のお祭りを満喫できるんだからこれも一つの試練だと思って耐えるんだ。


「黒色も似合うけど、やっぱりマリアは白色ね」

「そうですね、マリアは白が、純白が似合います」


 副女将さん、鼻息がすごく荒いです。

 助けてリーリエさん!


「おーいマリア、準備できたか?」


 ナイスタイミングですリーリエさん、副女将さんの目が何か狂気を孕み始めていたから怖くてしかなかったです。


「はい、準備は終わりました」

「そんじゃあ、広場まで送ってくから行くぞ」

「はい」


 ボクが一階に下りると何故かアンリさん達がいた。

 何で口を開いて目を丸くしているんだろう、もしかして…いや、間違いなく似合っていないんだ。

 するとアンリさんは咳ばらいをして話始める。


「行く前に一枚、写真をお願いしたい。実はその服を来た少女の写真を見本として飾らないといけなくなってね、すまないが一枚だけお願いする」

「それでしたら副女将さんが―――」

「それも必要だがこちらの提示する仕草で一枚だけお願いしたい」


 アンリさんてロリコン?そんなに力強く言われると疑ってしまう。

 あ、でもシェリーさんの胸を凝視していたことがあるから本当に仕事で必要な事なんだと思う、だからと言ってボクがこの苦行を味わっているのはアンリさんの所為でもあるから言う事聞きたくない。

 ……後で服の代金を請求された怖いから言う事を聞いておこう。


「分かりました、どういう風にしたらいいですか?」

「そうだね、まずは椅子に座ってくれ」

「はい」

「そうそう、それであ、微笑まなくても良いよ、何時もの料理をしている時の…そうそうその顔で―――」


 見本用の写真なら微笑んだ方が良いと思うんだけどなあ、まあアンリさんの考えがあるんだと思う、言われた通りにしよう。


「そうそう、いいね……よし、もういいよ」


 さてともう時間になったから行かないと、ポシェットには…ポシェットも何か派手だな……うん、気にしないようにしよう。

 ポシェットにお財布は入ってる、お金は溜めていたから今日は10000ソルドをちゃんと入ってる、ハンカチもある、うん忘れ物は無い。


「よし、行くぞマリア」

「はい」

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