第1章 廻った少年の日々

1話 転生しました

「生れて来てくれて、ありがとう」


 声が聞こえた、いや、それ以前に僕は死にましたよね?なのに何で布か何かに包まれて、誰かに抱き締められているんだ?

 それに視界が眩しいくらい強い光に包まれて真っ白だ。


 どういう状況なの?腹を思いっきり刺されたし、曖昧だけどたぶんあの後、滅多刺しにされた筈だよね。

 確実に殺されてましたよね、これ走馬灯?でも確か母は血が止まらず、僕を産んですぐに出血多量で意識不明になって、そのまま亡くなった筈だ。


 だから僕を抱き締めるとかそういう事は出来なかった、つまりこれは走馬灯ではない?ならこの状況は一体…聞き間違えたのかな?「生きててくれて」を「生まれて来てくれて」と聞き間違えたのかな?言ってくれる人に心当たりは無いから手当てをしてくれたお医者さんかな、取りあえず状況を確認したいから看護婦さんに聞いてみよう、


「あ、あうあうあ(あの、僕ってどれくらい眠ってました?」


 上手く喋れないや、僕はまだ自分が着る制服の採寸も終わってない、入学式に中学校の制服で参加という事態だけは避けたい。

 よし、もう一度聞いてみよう。


「あ、あうああ(あの、僕ってどれくらい眠ってました?)」


 あれ、これ、変だぞ。声が変だ。同年代に比べて線の細い男だったけど声に関しては普通だった。体の割に声が低いとも言われた、それに対して今の声は赤ちゃんだ。そんな馬鹿な!何で声が赤ちゃんになってるんだ、もしかして滅多刺しにされた時に喉も切られたのかな?確認しないと。


「あ、あう、あああ(もしかして喉とか刺されました?)」

「ほう、これは何と元気良い赤子だ。将来はベアトリーチェ似のお転婆娘かな?」


 え?今何と仰いましたイケボなお医者さん(と思われる男性)?元気の良い?赤ちゃん?え、僕が?いやいやいや、いくら童顔だと笑われていたからと言って赤ちゃんはないでしょう、こんな大きな赤ちゃんとか、特殊な性癖の方じゃあるまいし。僕はノーマルですよノーマル!歳相応に健全な性欲を持った青少年ですよ!


「う、あ!あいあ!ああうあうあ!(抗議!断固抗議!僕は胸の大きな女性が好きな青少年だ!)」

「はっはっは!これは驚きだ、本当に元気が良い。お転婆娘確定だな」

「うあ!あうあう!うあい!(否!まだ言うか!そして僕は男だ!)」


 お転婆娘とか、赤ちゃんプレイに女装癖のセット、そんな特殊性癖の上位性癖なんて僕は持ってない!もしかして中一の時に体育大会でやらされた拷問、セーラー服を着て応援、その時の写真が流出したのか?訴訟だ!流出させた奴は絶対に法的に制裁を加えてやる!


「本当に、なんて元気の良い女の子なのかしら」

「ああ、君に良く似て可愛らしい女の子だ」


 え、ちょっと待って。もしかしてこれ、僕が本当に赤ちゃん?本当に女の子?

 説明を、状況の説明を求む。


「司祭様、この子の名前なのですが…」

「うむ、周りの意見は無視すると言い」

「あううああ!ういあう?(ちょっと待って!名前って?)」

「はい、では私の髪の色とお母様の名前を合わせた名前にします」

「あう、いうあうあ!(いや、本当にちょっと待って!)」

「早く知りたいと、急かしているぞ。教えてあげるといい」

「うあう(違う)うあうあ!(違うから!)」


 これってあれですか、あれなんですか?転生とかそういうやつですか?つまり僕は女の子に転生したんですか。

 男として童貞のまま、勉強だけの人生を送って終わったという事ですか!?


「ふふ、本当に元気が良いのね、マリアローズ」

「……うあ!(まじか!)」

「喜んでるみたいだな、ふむ。君の娘ならその名が相応しい」

「ありがとうございます司祭様。そして生まれて来てくれて、本当にありがとう。私のマリア」


 嗚呼。僕は本当に女の子に生まれ変わったのか……童貞のまま、死んでしまったのか。

 だから僕の視界が真っ白なのか、赤ちゃんの目が見え始めるのは確か生後半年位だった筈だ。


 家族から愛される事無く育ち、周りから女顔と言われ続け、リアル男の娘とか言われて性別を問わず仕舞いには教師まで虐めに参加して来た小学校での悲しい思い出、彼女は出来ず何故か同性に尻を狙われ続け、女子からは敵愾心てきがいしんを抱かれて話しかけたら睨まれ、男としての卒業式も迎える事無く終えた中学生時代、今度こそ春が訪れると期待していた高校生活を向かえることなく女の子に転生。


 前世の前世では僕は一体、何を仕出かしたのだろうか。

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