4話 おはようございます、お母さん
二度寝、特に予定がない日は中々寝付けないものだ。
登校時間まで少し早い時間に起きた時は数秒で眠りにつけるのに、そして目覚ましの音が聞こえずに遅刻するのにこういう時は逆に目が冴えてしまう。
うん、二度寝は諦めようそれに朝日も大分昇って来た。お母さんが起きるには少し早いけどもう起きよう。起きて何かするかと言えば喋る練習だ。
実は皆に秘密で喋る練習をしている、まだ
前は泣くしか出来なった、それだと「お腹がすいた」「おしっこ等をした」くらいしか伝えられなかった。
さて、せっかく目が見える様になったのだ、今日はお母さんに練習の成果をお披露目して褒めてもらおう。
確か生前、赤ちゃんが初めて喋るは一大イベントだと聞いたことがある、なら僕が喋るときっとお母さんや皆が喜んでくれるはずだ。
僕の生前では叶わなかった夢でもある。
目が見えない内に喋っても喜んでいる顔が分からないのなら意味がない様に思えて、ずっと喋らない様にしていた。少し狡い考えかもしれないけどやっぱり、喜んでいる顔が見たいから今日、僕の日頃の成果を披露するのだ。
さて、もうそろそろお母さんが起きる時間のはずだ。目を覚ました瞬間に「おはよう、お母さん」と言うぞ!言うぞ!早く、起きないかな、さっきから窓にジト目の鷲?馬?がいるのは気にしない、気にしない。
「起きてたか、しっこでもしたか?」
声がしたから後ろを振り向くと不機嫌そうな顔をした女性がいた。考え過ぎて気づかなかった、何時の間に扉を開けたんだろう、音が全然しなかった。
部屋に入って来た女性は美形、なんだけど眠たそうでとても不機嫌そうな目付きをしている、近寄りがたい雰囲気を
とても聞き覚えのある声だったからすぐに分かった。ハスキーな声と口調の荒っぽさ、たぶんリーリエさんだ。おしめの替え方が何時も丁寧で、誰もいないと子守歌も歌ってくれる優しい女性だ。
顔立ちは声の印象通りだったからお母さんの時の様に動揺しなかったけど、それにしても美人だ。あと何でメイド服風の服を着ているのだろう、そういえば薄っすらだけど普段、皆が来ている服って黒色と白色を基調とした服と灰色と
今まで色しか分からなかったから気づかなかったけど、メイド服だったんだ。
ちなみに今着ているメイド服は
「ん、どうしたぁ?呆けちまって」
しまった!僕はお母さんの時とは別の意味で衝撃を受けてしまってフリーズしてしまっていた。けどいい機会だ予行演習にリーリエさんの名前を呼んでみよう。
「る…るえ」
失敗だね。緊張して
リーリエさんもぽかーん、としている。練習ではもう少し上手く言えていたのに……もう一度だ!
「りーりえ」
うん、今度は完璧だ。あ、でもさんを付けるのを忘れていた。
「……」
何か震えてる、もしかしてさんを付けなかったから怒っているのかな?
「ま、ま、ま、ま、」
怒ってない?じゃあ何で震えてるんだろう?顔も驚愕という感じだ。
「ま、ま、ま、ま、マリアが…喋った!!」
リーリエさんはそれだけ言うとドタ!バタ!という音を立てて部屋を出て行った。
そして横に居るお母さんはあれだけの物音でも全く起きる気配が無い、よっぽど疲れていらしい、中々起きないから起こそうかと思ったけどやめよう、睡眠は大事だ、ゆっくり眠らせてあげたい。
「――――」
「――――――」
「―――」
何やら外が凄く騒がしい。何を話しているかは聞き取れないけどやめてよね、お母さんが起きちゃうじゃないか。
「だ―――ほ――い―」
「ま――いわ―――――」
ドタドタ、大勢が走る音が聞こえる、それにこれ近づいて来ている、何で?と疑問に思っていたら団体さんが現れた、まだ寝巻の人もいるしリーリエさんと同じ服装の人もいる、あと何でか全員女性だ、男は僕だけ?あ、僕は今女の子だ。
「リーリエ、ホントかい。マリアが喋ったってのは!?」
「落ち着いてくださいベル、マリアが驚いて呆けてしまっています」
「遂になの、ついに喋ったなの!」
状況がつかめない、どういこと?僕が喋ったことをリーリエさんが皆に伝えた、そしたらこの大騒ぎということかな、それとお母さんはこの騒ぎでも起きない。あと近い、近いよ取り囲まないで怖いから!
「う~ん、どうしたのみんな~」
この大騒ぎでようやくお母さんは起きたらしい、
「喋ったぞ!ベティー!」
それに対して興奮を抑えられないリーリエさんが返答する。
「私が喋ったのが~そんなに珍しいですか?」
まだ寝ぼけているお母さんは見当違いな返答をする。あとリーリエさん僕が喋ったと伝えないと、主語述語は大切だよ。
「ちげーよ、マリアがだよ!」
「え、マリアが!?」
リーリエさんのツッコミにお母さんは目を見開いて僕を見る、近いよお母さん、普通の赤ちゃんなら大泣きする距離だよ。
でも、チャンスだ。ここで今までの集大成を披露するのだ。
「おあよう、おかあしゃん」
うん、呂律が回らないのはこの際置いといて完成度は一歳に満たない幼児にしては満点の筈だ。これでお母さんも喜んで僕を褒めてくれるはずだ、てあれ?何で目が潤んでるの?もしかして僕はまた余計な事を。
「そうよ、私が、私がお母さんよ」
お母さんは僕を抱き上げて、優しく強く抱きしめる。
何だろ、この気持ちは、胸がとても温かい気持ちに溢れてくる。
抱きしめられたのは初めてじゃないのに、何でこんなにも胸が温かいのだろう。
「ねえ、皆…」
あれ、何だろうお母さんの声が何か低い。
「最初にマリアは何て喋ったの?」
あれ、お母さんの声が…やっぱり低い!というかドスが効いているんだけど!?何でさ!?
すると震える声でリーリエさんが素直に答えてしまう。
「あ…あたしの名前だけど……」
「そう、リーリエさんなんだ、初めての人は……」
お母さん、それだと別の意味になるよ!それ以前に何でそんなに怒ってるの!?
「し、仕方ねーだろ!何時もの日課で、しっこしてねーか確認した時だったんだからよ」
そうリーリエさんは悪くない、悪いのは僕だ。謝らなければ、よく分からないけど謝らなければ、修羅場になる気がする、いやもう修羅場だ。
「おかあしゃん、おこらないで」
「はい、怒っていませんよ。ただ抜け駆けした人を問い詰めていただけです」
笑顔が逆に怖い!あれですか、自分の子供が最初に呼んだ相手が自分ではなく他人だった事を怒っているのですか、失敗した。予行練習なんてするべきじゃなかったんだ、一発ぶっつけ本番で言うべきだった。ごめんさないリーリエさん!
「まあ、落ち着きなってベティー、マリアが涙目になってるよ」
「え?あ!ごめんねマリア、もう怒っていないわよ」
「うん」
ああ、さっきまでの殺意すら篭っていそうな笑顔はとても優しい笑顔に戻っていた。
何て
ふと窓の方を見ると、馬?鷲?は呆れた様な目を僕に向けていた。。
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