5話 気になるヒポグリフ

 目が見える様になった僕は衝撃の事実を知った。


 ここ、異世界だった。

 そう異世界だった。


 大事な事だから二回言ったけど、あの馬?鷲?と遭遇した時点で異世界確定だったけど、僕は「ここは南米アマゾンだ!」と無理矢理思い込んで目を逸らしていた、ただ目の前で魔法が使われたので諦めて認めるしかなかった。


 僕をあやす為にお母さんが魔法で色んな形の氷を生み出してベビーメリーの様に操っている所を見た時、僕は赤ちゃんがしてはいけない表情をした後、観念して異世界だと認めた。


 あと僕に「ここ異世界だよ」と知らしめて来た馬?鷲?は今でも窓に止まってこっちを見てくる、お母さんが言うには『あれはヒポグリフという魔物を襲って食べてしまう、凶暴な魔獣なの』らしい。

 大きさは柴犬より少し小さい程度で子供らしく子供のヒポグリフは人の子供を攫って食べてしまうと言われている、お母さんからは『いつもマリアを見に来るのも、餌だと思っているから、決して窓を開けてはいけません』と注意されている。


 僕はもう2歳になるのにヒポグリフは今でも定期的に窓に現れてはこっちを見てくる、お母さんからは危険な魔獣だと言われているけど、不思議と悪い子には見えなかった。前に明らかに凶悪な三つ目の鳥っぽい生き物が現れた時、果敢に立ち向かって追い払ってくれた。

 それにとても優しい目をしているから本当に危険なのか疑問に思って、女将さんや副女将さんに聞いてみたけどやはり、危険な魔獣だと注意された。


 僕が聞いた限りだと地球のヒポグリフとこっちのヒポグリフは似た存在だ、人や馬を襲う話は本で読んだ事はある、でも記憶は曖昧で確か誰かの騎馬だった気がする、けどそれ以上は思い出せない。


 それにしても、最近のヒポグリフは窓に止まるのは良いんだけど、以前の様にこっちを凝視しない代わりに哀愁漂う背中を見せて来る様になった。

 正直に言って可哀想に思えて来て、気になってしょうがない。


 特に悪いこともしていないのに悪者にされている様で、それにとてもカッコいいのだ。前世では男だったし今でも心は男のままだ、だからなのかヒポグリフがカッコよく見える。

 ドーベルマンやハスキーに憧れる少年の気持ちだ、実際に享年15歳で心は今でも現役の少年のままだ……触りたい、動物園で一度だけ鷲を触らして貰った事があるけど撫で心地が良かった。


 後ろを向いている今なら音を立てずに窓を開ければいけるかもしれない。


 丁度良い高さの丸椅子が隅にある、あれを台にすれば窓に手が届く筈だ。

 よし、今の時間帯なら誰も部屋に入ってこない、思い立ったら吉日だ、迅速にミッションを達成すれば誰にもバレない。

 丸椅子の高さは少し低かったけど足を延ばせば届く筈だ。設置完了、安定性には…問題なし、後は乗るだけだと思った矢先、ガチャという音がして振り向くと鬼の形相を顔に張り付けたリーリエさんが居た。


「マーリーア!鷲馬は危ねーて言ってつだろーが!」

「ふえ!?りーりえしゃん!」


 僕は怒鳴られて吃驚びっくりして、盛大に尻餅を突いてしまった。


「あ、馬鹿。ああもう怪我してねーか」


 呆れながらリーリエさんは僕を肩に担ぐ。そして部屋を出る、たぶん下で治癒魔法が使える副女将さんに見て貰う為と言い付けを守れなかった事に対するお説教の為に……一瞬、ヒポグリフと目が合った。

 ヒポグリフが必死に謝る仕草をしている事に気が付いたけど、その事をリーリエさんに伝えるとお説教の時間が延びるから黙っておこう。


 たぶん、世間一般で言われている程ヒポグリフは凶暴ではないのかもしれない。

 女将さん、副女将さん、そしてお母さんに叱られながら僕はそう思った。

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