08.小さな世界地図

 千鶴には考えがあった。

 祖母は、いずれ孫娘がこちらの世界に足を運ぶことになると確信した上で、あの酷く魅力的なおとぎ話をして聞かせたに違いない。いかにも祖母の考えそうなことだと千鶴は思った。


「これが王国の全体図ですか?」


 ルミエールの寝室の壁に貼られていた地図を取り外した千鶴は、それを持って暖炉の前に戻ってきていた。それを床に敷き、アンジエールと二人で覗き込んでいる。ノワールは頑なに顔を背けて、じっと暗闇を見つめていた。


「思っていたよりも小さいみたい」

「昔はもっと大きな国だったのだがな」


 アンジエールは地図を眺めながら、懐かしむように目を細めた。


「度重なる戦禍の影響で領地が奪われていったのだ」

「ここにも戦争が?」

「ないと思うか?」

「……お祖母ちゃんも戦争をしたんですか?」

「いいや。チトセは争いを嫌っていた。大抵のことは話し合いで解決できると信じていた」


 ふうん、と相槌を打ちながら、千鶴は再び地図に視線を戻そうとした。しかしその前に、アンジエールの僅かに呆れた目が、能天気な千鶴を捉える。


「人々による諍いは常に起きている。それはどこにいても同じことだ。こちらだろうと、あちらだろうと」


 漠然とした思いはあった。こちらは争いのない平和な世界だと、そう勝手に思い込んでいた。だが、それが事実ならば、偽りの王が立つこともなかっただろう。国民はただ静かに女王の帰還を待ち続け、この厳しい冬を耐え忍んでいたはずだ。それをできないのが人間で、意思を持つ者たちだった。

 ブランが言っていたように、待ちくたびれた者、幻滅した者、諦めてしまった者――それらが現状を生み出している。

 すべての原因が祖母にあるとは思わない。だが、責任がないとも言い切れない。しかしながら、祖母はもうこの世にはいないのだ。それでも世界は廻っている。

 千鶴は、これが自分自身と向き合うための良い機会になるのではないかと、そう考えていた。祖母が去ってしまった現実を本当の意味で受け入れられず、自分に自信を無くしてしまっていた。これは好機だ。そう思えば、少しは物事を前向きに考えられるような気がしていた。

 この五年間、千鶴は千鶴でなかったのだ。それならば、今からでも取り戻せばいい。心の奥底に押しやられていた五年前までの自分自身を、千鶴は引きずり出してやりたいのだ。


「……お祖母ちゃんがこちらにいた時、好きだった場所ってありますか?」


 千鶴は大きく頭を振ると、すぐさま思考を切り替えた。いつまでも悠長に考え込んではいられないのだ。こちらの世界には自分の知らない祖母がいたのだと思うと、その面影をすぐにも見つけ出したくて、千鶴は居ても立ってもいられなくなっていた。


「好きな場所、か」


 千鶴がちらりと視線を投げかけると、アンジエールは地図を見下ろして首を傾げる。ぱちぱちと瞬きながら、また後ろ足で耳の後ろを掻いている。


「好きだったかどうかは分からないが、特に気に入っていた場所はこの三か所だな」


 そう言ったアンジエールは、自らの前足で地図の各地点を示していく。


「白濁の滝、流星の砂地、万年樹」

「石というのは、全部で何個くらい?」

「石の数は女王によって違う。だが、チトセが実際に破壊した石は、全部で五つだった」

「それ以外の女王様たちは?」

「覚えていない」


 アンジエールの答えに、千鶴はきょとんとした。


「先ほども話したが、最後の石が破壊されると同時に、女王に関する記憶のすべてが淘汰される。故に、チトセ以前の女王のことを覚えている者は、誰一人としていない」

「それって、女王様の記憶だけがぽっかりなくなってしまうということ?」

「そうだ。だが、歴代の女王について記された書物は残されるので、石の数については記録を調べれば分かるだろう。歴史も、女王たちの功績も、記録として引き継がれ、国は滞りなく続いていく」


