6/22(sun)円香の場合
曇り/25℃
些細なことでイライラするのは単に生理前だからなのか、店長が最近入店したキャストを贔屓しているからなのか。
そんなの、後者に決まっている。
この店で働くようになってから半年。
毎日正社員として”昼職”に通う傍ら、キャバクラに週4で出勤しているのは、店長の菅原がいるからだ。
“昼職”という言葉も、使用することに違和感がなくなった。
(…店長の好みそうな子。色白で清楚で、品があるタイプ)
今日は珍しく店長自ら付け回しをしており、先ほどからドリンクが出る席には彼女がつけられている。
(次は、その子なんだ)
店長が最後に円香を抱いたのは、もう2ヶ月も前だ。
体験入店で初めて菅原と会った瞬間は、別に何も思わなかった。
狐のような輪郭と切れ長の目をした菅原はまだ若かったが、店長という肩書きの名刺を円香に渡した。
「来てくれてありがとね。今日はよろしく」
ただその笑顔が、自分の容姿を売りにしている男、例えばホストがするような表情だったことはよく覚えている。
そして実際、菅原はホストのように女性を上手にコントロールできる人間だった。円香が菅原を男として意識するようになるまで、一晩も要らなかった。
日払いの給料を渡され、そのまま送りの車まで案内すると言われた。菅原はインカムを金庫の上に置き、ちょうど到着したエレベーターに一緒に乗り込んできた。
ドアが閉まった瞬間、菅原は円香の頬に手を添えて唇を重ねた。あっという間の出来事で、拒む暇もなかった。
「マドカさんは、可愛いね」
そう言って頭を撫で、もう一度キスをされた。今度は舌が入ってきた。女性の身体に熱を持たせる、一番効率の良いキスのお手本のようだった。
身動きできないように腰を抑えられ、180cm以上ある男が覆いかぶさる。香水の匂いがした。
ガタン、と音がしてエレベータが止まった。
わずか数秒の間に、円香は菅原に堕とされた。
自分でも、馬鹿だなと思う。
いわゆる「色恋管理」なのか単なる「風紀」なのか区別が付かないが、もちろんまともなアプローチを受けている訳ではない。キャバクラの店長である菅原が円香を恋人にすることは100%ありえない。
初めからわかっていたのに、この時点で円香は、自分が近いうちに菅原に抱かれるだろうと思った。そして、抱かれたいと願った。
円香が菅原に抱かれたのは、それからわずか二週間後だった。
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