34話 お好み焼きに対するこだわりとは
「じゃあ明日の出店の料理を決めるよ!」
女将さんの掛け声で明日の出店の料理を決める会議が始まる。
「はい、はいなの!」
「よし、ララ言ってみな」
「クロケットがいいの、あれなら歩きながらでも食べられるの」
ボクを含めて全員が驚く、ララさんがまともな意見を言った。
だけど確かに、歩きながら食べるならクロケットは丁度良い。
お皿に入れてフォークで食べる料理は軒並み駄目だな、それだとポテトチップスを紙袋に入れて売り出すというのもありかもしれない、後は串焼きは醤油と味醂があるから焼き鳥風のタレが作れる。
後はお菓子類、リンゴ飴やチョコバナナ―――バナナが無かった。
鈴カステラとかも売れるかもしれない、あとカラメル焼きとかも、いやこれはボクが食べたい物だ、考えていたら涎が出て来た。
セリーヌさんはカツサンド、シェリーさんはメイド風スペアリブ、アデラさんはカラアゲとお店の定番メニューが次々と名前に上がる。
ボクも何か言わないといけないな、まずは当日はレンガなどを積んで臨時のテーブルや椅子を大通りに作る、出店は歩道に設置してそこでお金を貰って料理を出すという事になっている。
とすると料理は最低でも二種類、食べながら歩く用と座って食べる用の二種類、肉屋さんとかは網で焼いた肉を提供するという話だから出来れば被らない方が良い。
「あの良いでしょうか?」
「いいぞ、大本命のマリア」
ハードルが一気に上がった!
落ち着こう、すーはー……よし落ち着いた。
「ボクはクロケットと、まだ作った事がない料理を提案します」
「ほう、それは何て言う料理なんだい?」
皆の視線がボクに集中する。
あの味を再現したのならあの料理を作りたいと前から思っていた、幸いにしてバーベキューグリルを親方さんに作ってもらった事があるから、それを使って上手くやれば作れる筈だ。
材料もある、麺はどうしようもないからとても不本意だけど関西風で作れば問題ない、本当に不本意だけど麺が無いのなら諦める、本当に不本意だけどこればかりは仕方がない。
本当に不本意だけど……別に関西風が嫌いだからじゃない、前世の生まれが広島だったんだから仕方がない。
ボクはその料理を皆に説明する、幸いな事にと言うよりも最初から計画されていたみたいで大きな画用紙が準備されていて、そこに絵を描きながら説明して行く。
最初は「パンケーキと違うの?」という意見も出た、まあ広島じゃないからそう思われて仕方が無いけど、説明を続けて行く内に別物だと理解してくれたみたいで最後には実際に食べたいという声も上がった。
「じゃあ、出店の料理はクロケットとマリアの案で決定だね」
「「「ぶー!」」」
女将さんに対して一斉にブーイングが飛ぶ、それもそうだボクが説明しただけでまだ採決も取っていないし議論もしていない。
「マリアの案には賛成だけど、クロケットには反対です!やはりカラアゲです!」
「いえ、それならギョーザと言う手もあります、クロケットではなくギョーザ!」
と女将さんに対して次々と抗議の声が上がる。
だけど女将さんは一歩も退かずに皆を一喝する。
「黙りな!どっちにしろ値段抑えるにはクロケットとマリアの案しか採用できないさね!文句があるなら安く肉を仕入れてきな!」
その言葉に誰も反論が出来ず、出店で出す料理はクロケットとあの料理となった。
♦♦♦♦♦
お祭り当日。
行き交う人々は口々に「解放祭」と言っているお祭りが始まる。
試作は上手く行った、調理自体も難しい技術を要求しない関西風だから料理が壊滅的に苦手なララさん以外は全員が修得する事が出来た。
でも出だしはボクが担当する、やっぱり言い出しっぺの責任だからやらないと気がすまない。
「いらっしゃいませ!淑女の酒宴特製パンケーキ、お好み焼きはいかがですか!」
ボクの声に「また淑女の酒宴か」という声と共に人が集まって来る、うん何とか興味は持ってもらえた、なら次は実際に作っている所を見せて胃袋を刺激しないと!
