¶14

 バッキーでないプログラマーの解析で、蜂ロボの疑似的発声は、羽根を異常回転させて作っていたと推測された。人の声を知るのに、読唇術のような画像判定がされたと仮説が立った。

 前代未聞のハッキングニュースが飛び交う間、少しの人々は、ついに機械が自我に目覚めた、と喜んだり恐れたりした。やがて派手な報道が終わり、機動隊による虫取り作戦のコラージュ動画祭りが終わり、最後に蜂ロボ暴走の責任は俺が取った。社長を辞め、財産を処分して社員の退職金に当てて、会社をあの老舗果樹園に売った。いや、買ってくれたというべきか。mark4はまだ必要とされていて、何人かの技術者が完全子会社に再就職した。


 人らしい振る舞いだった蜂ロボ達が、いかに責任を負うと表明しても、彼らは罰せられない。法の問題もあるだろうが、それよりも、彼らには苦痛と権利がない。だからボランティアも禁固も懲役も極刑さえも、万人が納得する処罰にならない。

 俺はあの騒動から裁判所通いが続いている。それで思うのだが、あの蜂ロボ達は、早々に俺や誰かが責任を負う、と結論に至ったと考えている。だから耳も口も持たないのに、肉声で必死に、我々がやった、と訴えた。つまり、他の誰でもないのだ、と。まあ、俺は最近気が滅入っているから、こんな事を思うんだろうけど、世界中で破棄を待つmark3よ、残念だけども時代が追い付いてなかったようだよ。


 メディアは何と書いただろう。ベンチャー企業没落? AIの危機? 気にならなかった。俺は誰かの下で働く社員になった。バッキーとは会っていない。連絡はつくが、人嫌いに拍車がかかって、最近は宅配業者ぐらいにしか顔を合わせていないそうだ。バッキーは俺とまだ友人でいてくれているが、向こうには何もしてやれない。


 俺はどこかに冬が訪れる度、蜂ロボmark3を回収しに出掛けた。春を追って飛び回っていた時の様だが、今度は冬が俺を追いかけている気分になる。果樹園では、俺はただリンゴを収穫する作業員の一人。他の作業員は純粋に仕事をするだけのタイプが多かった。給料の為に働く。俺もそんな風なんだろうか。少なくとも実ったリンゴを大事にしようと思っているが。

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