 あっけらかんと説明をするアンジエールに、その事実を悲観している様子は微塵もない。千鶴にはそれがとても不自然に思えたが、なぜそう思うのかは分からなかった。ただ、喉元に引っかかる小骨のような違和感が居座っている。


「君はチトセが好きだった場所に石が隠されていると考えているのか?」

「え? あ、うん、そう」


 千鶴は慌てて頷いた。


「それから、思い入れのある場所とか」

「ノワール、お前もどこか心当たりはないか?」


 気を使うように声をかけたアンジエールだったが、ノワールはほんの少しも表情を動かさずに、小さく肩をすくめただけだった。それを見たアンジエールはこれ見よがしにため息を吐き、また後ろ足で耳の裏を掻く。


「そんなに痒いの?」


 思わずそう問いかけると、アンジエールは黒々とした目を丸くさせた。


「私が掻いてあげましょうか」


 そう言って立ち上がると、ちょうど胸の高さにアンジエールの頭があった。毛先は思っていたよりもずっとやわらかく、とても触り心地が良い。まるで、ベルベットの生地を撫でているような滑らかさだ。

 いつまでもそうして触れていると、アンジエールが不思議そうに見てきたので、千鶴は慌てて耳の後ろを掻いてやった。


「この地図を見た限りでは、その白濁の滝という場所と、万年樹はさほど離れていないみたいだけれど」

「うん?」


 千鶴の手の平に耳を押し付け、気持ちよさそうに目を細めていたアンジエールは、我に返って地図に目を落とした。


「ああ、君の言う通り、直線的な距離ならばたいしたことはない。だが、結構な高低差がある」

「山を登るんですか?」

「そうだ。万年樹があるのは山頂付近だからな、行くとなるとそれなりに過酷かもしれない」

「大丈夫です、体力には自信がありますから」


 耳の後ろを掻いてやりながらそう言うと、それは頼もしいと言って、アンジエールはくつくつと笑った。


「あとは、そうだな。私よりもプティーの方が詳しいことを知っているかもしれない」

「あの子が、ですか?」


 その物言いが半信半疑そうに聞こえたのか、礼を言ってから千鶴を隣に座らせたアンジエールは、面白そうに口の端を引き上げた。


「あのように見えて、あれは私たちよりもずっと年長者だ。いろいろと役に立つこともある」

「なにそれ、嫌な言い草だね」


 ぶすっとした声が頭上から聞こえてきたのは、すぐのことだった。だが、驚いているのは千鶴だけのようだ。他の二人は至って平然としている。アンジエールは濡れた鼻先を持ち上げて、二階の踊り場を見上げた。


「まるでぼくが便利道具か何かみたいじゃないか」

「間違ったことを言ったつもりはないが?」

「アンジエールって時々、物凄く意地が悪いよね」


 とん、とん、とん、と軽い足音を立てながら階段を降りてきたプティーは、その小さな身体を精一杯伸ばしながら、大きく欠伸をした。


「おはよう。早いんだね、ええっと、チヅル?」

「うん、おはよう」


 最年長者だと聞かされたところで、見た目は弟の悠とさほど変わらないのだ。思わず気軽に応じてしまった千鶴を見ても、プティーは嫌な顔をするどころか、にこりと嬉しそうに笑っている。


「なんか、嬉しいね。こうしているとチトセと話をしているみたいだよ」

「君はお祖母ちゃんと仲が良かったの?」

「うん、まあね」


 どこか誇らしげに胸を張りながら、プティーは千鶴の隣にすとんと腰を下ろした。

 栗色の猫毛はアンジエールの毛と同じくらいやわらかそうで、思わず手を触れてみたくなる。色白の素肌はとてもきめが細かく陶器のようで、目は透き通るような空の色をしていた。頬は紅を差したようにほんのりと染まり、唇は小さくて可愛らしい。まるで、ルーベンスが描く子供のような容姿をしていた。

