第15話 その男、クリュウ

クリュウ。本名は三河内久隆みかわちくりゅう。彼は長崎県で生まれた。


小学生の時から何の変哲も特徴もない男の子で、友達と毎日遊んだり話したりしてその日その日を楽しんでいた。勉強は出来る方で、テストでは算数、理科などで100点をとっていた。しかし、何故か国語は苦手で、漢字は書けるのだが物語から問われる問題は全く出来ていなかった。


しかしクリュウの人生はある日、大きく変わった。彼が小学4年生の頃、クラスメイトの大林武おおばやしたけしが無数の切り傷を負い、死亡しているのが発見された。


クリュウは何も感じなかった。武とは接点はほとんどなかったし、死体なんてものは漫画やドラマで飽きるほど見ていたから、皆がショックを受けていることに疑問すら抱いていた。


ある日、クリュウがいつも通りに学校に行くと、教室はざわついていた。クリュウは不思議に思いながらも席に向かうと『人殺し』と大きく机に彫られていた。

「なんだよこれッ」

とクリュウが他のクラスメイトに問いただすが、

「お前がやったんだろ!お前以外に心当たりなんてないんだよッ!」

と逆に胸ぐらを掴まれ、押し飛ばされてしまった。


クリュウには身に覚えがなかった。武が殺害されたと思われる時間帯は親友の条湾弐東禁じょうわん にとうきんと遊んでいたのだから、身に覚えが無くて当たり前だった。クリュウはそのことを知っていたため、自分が犯人ではないという絶対的な確信と、こいつらを論破できるという自信に満ち溢れていた。


現実は違った。

弐東禁は

「俺はその時間、家でゲームしてたぞ。」

と言った。


クリュウは目の前が真っ白になった。

「おいッ!俺と遊んだことッ、覚えてないのかよ!!」

と弐東禁に怒鳴った。弐東禁は返事をしなかった。


クリュウの両親だけはクリュウを信じてくれていた。

「あなたがやっていないというのならやってないのよ。証拠が出るまで待ってみましょう。」

と母は言った。

「もし犯人が見つかったら久隆が疑われたことの怒りでぶん殴ってやるから安心しとけ。」

と父は言った。

この言葉はクリュウの支えとなった。


しかしながら残酷な現実は進んでいく。クリュウの父と母も疑われてしまった。決定的な証拠は無いが、

「父ちゃんと母ちゃんは俺を信じてくれてるんだぞ!」

とクリュウがクラスメイトに叫んだ結果、

「じゃあお前の親も関係してるから久隆を庇っているんだな。」

と決めつけられた。クリュウは弐東禁に期待の目を向けたが、弐東禁は期待に応じなかった。


クリュウは放課後に弐東禁の家に向かった。担任に相談してみようかとも思ったが、すでに学校の教師の大半はクリュウを疑っていたから諦めた。


「どうして嘘っぱち言ったんだよ!俺が疑われるじゃねーか!!俺は何もしていないのに!!」

と弐東禁が出てくるなりこう叫んだ。

「皆が久隆がやったと言ってるんだ。調。」

弐東禁はこう返し、家に戻った。


小学生の推理はほぼ暴論に近いものだが、幼いクリュウを追い詰めるには素晴らしいものだった。クリュウはクラスメイトに裏切られ、教師に裏切られ、親友に裏切られ、


犯人は捕まった。犯人とは、クリュウではなかった。犯人は通り魔で、無差別な犯行だったという。


しかしクリュウの貼られたレッテルは消えることはなかった。


クリュウは思った。

「大人数が思っているからそれが正しいだと?同調しないといけないだと?ふざけるな!!!それがだった! 人の思いや決めつけがどれだけ人を追い詰め、苦しめてるかなんて誰も何も理解してない!」

クリュウはこのことを[民主主義]だということを知った。そして民主主義を痛烈に批判するようになり、現代に至る。


クリュウは民主主義に逆らってもなお自分を信じてくれた両親を誇りに思い、コードネームも本名のままにした。そして仲間を手に入れた。




「NAMATAMAGOジムを占領し、人質と交換に民主主義を終わらせる!! 濡れ衣のない世界にしてやる!!」


クリュウは決心した。


続く


参考 Wikipedia

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