理由2 自殺はイコール、殺人だから

 私が死なない理由2 それは自殺イコール殺人だからです。

 この言葉は私の言葉ではありません。私の母の言葉です。

 死にたい、とついつい本音を漏らしてしまった私に、母は言いました。

(ちなみに生んでくれた母に向かって死にたいという発言をした私は、我ながら最低の親不孝者だと思いますが、当時はそこに気づく余裕がありませんでした。自分のことしか考えられない、心の余裕のない状態だったのです)


「自殺はね、殺人なんだよ」

 私の頭の中は「?」マークでいっぱいになりました。

 自殺は自殺でそれ以上でもそれ以下でもない。そう思ったのです。


「真世が自殺するということは、真世が真世を殺すこと。真世は人間でしょう?人間を殺すことを殺人というのよ」


 なんだか禅問答のようで、呑み込みの悪い私には、まだしっくりきませんでした。

 母は私に続けます。


「ねえ、真世。私はあなたを愛しているの。私だけじゃない。沢山の人があなたを愛しているの。私から愛する人を奪わないで。沢山の人から愛する人を奪わないで。そんな権利はあなたにはない」


 ……なるほど。少し呑み込めました。

(私は愛されるに足る人間なのか。家族以外にそんな人いるのか、そして愛されていない人間はどうなるのか、自殺しても構わないのか。などと屁理屈も考えつきましたが)

 母は続けます。


「仮に真世が殺されたら、私は犯人を一生恨んで生きていく。絶対に許さない。そして、心から笑うことができなくなる。真世が殺されたのに、私は笑ってる。そんな自分が許せない。そう思うと思う」


 真世は私を苦しめたい? 一生笑わないで生きていってほしいと思う?

 母は畳みかけます。


「真世が自殺。いえ、真世が自分自身を殺したら、もしかしたらまったく無関係の他者に殺されるより、私はずっとつらい思いを抱えることになる。だって、事故で真世が死んだら、私は車を運転していた人を憎める。通り魔にあって真世が死んだら、私は犯人を憎むことができる。裁判だって出来るし、罪をつぐなわせることもできる。いっそのこと、私が犯人を殺すことだってできる」


 そうきたかー……。私は頭を抱えます。


「それにね、私が仕事を頑張ってるのは、もちろん自分自身のためだけど、真世が働けない分、私が稼がないと! って自分を奮い立たせているのよ」


 ごめんなさい。といった私に、「謝らないで」と母は言います。

「真世がいるから、私は生き生きと仕事ができるの。気力がわくの。頑張れるの。真世は私のエネルギー源なの」


 若干重たすぎる愛を感じて、ずーん、となっている私に母は続けます。


「真世が真世を殺したら、真世はね、

 私から本物の笑顔を奪います。

 私から仕事を頑張る気力を奪います。

 私から犯人を憎む権利を奪います。

 私から罪を償ってもらう権利を奪います。

 私から犯人を殺す権利を奪います」


 まとめあげられました。あちゃあ。ここまで言われて自殺できる人間はいるでしょうか? いるかもしれない。でも、少なくとも私には無理でした。


 自殺イコール殺人。

 いや、むしろ殺人より罪が重い行為。


 それが私の中に「概念」として、しっかり根付いてしまったのです。


「真世。あなたには真世を殺す権利はありません。今の日本社会で、殺人を犯す権利は誰にも認められていません」


 とどめを決められました。スープレックスです。


 これが私が自殺しない(自殺出来ない)理由その2です。

 続きます。

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