 祖母から聞かされた話を信じるならば、この少年は実に千年もの間、この姿のまま生きていることになる。だが、やはり俄かには信じがたい。


「それで、ぼくに何を聞きたいの?」


 プティーは目の前に大きく広げられている地図を見回しながら言った。


「チヅルは、チトセの思い入れが深そうな場所を知りたがっている。そこに封印の石があるのではないかと考えているようだ。私が知っているかぎりでは、白濁の滝と流星の砂地、それから万年樹くらいなのだが」

「うーん、そうだね、煌きの湖面にもよく遠乗りで出掛けていたよ。あとは、夢見の泉とか果ての窪地――思い入れという意味でなら、北の廃墟もそうじゃないかな」

「北の廃墟か」


 プティーが言った北の廃墟という言葉を繰り返し、アンジエールはちらりとノワールのことを一瞥する。しかし、ノワールは明後日の方を向いたまま、むすっとした面持ちを浮かべているだけだった。


「だが、あの辺りは一層危険な状態だろう」

「今じゃどこも危ないことに変わりないよ。それに、あっちの世界からチトセの後継者になる女王候補がやって来たって本当に確信しているなら、やつらは間違いなく包囲網を広げてくるはずだし」

「ノワールはどう思う?」


 アンジエールが訊ねると、ノワールは嫌悪感を剥き出しにした顔で、声の聞こえた方に顔を向けた。眉間には立派な渓谷が出来上がり、暗い色の目には、鋭い光が宿る。


「お前たちに分からないんだ、私に分かるものか」

「そう? 本当は君の方がぼくたちなんかよりもずっと、チトセのことを知っているはずだと思うけど」

「私がか? 馬鹿な」

「あのね、ノワール。いつまでそうやって怒っているつもりなの? チトセはもう帰ってこないんだよ。だからぼくたちは、もう前へ進むしかないんだ」

「私が怒っているだと……?」

「だって、そうじゃないか。チトセが去ってからというもの、君は一度だって笑ったことがないよ。まあ、ぼくだって気持ちは分かるけど、つらいのは君だけじゃないんだ。それに、チヅルがすべての石を破壊してくれれば――」

「私の知ったことではないと、そう言っている」


 すべてを拒絶するような、険しい声音がそう告げた。言葉と同時に立ち上がると、全員に背中を向けて小屋を出ていこうとする。


「ちょ、ちょっと待ってください、ノワールさん!」

「いいから放っておけ」


 呼び止めようと立ち上がり、後ろを追いかけようとした千鶴のスカートの裾を、アンジエールがそっとくわえた。身体がくんっと後ろに引かれ、千鶴は振り返る。


「少し頭を冷やしてきた方がいい」

「でも」

「いいんだ」


 アンジエールはスカートの裾を放すと、玄関から出ていくノワールの背中を黙って見送っていた。

 目が見えないのに、一人きりで行かせてしまっても大丈夫なのだろうか。外は雪が積もっていて、足許が悪い。族が出るとも言われているのに、危なくはないのだろうか――千鶴がそう思いながら、少しだけ乱暴に閉められた扉を見ていると、傍らに座っていたプティーが大きく息を吐き出した。


「ノワールなら心配いらないよ。目は見えないけど、耳がいいから」

「だからって一人で行かせてしまうなんて」

「余計な心配はしない方がいいのさ。ノワールは一度へそを曲げると手に負えなくなるから、放っておくのが一番なんだ」


 それよりも、お腹が減らない? と言ったプティーは、アンジエールに意味のありそうな眼差しを向けた後、千鶴がまだ足を踏み入れたことのない、台所の方へ姿を消した。

 あのように小さな子供が一人で台所に入るなど、千鶴の常識では考えられない。けれど、この世界では千鶴の考える常識など、たかが知れている。千年も生きている子供を相手に、台所は危ないから入っては駄目だと言うのは、酷く失礼にあたるのだろう。


