(精神障害、アスペルガー、発達障害を抱えた人に)アスペル・カノジョ(どうやって接したらいいか?)

アスペル・カノジョ、という漫画がある。(カクヨムの規約でamazonのリンクは貼れない)


新聞配達と二次創作のエロ同人誌で生計を立てつつ、たまにオリジナル同人誌を描いている(でもオリジナル同人誌はさっぱり売れないという)男性の主人公(健常者だが、人使いが苦手で親との交流も苦痛)のアパートの部屋をある日、一人の女性が訪ねてくる。


彼女は開口一番、挨拶もなしに主人公の出した同人誌を鞄から取り出し、「『内外開拓』(←主人公の描いたオリジナル同人誌)大好きです」と言う。


そして、いろんな意味で唖然とする主人公に「冊子版は売っていなかったので自分で刷って製本しました。家に予備でもう一冊あります」と続ける。


なんで俺の住所を知っているのか、と訝しむ主人公に彼女は

「ブログから窓から撮った写真があったので、近所のスーパーとか向かいのビルとか調べてこの部屋の窓からって思ったんですけど」

「別人なら時間の無駄なので早く答えてくれませんか。作者さんじゃないですか?」

と、彼女は畳みかける。


主人公はどうしよう、危ない人かな、と思いつつ売れていない自分のオリジナルの方の同人誌を好きだと言ってくれた彼女に「はい、作者です」と正直に答えて―――


……という場面から物語が始まる。


で、この導入からわかる通り、この「彼女」は、普通ではない。


腕にはたくさんのリストカットの跡

行きがかり上、部屋に留めたら布団の中で手首を切る。

一緒に歩いていたら、飼い主がうっかりリードを離してしまい、駆け寄ってきた犬を蹴っ飛ばす。

(もちろん犬が嫌いになったのには深い理由<ネタバレは避けるが、犬小屋を使った虐待>がきちんとあるわけなのだが、犬好きの私にはかなりの衝撃シーンだった)


だが、この彼女の問題の本質は、全く空気が読めないところだ(そのせいで、いじめや虐待を受け、歪んでいる)

「10時ごろのお届け」と言われた宅配便を届くまで1分刻みで宅配業者に電話をかけ続ける。

「引っ越してきた隣人がケーキを焼くのだが一人だと余るので、よかったらいかがですか?」と、言ってくれたのに対して

「知らない人の作ったもの食べたくない」と言ったりする。


作中の人物(発達障害で彼女ほどではないが障害を抱えた女性)も説明している場面があるが彼女は『人の反応を想定できない』。

何を言えば相手がどう反応するか予想できないから、突然失礼なことを言ったり話の流れと関係ないことを言ったりする。

(例えば、遊びに来ている友達に「観たいテレビあるから帰って」などと言ったり)

会う人全てから訳もわからず嫌われてキレられて無視されるようになって、人と接するのが怖くて仕方なくなる。


問題だらけの彼女だが、主人公はそんな彼女を理解しようとし、受け入れてもいく。


一番参考になるのは、主人公が『彼女』の問題行動に対して、いろいろ創意工夫をして対処していくところだ。


・心配性な人間はつい最悪の事態を想像してしまうが、彼女はその上パニック症状を起こしてしまうので、言葉を慎重に選ぶ。

・大体10時ころに、ではなく、10時から11時の間、というように一番遅い時間も予測できる伝え方をする。

・急いで結論を出そうとする彼女に「白黒はっきり結論をつけちゃだめ。そんなに単純じゃないよ」と、諭す。

・彼女の状態をみて、『このゾーンに入ったら慰めようと話題逸らそうと絶対に無理だから、癒してくれるのは時間だけ』と割切って諦めて落ち着くまで待つ。


もう少し長いエピソードを抜粋する。


彼女のことが分からない、理解できないと悩む彼女の母に主人公(すでに彼女と結構長い付き合いになっている)はこう説明する

「お母さん、ちょっと計算してください3+2は何になりますか?」

「? 5ですか?」

「はい。じゃあシックスプラスフォーは?」

「え……6+4? 10……?」

「はい。どうしてわざわざ6+4に直したんですか?」

「……」

「英語だと直感的には計算出来ないからですよね? それが彼女の住む世界です」

そしてこう続ける

「多分 人は知らない言葉を最初に聞いた時同じ反応なんですよ。でも次からは翻訳がいらなくなる そこで違いが出るんです」

「彼女にはずっと翻訳が必要なんです」

沈黙するお母さんに彼は言う。

「ただ全部に翻訳が必要なワケじゃないから周囲も混乱する。そういう反応を見た時に障害のことを忘れてしまうんです。同じ言葉で通じそうって期待してしまうというか……」

「僕はたまたま彼女と近い経験が多かったので共感出来てますけど、そうじゃない人が寄り添って理解に努めるのは大変だと思います」

--------------

amazonのレビューにもあったが主人公がこんな大変な彼女をうま味(強いて言えば、創作意欲を刺激される、というのだけがうま味といえばうま味だが)もないのに、win-winの関係でもギブ&テイクの関係でもなく、一方的なテイク&テイクの関係になっているのは少し気になるところだ。ご都合主義、といえるかもしれない。

(強烈な共依存関係、と取ることもできる)


でも、もし発達障害の人が身近にいて、その人が何を考えているかわからない、どう対処したらいいかわからない、と思っている人がいたら、試しに読んでみるといいかもしれない。


参考書としてではなく、ただ単に娯楽として読むだけでも面白い。

正直1巻より2巻目以降のほうが面白いと私は感じた。特に2巻で同じ発達障害(でも結婚も育児していて、障害の程度が軽く、看護師の資格も持っている)女性(清水さん)が現れるのだが、その女性にまつわるエピソード(ネタバレは避けるが)は、生きづらさを抱える人が何故、理解者に依存してしまうか。そして、その依存がどれだけ強烈で凄まじいいものなのかを見事に描き現していると思う。

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