¶15

 ある夏の日、やたらと蜂ロボに付きまとわれて、暑さでもうろうとしていた俺はそれを振り払った。放っておけばどこかへ行っただろうに、そのせいで、俺は生まれて初めて蜂に刺された。飛んでいたのは自然蜂だったのだ。ただただ慌てふためいて、救急車を呼んで、ドローン(プロペラ機械の方)が薬を運んできて、それを観光客が俺をじろじろ見ていて、恥ずかしかった。


 俺の腕はまだ腫れている。助けてくれた人達が帰った後、俺はあの自然蜂はどこから来たのか気になった。作業員は夜の見回りシフトに入る事もあるので、俺は夜勤を利用して果樹園を回ってみた。果物に配慮して夜は明かりを付けない。懐中電灯で慣れた道を辿っていると、mark4が地面に落ちて、いや、座っていた。何十匹かが二等辺三角形をかたどり、鋭角が何かを指しているように見える。

 正直、あれは夢だったんじゃないかと思う。慣れない肉体労働と時差ボケで、俺は疲れていた。蜂ロボmark4に見える群れに近づくと、それは霧散した。暗闇でそこまで見えるだろうか。仮にいたとして、ただ水たまりで水を飲んでいただけじゃないだろうか。その時はあまり考えずに、俺は三角の指している方角へ歩いて行った。

 たしか事務所に連絡を入れたと思う。いくつか三角があって、その終わりには古い樹があった。ウロがあり、mark4が中に入った。懐中電灯で中を照らすとmark4が何匹か居て、それらが退くと蜂の巣があった。蜂ロボmark4は自然蜂の群れに混じっているようだった。


 翌朝、知らせを聞いたオーナーが養蜂場の知り合いを連れて来た。例の三角印はなく、老木のウロで見つかった蜂の巣は、模様によれば、mark3の騒動が起きた時期から巨大化していったらしい。

 この件で、バッキーもシステムエンジニアも、想定内のハッキング痕を見つけたが、システムに異常性は無かった。俺には自然蜂がmark4と共存しているように見える。mark4にも意識のような物があったとして、彼らはもっぱら蜂のように振舞っているとして、だったらmark3が達した結論とは別の解を得たのではないだろうか。mark4に話しかけても、ただ通り過ぎるだけだ。


 mark4はそのままにされた。注目されないのもmark4の答えなのだろうか。もっとシンプルに、単純機械が正常に動いているだけなのだろうか。俺は年を食って頭は鈍くなった。俺の激動の人生は、この古い果樹園に比べれば短いものだ、なんて思いつつ、蜂ロボについての話はこの辺で終わりにしよう。


 蜂ロボの最終世代、mark4というドローンがいる。その運用区画では自然の蜂が増えた。理由は分からない。だけどそのお陰で、俺たちは今日も蜂蜜が食べられる。

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蜂ロボ、または長い告白 葉山 @hayama_touka

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