ボクは具材が入れられた小さなボールを取り出す。
「今から焼いて行きますので見ていてください」
ボールの中には出汁に薄力粉・塩・砂糖を加えて混ぜた生地、具材はシンプルにキャベツ・天かす・青ネギ・卵、それをスプーンで空気を含ませるように混ぜる、混ぜ過ぎたらキャベツから余分な水気が出てしまうから適度に混ぜたら鉄板に流し込む。
スプーンで適度な厚さで丸になる様に押し広げて3分程焼いて、上に豚のバラ肉を置いて行き引っ繰り返して蓋をして蒸し焼きにする。
蓋は親方さんに頼んで急遽作ってもらった。
4分程蒸し焼きにしたら蓋を開けて引っ繰り返すしてさらに3分焼く。
最後は上から改良ウスターソースをたっぷりとかける、青のりは無いから今回は断念したけど醤油や味醂があったのなら青のりだってある筈だ、もし見つけたら今度は麺も作って広島風を作る。
あ、ボクは別に関西風とか広島風とかそんなにこだわらない人です、広島風と言ったら怒るなんて事はありません、ただ異世界で最初に作るならと思うと故郷の味を優先したというのは自然な流れなのです。
そして最初は本当に美味しいのかと疑っていた人達も鉄板の上に垂れて焦げるソースの匂いに胃袋が刺激されたのか、目を輝かしてボクが焼いたお好み焼きを凝視している。
お好み焼きを親方さん達とギルガメッシュ商会で協力して作った樹石の平皿に乗せてお客さんの見せて宣言する。
「1皿600ソルドです」
ボクがそう言うと我先にお好み焼きを求める人の列が生まれる。
そして食べた人達が口々に美味しいと絶賛してくれる。
さあどんどん焼いて行くぞ、こんなに長蛇の列が出来るなんて予想していなかったからバーベキューグリルが足りない、親方さんには悪いけど追加のバーベキューグリルを注文しないとお祭りは3日間も開かれるからこのままだと、また過労で倒れる人が出て来てしまう。
♦♦♦♦
お祭り二日目の夕方、バーベキューグリルを追加して何とかお好み焼きの注文へ対応していると驚きの人物がボクの前に現れた。
「久しぶり、マリア」
「アレックス!どうしているの!?王都に住んでいるんだよね!?」
友人で一年ぶりとはいえ、王都から遠く離れたアーカムに現れたアレックスにボクは驚きを隠せない、沖縄に住んでいる人が北海道に突然現れるくらいの驚きだ。
「ああ、ちょっと無理を言ってお祭りを見に来たんだ、それとちょっとしたお誘いかな」
「?」
どうしたんだろう、何で顔を赤くしているんだろう?
グリルの熱気が暑かったからかな、それとも何か言い辛いのかな。
ああ、そういう事か、王都がどういう場所か知らないけどオシャンティーな場所の筈だ。
それなら王都のお祭りももっと上品な筈だ、王都に住んでいる人にとって見ればド田舎のお祭の出店で料理を注文するなんて恥ずかしいのかもしれない、それなら僕が気を回して、あと友達なんだからここは奢らないと格好付かない。
「はいアレックス」
「え?まだ何も注文していないんだが……」
「ボクの奢りです、それに食べたそうにしていましたから」
「俺、食べたそうにしていたか?」
「はい、していました」
あれ違ったのかな、何か気まずそうな顔をしているけどまあいいか、美味しい物を食べると小さな悩みはどこかへ行ってしまうから。
アレックスは不服そうしているけど香しいソースの香りに負けたのか、お好み焼きを食べ始め、そして目を大きく見開く。
「これは!フワフワだ、それにソースは濃厚なのにキャベツの甘さが後味を良くしてくれていくらでも食べられる!」
さっきまでの表情はどこへやら、アレックスは満面の笑みでお好み焼きを夢中で食べて行く、あれよく見たらアレックスの後ろにロドさん達がいる。
ロドさん達にもお世話になったから三人にもボクの奢りでお好み焼きを食べさせてあげよう。
「どうぞお三方、焼き立てですよ」
「我々も良いのですか!ありがとうございます」
三人は受け取るとアレックスと同じ反応して夢中で食べて行く。
あれ、今度はアレックスが覚悟を決めた顔をしている。
「マリア、そのお願いがあるんだが……」
「どうしたんですか?おかわりですか?」
「ち、違う、そうじゃないんだ、その明日俺と―――」
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