2話 赤ちゃんだから
転生してから今日でたぶん4ヶ月は経ったと思う。
生前、保健体育の授業が何の役に立つ!と言うクラスメイトを無視して僕はしっかりと受けていたお陰で、自分の成長からどれ位の月日が経ったか予測できた。
最初は暗いと明るいしか分からなかった、今はぼんやりだけど物が見える様になって来てお母さんの髪の色が赤いという事が判明した。
僕の名前のローズはお母さんの髪の色から取っていると言っていた、つまり僕の髪の色は赤色なのかな?早くはっきりと見える様になりたい、お母さんの顔を見てみたい。
だけど先はまだ長いから取り合えずそれは一旦置いといて、今はっきりさせるべきことは
マリアローズという名前から察するにイギリスか?と最初は思ったけどお母さんの名前はアトリーチェというらしく、ベティーという愛称で呼ばれている。そうなるとイタリアかスペインかと最初は思った、次に名前が判明したのは副女将と言われている女性で声から察するに冷静沈着なクールビューティーと思われる、で名前はアグネスというらしく確かドイツ系の名前だ。
次に判明したのは女将で声から察するには肝っ玉お母さんという感じの女性で名前はベルベット、よくお母さんの代わりに僕のお世話をしてくれる女性で声はハスキーで喋り方は少し乱暴だけど丁寧におしめを換えてくれるリーリエ、他にもララとかシェリーとか、もう多国籍過ぎて分からなくなって来た。
これ以上考えても結果は出ない、会話の内容から判断するにも情報が少なすぎる。目が見える様になれば肌の色や顔でヨーロッパか否かは判断できる、現段階で最有力候補はアメリカとカナダ、次にヨーロッパの移民大国であるフランスとドイツだ。
それにしても赤ちゃんの体は不便な事が多い、考え過ぎるとすぐに知恵熱を出してしまう。この前もそれで熱を出してお母さんを心配させてしまった。
排泄に関しても誰かに頼らないといけない、食事もだ。子育ては大変だと授業で習ったけど、まさか子育てをする側を飛ばしてされる側に戻るとは、人生は何が起こるか本当に分からない、父親に刺し殺されたしね。
駄目だ、頭がぼーとして来た。これ以上は熱が出てしまう、一旦寝よう。
眠って起きる、夢を見なければ一瞬の出来事の様に思えてしまう。でもこの生理現象だけは時間の経過を教えてくれる。
うん、おしっこしたね。
僕の今の体は欲求に素直だからね、いくらお母さんに苦労を掛けまいと努力しても結果は遅いか早いかだ。でも僕は前世で学習したのだ、苦労を掛け過ぎると刺されると!
僕が生まれ変わってから4ヶ月が経ち男性の声は最初のイケボなお医者さん?しか聞いた事が無い、最初はその人が父親かと思っていた。だけど生まれてから一週間を過ぎたら現われなくなり、健康診断は女将さんがしてくれている。
どうやら女将さんは医学の心得があるらしく、僕の健康チェックを欠かさずしてくれる、おかげで僕が知恵熱を出す以外は特に病気に罹ったことがない。
つまり謎のイケボの男性はお医者さんでも父親でも無い、なら父親は出張中かと思っていたけど1ヶ月が過ぎた段階で一つの結論に至った、僕に父親はいない。
お母さんと離婚したか死別したかのどちらかという結論に至った僕は今まで以上にお母さんに負担を掛けない様に努力して来た。
子育てには父親の手助けが必要だと言われている現代日本、ヨーロッパと比べて日本が遅れていると言われる原因の一つ、男性の育児への不参加。女将さんや副女将さんを始めとした女性達が手伝ってくれているお陰でお母さんの負担は少ないかもしれない、それでも働きながら僕を育ててくれているらしく夜遅くまで働いている。ならば一番神経を尖らさなければいけないの夜泣きである。
寝不足は危険だ、僕もテスト勉強で寝不足になり電車の中で尻を触られた時、普段なら逃げるのにその日は気が立っていて肘鉄を入れてしまった。
つまり寝不足になると判断力が鈍ったり頭も回らなくなる、だから僕は夜泣きゼロを掲げ現在まで貫き通している。
「――――――」
あれ、今気付いたけど誰かいる。首を動かして声の方を見る、ぼんやりとしか見えないけど何となく分かった。
お母さんと副女将さんさんだ、お母さんは髪が赤いからすぐに分かる、副女将さんは不思議な事に空色の髪をしているから一目で分かる。
それにしても何を話しているんだろう?
「目の隈は無くなりましたね、ですが落ち着いて来たからと言って気を抜くとまた出来ますので注意を」
「はい、副女将さん」
何とお!?目に隈!そんな馬鹿な、出来るだけ苦労を掛けない様に努力して来た、しかしそれがつもりでしかなかった、だと!目がまだはっきりと見えないから気が付けなかった。
いつもそうだ、僕は肝心な所が抜けている。簡単なことだ、働きながら子育てというのは過酷な重労働だ。海外の変わったCMでも母親がどれだけ大変かを雇用内容で説明するCMがあった。
ブラック企業も唖然とする雇用内容だったと記憶している、お母さんに苦労を掛けない様に我侭を言わずに我慢していたつもりだった、つもりでしかなかった。
さっきから感じるこの不快感は我慢するしかない。でも痒いし放置すると腫れてしまう、おしっこと甘く見ると痛い目にあう。
でもここで泣いてしまえば、たぶん休憩時間中の筈だ、大切な休憩時間を潰してしまう。
我慢すればいい、腫れても我慢すれば良い。あ、豊かな日本国に住んでいて忘れていたけどアメリカとか医療費が全額自己負担の筈だ、僕が死んだ年には新しい大統領が保険政策に関して何かすると言って大荒れだった、僕が何年後の世界に転生したのか知らないけどあの大統領が当選していたら、医療費が……。
「あう?(あれ?)」
何か、凄い
頭がぼーとする。
「マリア!どうしたのマリア!!」
お母さんの声が聞こえる。
「熱ですね、後たぶんおしっこしてますね」
副女将さんの声も聞こえる。
「もしかしてまた、知恵熱なの?」
「そうですね、たぶん。おしっこをして泣きたくなったのを我慢した所為だと」
はい、その通りです。
「もうこの子は、何で我慢するの?お母さん、それくらいで貴女を嫌ったりしないのに……」
「ベティー、赤子を相手に言っても分かりません。こちらが気付いて先回りするしかないのです」
「それでも言わないと…せめてお腹が空いた時とおしっこをした時は泣いて欲しいわ」
僕はお母さんに苦労を掛けまいと、迷惑を掛けまいと、我侭を言わず我慢して来た、でもそれは逆に心配させて負担にしかなっていなかった。当然と言えば当然だ、赤ちゃんなのだから良く飲み良く出さなければすぐに体を壊してしまう、なのに今まで出来るだけ飲まず、出来るだけ出さないだった。ちょっと腫れただけがすぐに重症化もする。赤ちゃんだからだ。
次からは夜泣きを気をつける程度にしてお腹が空いたら泣きます、でも今言うべき事は、
「あうああう……(ごめんなさい……)」
である。
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