36話 アレックスとマリアローズ

 ラフタ灯台を中心とした公園ってこんなに広かったんだ。

 ボクは初めて足を踏み入れた公園に圧倒される。

 円形の広場でそれを囲む様に花壇とベンチが置かれていて、下は白い石が敷き詰められている。


 こんなに素敵な場所だったなんて知らなかった。

 と、いけないアレックスと待ち合わせしているんだった。

 アレックスはどこかな……居た。


「おーいアレックス」

「ま――!?」


 アレックスは目を丸くして驚いている。

 やっぱり変なんだこの格好は、さっきからすれ違う人達が凝視したり二度見したりしていたから、領都とは言えド田舎でこんな派手な格好をしていたら普通に浮いてしまう、それに王都に住んでいるアレックスも目を丸くするという事は王都の感覚でも変な格好なんだ。


「やっぱり変ですよね、この格好は……」

「そ、そんな事ないぞ!すごく綺麗だ!」


 とアレックスは褒めてくれるけど何で目を逸らすのかな?

 それに被っている帽子の鍔を持って目を合わせない様にしている。


「アレックス、本当にそう思うならちゃんと目を見て言ってください」


 ボクがアレックスの顔を両手で持ってボクの方に向けるとようやくアレックスはボクの目を見る、何で目を逸らすかな、もしかして痛い人と思ってるのかもしれない。

 するとアレックスは意を決した様に勢いよくボクの両肩を掴んで大きな声で言う。


「本当に綺麗だ、嘘じゃない、目を逸らしたのは、その…マリアが綺麗過ぎて……」

「ありがとうございます、アレックス」


 うん、褒めて貰えるのは素直に嬉しい。

 友達から褒められた尚更嬉しい。


 でも何でアレックスはボクと一緒に居るとよく顔を赤くするんだろう?

 まあ、それよりもお祭り巡りだ!


「それでは行きましょうアレックス、美味しそうな物がいっぱいあります!」

「ちょ、あ、マリア!」


 最初に行く屋台は何時もお世話になっているパン屋の店主さんと肉屋の店主さんが出しているお店だ、賄用に頼んだコッペパンを見た肉屋の店主さんが自分のお店で作っているソーセージを挟んだら旨い筈だと考案した、つまりホットドッグだ。


「こんにちわグレンさん、ジェイドさん」

「おう、いらっしゃいマリアちゃん、今日は普段と格好が違うな」


 最初に返事をしてくれたのは肉屋の店主さんのジェイドさん、親方さんがギルガメッシュ商会と協力して量産したバーベキューグリルでソーセージを焼いてた。


「今日は一段と美人だね、ならおまけをしなといけないな」


 次に返事をしてくれたのはパン屋の店主さんのグレンさん、さっきから焼きあがったソーセージをパンに挟んでいる。


「それでは2つお願いします」

「俺が出すよ、昨日、オコノミヤキを貰ったお礼だ」

「それじゃあ、お言葉に甘えて」

「ははは、熱いね、それじゃあマリアちゃんのはおまけで2つだな」


 おお、2個も食べていいなんて、美味しそうだ。


「マリアちゃん特製のトマトケチャップはどれにするんだ?スパイシーとマイルドがあるが?」

「それじゃあ俺はマイルドで」

「ボクもマイルドを二つで」

「ああ、それ熱いから気を付けろよ、あとマリアちゃんはケチャップが服に付かない様に気をつけろ」

「はい、ありがとうございます」


 では早速…これは!噛んだ瞬間、皮が弾けるのと同時に肉汁が溢れ出してくる。

 このソーセージ、すっごく肉肉してる。

 そんなソーセージにパンの優しい甘さとケチャップの濃厚な旨みと酸味が合わさって、止まらない美味しさだ。


「旨い、このケチャップは何度味わっても驚かされる旨さだ、それにソーセージとの相性も良い!」

「ケチャップは色んな物に合いますよ、メイド風スペアリブにもトマトケチャップが使われていますから」

「そうだったのか、だからどうやっても再現できなかった訳だ」

「?」


 再現、何をだろう?

 あ、そうか。

 アレックスは商家の息子だから自分の家が経営しているお店にも出せないか研究しているだった、教えてあげてもいいけど、アーカムの飲食店の人達には内緒にしているからアレックスにだけ教えるという事は出来ない。

 なので製法に関しては黙っていよう。


 ちなみにこういう時によくやってしまう、ケチャップが服に付いたというのはしていない、何故ならメイド道にはそういう状況に陥らない様にする技も含まれているからだ。


「そうだマリア、食べ終わったら灯台に上らないか?整備が終わったらしくて、今なら人が少ないんだ」

「そうですね……」


 ラフタ灯台、あの大きな灯台に上れる、行ってみたい!


「はい、上りましょう」



 ♦♦♦♦



「すごい……」

「ああ、すごいだろ?ここは伝説的な建築家ラフタが作った灯台の一つだからな」


 螺旋階段を上った先には息をのんでしまうしまう絶景が広がっていた。

 すごく高い灯台だと思っていたけど、街を一望できるどころか街を囲む外壁の外まで見える、初めて見る街の外の景色がボクの目の前に広がっている。

 一面の亜麻畑、その先には川や石橋に街道も見える。

 さらに先に山があった、そうか、そうだったボクが生きている世界はここだけじゃなかったんだ。


「これが街の、外の景色……」

「マリアは街の外に出た事が無いのか?」

「はい、一度も……だけどこんなにも広かったんですね」


 世界はこんなにも広かったんだ、どこまでも続いていたんだ。

 下を見下ろせば馬車通りにたくさんの人が行き交って、淑女の酒宴も見えるけどすごく小さく見える。


 世界は何処までも続いている、そうだ忘れていた。

 前の人生でも全く意識していなかった、世界はどこまでも広がっているんだ!


「すごいです、すごくすごいです!」

「あ!馬鹿、危ない!」

「ふえ!?」


 びっくりした、一瞬何事かと思ったけど興奮し過ぎて身を乗り出しそうになったボクをアレックスが後ろから抱き上げて止めてくれたらしい。


 ただ二人そろって転んでしまった、ううん……ボクは思っている以上に衝動的な性格みたいだ。

 あ、でも今気付いた、今さら気付いてしまった。


「アレックスって大きかったんですね」

「当り前だろ、マリアより2歳年上なんだから」


 普通に友達だと思っていたから気付かなかったけど、男の人って子供でも大きいんだな。

 ボクはアレックスに抱きしめられながら、自分が女の子に転生したんだという事実を改めて実感した。

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