おまけ5 君(親友)の言葉に救われた-私はチワワ-
心身を壊して、公務員を辞めて三年ぐらい経ったころ。
障碍者になった私は、焦っていた。
甘いけど、本当に見通しが甘いとしか言いようがないけれど、本気になれば文章で身を立てられると思っていた。
公務員を辞めても、自分には先があると思っていたのだ。実際は、そんなものは、なかった。
毎日、谷底に続く斜面にぶら下がって、ずるずると落ちていくような恐怖を味わっていた。
積み重なる佳作の山。落選の山。
そんな折、自営業をしている実家のために、法律の資格か、簿記の資格をとって、少しでも役に立ちたいと私は思った。
生活のリズムもバラバラ。調子も一定ではないくせに、毎日起きて動ける時間が三時間ぐらいしかないくせに、それでも私はやろうとしていた。
実家のために何か資格をとろうと思っている、と久しぶりに携帯電話越しに親友に話した時、福ちゃんならできるよ、とか、頑張ってね、とかそういう当たり障りない言葉が返ってくるのだと私は思っていた。
だが、親友はちょっと沈黙したあと、はー……とため息を吐いた。
そして、数秒の間をおいて、覚悟を決めたように言った。
「あのね、福ちゃん。言い方は悪いけれど、福ちゃんは
は?!
チワワ……私はチワワ…… え? 何? それ? どゆこと?
混乱している私を落ち着かせるように懇々と親友は続けた。
「いい? 福井家は社長のお父さんが先頭に立って、お母さんも、長男もみんな、頑張ってバリバリ働いている。その様は、まるで極寒の中、
でね、福ちゃん。誰がチワワに
福ちゃんはね、弱いの。圧倒的に弱くて、小さくて、プルプルしているの。それが鍛えます! 強くなります!
え、えーっと……
「んじゃあ、聞くけど、チワワな私に求められていることって、なに?」
「そりゃあ、なるべく可愛くして、幸せそうにして、無意識でいいから、重たい荷を背負っている、家族みんなを癒してあげることだよ!」
「え、ええー……」
「っていうか、福ちゃん。自分が気づいてないだけで、もう、そういうポジションにおさまっているからね。だからあんまり悩まないで、自分がしたいことをして、余裕があったら家族や大切な人を癒す言葉をかけてあげることだよ。福ちゃんは言葉を使うことが得意でしょ? 言葉を、小説なんかの芸術作品を作ることに使うのも勿論素晴らしいことだけど、それ以上に、身近な人たちを救うことに使うのも尊いことだよ。私だって福ちゃんの言葉に何度も救われてるから」
――正直、自分がチワワと言われたときは多少の反発心を覚えたのも確かだった。
でも、ハスキー犬にはハスキー犬の素晴らしさがあり、
チワワにはチワワの素晴らしさがある。
親友よ、私は君の言葉に救われたよ。
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