心が楽になるかもしれない文章1 「Q人生って?」よしもとばなな
私はよしもとばななさんの文章がとても好きで特に初期の作品(キッチンから王国)くらいまではかなり読み込んでいる。
彼女の書く文章は、病んだ心にじんわりと沁み込んでいくお薬のようだな、と思っていた。
そうしたら、とある対談でよしもとさんが「自殺しようと思っている人が、私の文章を読んで、一晩だけは乗り越えてくれるものを目指している。本当は死ぬのを止めたいけれど、それは無理だから」というようなことを言っていて驚いた。
私は、自分の文章によしもとさんのような癒しの力はあまり感じない。
それが「健常」と「病者」の境なのか、それとも単に物書きとしての才能の差なのかは分からない。
(人生経験も格段に違うし、感受性だって……と言い始めたらきりがないのでそれは一旦、置いておいておく)
例えるなら私の文章は『北風』で、よしもとさんの文章は『太陽』という感じがする。彼女の文章は押しつけがましくなく、かといって、効用がないわけでもない。読んでいると温泉に浸かっているように楽になっていくのだ。
今回、すすめたいのは、よしもとさんが書いた文章の中でもピンポイントに心に刺さるであろう、人生のアドバイス集である。
「Q人生って?」よしもとばなな ISBN-13: 978-4344417274
https://www.amazon.co.jp/dp/B00FXNL3SC/ref=dp-kindle-redirect?_encoding=UTF8&btkr=1
読者から投げかけられた数々のレターから集約した、31の質問にQ&A形式でよしもとさんが彼女なりの言葉で真摯に回答している。
私は文庫版とKindle版、両方を持っている。
特に文庫版には、自分の心に刺さったQ&Aの冒頭にあたるページに、付箋代わりにクリップでしるしをして、いつでも読み返せるようにしている。
その中で、一番私の心にぐっときたのはQ25の質問だった。
「大切な人が、自ら死を選んでしまったとき、遺された者はどのように心の折り合いをつけたらいいのでしょうか」
彼女は、その質問に自殺された人と自殺する人の両面の気持ちをちゃんと想像して、織り交ぜて回答している。
そして、「ほんとうに愛していたらそんなこと(自殺)しない、というのはきれいごとだと思う」と言い切っている。
続けて、よしもとさんは、もし自分が自殺したら、愛する人や恋人にいちばんに見つけてほしい。とも綴っている。
それは、病気で死ぬときにお医者さんや看護師さんよりも家族に囲まれていたいのとほとんど同じ気持ちだと思う、と一般化して自殺したい人の気持ちを察して、優しく、くるんでくれている。
そして、自殺された人に対しては「自分をいじめないで、自分の心の声を聞いてあげてください。自分のつらさ悲しさ悔しさを、亡くなった人のことより先に」と思いやる。
この章については(この章以外の章も)本当に、辛いなら実際に買って、或いは金銭的に苦しいなら、図書館で借りたりなどして、読んで欲しいと思う。(ちなみに文庫版なら500円ぐらいで買える)
私がしるしをつけた章だけ抜粋すると、
Q1ほんとうの優しさってなんだと思いますか?
Q3怒りたいときに相手に合わせて笑って誤魔化しては、あとで自己嫌悪に陥ります。だれかに怒っていいのですか?
Q4どうしても毎日会わなくてはいけない環境に、苦手な人がいます。どういう心構えでいたらいいと思いますか?
Q23家族も友達も彼氏もいるのに、淋しいです。どうしたら淋しくなくなりますか?
Q25大切な人が、自ら死を選んでしまったとき、遺された者はどのように心の折り合いをつけたらいいのでしょうか
Q29病院選びをどうしていますか? いいお医者さんやセラピストの基準はなんでしょうか
この6つである。
もちろんこれ以外の章も「うむむ」と呻る名回答(そして、身に迫る質問)ばかりである。
最後に、Q25に書いてあった、彼女の回答の中で一番そうだな、と共感した締めの文章を書いて筆を置こう。
(自殺する)ほとんどの場合は、遺された人に対する甘えたい気持ちはいろいろあっても、不幸になれとは思わないと思う/それを信じてあげて下さい。甘えや恨みや妬みやどろどろもあるのがきれいごとではないこの世ですが、亡くなってしまってまでそれにとらわれていることはない、きっと自分に会いたいと思っているだろう。いい状態のその人に戻っているだろう、そう思ってあげましょう/苦しくてだめな状態のその人と同じくらい鮮烈に、いい状態のその人を思い出してあげましょう。
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