「チヅル、座りなさい」


 ノワールが消えた先と、プティーが消えた先を交互に見ていると、アンジエールがそう静かに言った。千鶴はこくりと頷き、肘掛け椅子に座り直した。


「プティーが言うように、ノワールなら心配することはない。目が見えないということを、気にしてやる必要もない。それはあれにとって、この上ない侮辱に他ならないからだ」

「……はい」

「本当は見えているようだろう?」


 アンジエールは物静かな口振りで言った。千鶴が顔を上げてアンジエールを見ると、大きな目が優しげに細められる。その目に光が差し込んで、また星のような煌きを放った。


「だが、あれは本当に見えていない。当人はそれを苦とも思っていないだろう。見えないからこそ、見えてくるものも多いからな。私やプティーのように、チヅルの外見に惑わされることもない」

「……私、そんなにお祖母ちゃんに似ていますか?」

「ああ、よく似ている」


 懐かしむように、少し愛おしそうに見つめられ、千鶴はつい居心地の悪さを覚えてしまう。

 その眼差しはまっすぐに向けられていたが、どこか遠い場所を見つめているようでもあった。千鶴自身に向けられるのではなく、祖母の面影を探すような眼差しが、心をちくちくと突くようだった。

 この人たちが待っていたのは、千鶴ではないのだ。千鶴でも、美優でもなく、祖母の帰りを待っていたに違いない。何年経ったかさえ忘れてしまうほど、長い時間を。


「お祖母ちゃんが残した石をすべて破壊してしまったら、あなたたちはお祖母ちゃんのことを忘れてしまうんですよね?」

「嫌なのか?」

「嫌というか、あの、ただちょっと、さみしいなと思って」


 千鶴は祖母を忘れたいとは思わない。それに、忘れて欲しいとも思えなかった。それなのに、この人たちは祖母のことを忘れてしまう。ずっと帰りを待ち続けていた人の存在を、石が破壊される度に、少しずつ。

 それは、ちょっとさみしいどころの話ではなかった。大切に思っていた人たちに忘れられてしまう祖母もまた、酷く哀れだと千鶴は思った。


「そのことを君が気に病む必要はない」

「でも、あなただってお祖母ちゃんのことを忘れてしまうんですよ?」

「忘れたことを忘れるのだ、つらいことなどあるまい」


 本心からそう思っているのだと分かる、曇りのない目をしていた。なぜその程度のことで心を痛めるのかが分からないとでもいうふうだった。

 これまでも、この世界では当たり前のことのように受け入れられ、執行されてきたことなのだ。誰も拒むことなどせず、当然のこととして享受されてきた。ただ、歴代の女王たちだけが、すべてを覚えている。それはあまりに残酷で、悲しいことだと千鶴は思うのだ。


「私やプティーは何度も繰り返してきたことだ。だから、仕方のないことだと受け入れている。忘れることに恐れや苦痛は伴わない。だが、ノワールは別なのかもしれないな。あれにとっては今回が初めての経験だ」

「どうしてノワールさんだけが?」

「それは、ノワールが限りある生の生き物だからだ。君の世界では、それを人間と呼ぶのだろう?」


 アンジエールの言葉を受けて、千鶴は目を丸くした。とても当たり前のことを言われただけだというのに、なぜか酷く動揺している。


「……人間、ですよね、やっぱり」

「ノワールはな。だが、まさかこの私は人間には見えないだろう?」


 愉快そうにそう問いかけてくるので、千鶴は慌てて首を横に振った。


「で、でも、お祖母ちゃんがここを去ってもう何十年も経つのに、ノワールさんはどう見ても二十五歳くらいで……」

「それは、女王がいなくなり、この国の時間が凍り付いてしまったからだ。明けない冬の訪れが、人々の時の流れさえ凍らせてしまった。変化のない日常というものは、人々に苦痛を与えるものだ。それ故に、自らを王と名乗る者が現れ、無理やりにでも春を蘇らせようとしている。そして、春の訪れを待ち望んでいる者たちが、その考えに賛同してしまう」


