ふざけんな、私を生まれる前に返せ

夢を見た。

私は幼くなっていて、どこかのお寺にいる。

その寺には、発達障害など様々な理由で、生きづらかったり、周りと上手くいかなかったりする子どもが全国から集められていて、補助教育をしている、という設定だった。


ある日、私は自分のお布団を干していたが、野良猫がやってきて、その布団に粗相される。

粗相=おしっこされた布団を見て、私は怒るでもなく、野良猫可愛いな、と思う。

生きているからおしっこをするんだ。


夢の中の私は生き物が好きで、弱いが優しいらしかった…


そして、飼うのは無理でも野良猫に餌をやりたいと願っていたところに母が来た。


事情を話すと、母はボーロのようなものをくれた。

私は喜んで野良猫にそれをやろうとする。


野良猫に近付くと、猫は身を翻し、お堂の方へ逃げて行った。

私は猫を追いかけて、お堂に入った。

すると、そこには一匹のいやらしい顔をした猿がいた。


私は猫に餌をあげたいのに、ボーロをあげると猿が皆、取ってしまう。

お堂には猫の他に鳥などもいるが、皆、猿に餌を取られるのか、げっそり痩せている。


猿は私から更に餌をまるごと取ろうと近づいて来たので、私は近くにあった棒で猿を強かに打った。

すると、猿は情けない泣き顔になって逃げ出した。


動物を虐めてしまった、と、私は自分のしたことにショックを受けて立ち尽くす。

母にどうしたの? と、問われてボロボロと泣きながら事情を話す。


春は優しい子ねえ、と母が言う。

私の名前は春というらしい。

私はお寺にある長い石の階段を母とゆっくり降りて、街に続く、海辺の道を二人で歩く。


私の言葉は少し方言が入っている。

「〜とっとよ」とか「〜なん?」とか、南の方の言葉に思える。


砂浜に温かい夕日が差し、海は美しい。


私はふいに母に尋ねる。

「ねえ、私、足らん子なん? もっと頑張らないといかんの?」

母は沈黙する。私は続ける。

「私、足らんの? ねえ、足らん子なん?」

母は私を痛ましいものを見る目で見て、

「お母さんは春に強くなって欲しい」

と、涙声で言った。


私の中から凄まじい怒りが湧いて来た。


「足りない子に産んでおいて、

何が強くなって欲しい、だ。

ふざけんな

ふざけんな


こっちは生まれたくて生まれたわけじゃない!

ふざけんな、私を生まれる前に返せ!」


ここで、目が覚めた。


起きた私は、夢の余韻で涙を零しながら、

これが、現実でなくて良かった。

母にこんな酷い言葉をぶつけてなくて良かった、とほっとした。


この夢を見た理由は分からないが、

夢の中の私は心から怒っていて、怒る気力もない今の私にはその怒りの感情を持つこと自体が、久しぶりの感覚で、新鮮かつ懐かしかった。


……私は、死にたい、というより、生まれたくなかったのかもしれない。


なんだか来世を少し覗いたようで、ちょっぴり怖い経験だった。


共感する人も多そうなので、備忘録として、ここに書き置いておく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る