24話 悪夢は続くよどこまでも

 朝の青空、何時見ても綺麗だな。


 今日は珍しく僕が起こす前にお母さんは起きていた、どうしたんだろうと思ったけどたぶん、昨日は片付けが早く終わって何時もより早くベッドに入れてんだと思う。そんな日もある、さてアストルフォを起こして…あれ、アストルフォも起きてる。

 珍しいな、アストルフォも朝弱いのに……そんな日もあるさ、早く下に降りよう。


 今日の朝ご飯は何だろう、昨日は目玉焼きとハム、あとライ麦のブレットと塩とオリーブ油で味付けしたサラダだった、今日は何だろうあとそろそろお米が食べたい。

 味噌汁、だし巻き卵、炊き立ての白米と海苔、醤油も味噌も鰹節も昆布も無いから再現は出来ないけど、似た文化や食べ物があるから、きっと何処かにある筈だ。

 そう言えば今日の朝食はパンケーキになる予定だって食いしん坊のセリーヌさん昨日の夕方にが言っていた。


 栗色の髪と快活な顔立ちの女性で髪は短く切り揃えていてバレー部員みたいな人だ、お母さんと同じで良く食べる、あと僕と同じで内向魔法を得意として5歳になったら魔法を教えてくれることになっている。


「ぐぅぅ……」


 お腹の虫が早くご飯を食べたいと唸ってる。


 衣装棚から着替えを取り出して手早く着替えて、僕は一階に降りると何でだろう、もう皆は制服のメイド服に着替えて集まってる、あれでも黒いドレスに白いエプロンは午後用でそれに髪もシニヨンにしてキャップを付けてる、それに雰囲気が変だ。

 僕が下りて来るのを確認するとお母さんが近付いて来る。


「お母さん、午後の制服を着て何かあったのですか?」

「……」

「お母さん?」


 何で黙っているんだろう、それに皆も表情一つ変えずにボクを凝視して来る。


「ねえお母さ―」

「死んで償え」


 ……え?今、何て言ったの、聞き間違いだよね?


「嘘ですよね、冗談にしても……」


 お母さんは何も答えてくれない、ただ黙ってナイフを取り出す。

 そして僕に近付いて来る。

 僕を見下ろす位置まで来るとお母さんはナイフを振り上げてボク目掛けて振り下ろす。


「死んで償え」

 


「グエ!」


 アストルフォが僕に馬乗りの状態だった、後半身が馬だけにだろうか。


「クア」


 ああ、また悪夢を見ていたんだ。


 うなされる僕を心配してアストルフォが起こしてくれた、一緒に寝る様になってからうなされると何時も僕を起こしてくれたり、お母さんが来るまで隣で寝ていてくれたりしてくれる。

 とても優しい子だ。


「ありがとう、もう大丈夫だよ」


 僕は体を起こしてアストルフォを抱きしめる。

 アストルフォの体温や心臓の鼓動を聞くと、不思議と心が落ち着て来る。


「クァ……」


 抱きしめても嫌がらず、逆に僕を気遣うかのように鳴いてくれる。


 日に日に悪夢の内容が鮮明になって来る、日に日に悪夢の内容が前世から今世に置き換わって行っている。

 僕を見つめるのは父方の親戚から皆に、僕を殺すのが父さんからお母さんに。

 心の奥に押し込めて気にしない様にしていても眠る度に姿を現す、あの夜から一月ひとつきが経っても一向に悪夢が消え去らない。

 悪夢の出来事が現実に起こる筈ないのに、やっぱりあんな死に方をした所為だ。


 そう言えば僕は家族と言う物を全く知らずに死んだ、知識として知っているけど温かい家族の日常と無縁だったから、公園で父親と母親と楽しく遊ぶ同級生の姿を何度も目にして羨んでいた。

 家族と一緒に食事なんて死んでから今になって体験した、とても楽しくて嬉しくて掛け替えのない物だと分かった。だから怖いんだ、それがまやかしなんじゃないかって、何時かは覚める夢なんじゃないかって、不安になって怖くなって押し込めて悪夢を見る。


 伝わって来るアストルフォの体温がそれは違うと僕に教えてくれている気がして、とても安心する。


「アストルフォ、もう少し抱きしめていても良いかな?」

「クエ」


 僕はアストルフォを抱きしめたまま布団を被る、そうしていると不安が無くなって心がとても落ち着いて来る。

 少しずつまぶたが重くなって来る、今ならたぶん悪夢はもう見ない。

 僕はそのまま体を任せて意識を手放した。

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