 アンジエールは、それをとても悪いことだというふうに言う。だが、千鶴には分からなかった。いつまでも現れない女王を待ち続けるよりも、今いる者の中から相応しい統治者を選んだ方が、よほど建設的だ。それに、もし祖母の代わりに美優が現れたりなどしていれば、この世界の人々は、絶望すら感じていたことだろう。

 母がこの国の女王になるくらいなら、別の誰かが統治者として君臨すべきだ――千鶴は苦々しい感情を黙って飲み込みながら、そう考えた。


「それに、冬は実りが少なく、食べるものも満足に得られない。毎日がこの凍えるような寒さだ。耐えかねた人々が森を切り崩しはじめている」

「……木を切って、暖を取っているの?」

「木を切り、薪を作るくらいなら、まだ可愛げがある」


 そう言ったアンジエールが鼻の頭にしわを寄せたのを見て、千鶴はすぐに察した。恐らく、食べるに困った人々が森に入り、動物を殺しているのだろう。

 もちろん、この世界にも食用の動物はいるはずだ。こちらにも人間が暮らしているのであれば、牛や豚、山羊、羊などを、家畜として飼育しているだろう。けれど、それらすべてを食べつくしてしまったとしたら、森に入っていって動物を狩ることも厭わないはずだ。生きるためには、食べなければならない。


「チヅル」


 肘掛け椅子の上で膝を抱え、暖炉を見つめて考え込んでいた千鶴に向かって、アンジエールが静かに呼び掛けた。


「この王国は魔女の力によって成り立っている。その力は代々受け継がれていくものだ。君にも同じ力が備わっている」

「……私が、魔女?」

「間違いなく」

「お祖母ちゃんも?」

「そうだ。ここは、魔女の王国なのだから」


 やはり、これは夢なのではないかと、一瞬だけ千鶴の思考が振り出しに戻りそうになった。

 千鶴はずっと、自分を人間だと思って生きてきたのだ。確かに、祖母譲りの第六感は備わっていた。しかし、それはただの第六感であって、魔女の使う怪しげな能力などには程遠い、些末なものだと信じてきた。

 そうでなくても、一体誰が信じるというのだろう。お前は魔女だと、魔女の孫だと言われたところで、普通ならば信じられるはずがない。


「魔女の力で存在しているこの王国を、魔女でない者が統治することはできない。そのようなことになれば、この魔女の王国は魔法の力を失ってしまう」

「魔女の力って……?」

「分かりやすく説明すると、私がただの犬になる、ということだ。魔法の力で生かされているプティーも、間もなく限りある生を終えるだろう。この国には魔法で成り立っているものが、数多く存在している」


 言葉を話す大きな犬も、千年生き続けている少年も、魔法の力によるものだ。そうと聞かされて、そうなのか、と納得してしまう程度には、千鶴もこの世界の理を理解しはじめている。むしろ、それは魔法以外には考えられない。どちらも非現実的で、奇跡的なことだからだ。


「だが、それらは所詮私たちの都合でしかない。自らを王と名乗る不届き者が現れてしまったのは、女王の留守を預かっていた私たちの責任だ。それを君に押し付け、どうにかしてくれと乞い願うことは、間違いだとわきまえている。私たちの手でこれを解決しなければ、新たな女王に玉座を差し出すことはできないと、昨夜話し合っていたところだった」


 アンジエールは星を散りばめたような目で、真摯に千鶴を見つめていた。


「無理強いをするつもりはない。封印の石を砕く旅路も、ルミエールの奪還も、大変な危険が付いて回るだろう。突然王国の女王になれと言われたところで、相分かったなどと了承できないことは理解しているつもりだ。だから、君は無理をせず――」


 アンジエールがその先に何と続けようとしていたのか、千鶴には分からない。ただ、その人の言葉を巧みに操る大きな犬が、続きの言葉を口にする日は、この先も訪れなかった。

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