ひだまりのゆくえ

里見優

プロローグ ある日の出来事

 ――なんなんだ、この人たち……。


 数人の男たちが、僕に近寄ってきた。

 

「君、どこの高校?かわいいねぇ」


 なんだこいつら。勘弁してほしい。適当に追い払ってさっさと帰ろう。

 そう考えている間に、いつのまにか一人の男がさらに近くまで来ていた。


 ――うわ、近っ!さっさと離れろ!


 そう言いだそうとした瞬間。


「俺らと一緒に、遊ぼうよ」


 そう、男がボソッと言った。僕の耳元で。

 その時、血の気が引くような不快感に襲われた。


 僕は男たちを無視して一目散に家に帰った。


「あ~あ、あの子怯えちゃって逃げちゃったじゃんかよ」


「ごめんごめん。次はちゃんとうまくやるからさ」


 背後で笑いながら、男たちが話しているのが聞こえた。



 

 いつのまにか、僕は家の洗面所の前にいた。必死に逃げてきたからか、走っている間の記憶がほとんどない。

 僕は、洗面所の蛇口をひねり、水を流しながら、


 

 ――気持ち悪い……気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!


 

 耳元を必死に洗った。これでもかというほどに。

 

「あ、兄ちゃんお帰り。そんな必死になって何してるの?」


「あ、トモおにいちゃんおかえり~!」


 二人とも家にいたんだ。でも、そんなことを気にしてる場合じゃなかった。


「ただいま!ちょっといまいそがしいから!用があるなら後で言って!」


 そう二人に言って、僕はふたたび、耳元を必死に洗い始めた。


 

 ――あぁ、神様……


 

 どうして僕は、男として生まれなかったんですか。




 どうしようもないことを考えながら、僕は耳元を洗いつづけた。

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