死にたいけれど私が自殺しない(自殺出来ない)理由

福井真世

理由1 自殺未遂に終わった(死ねなかった、失敗した)とき、悲惨だから

 私は統合失調症という病気で精神科の閉鎖病棟に3回入院したことがあります。

 そして、そのときに自殺未遂をした人に沢山会ってきました。

(閉鎖病棟では、むしろ、自殺未遂したことがない人のほうが珍しい)


 洗剤や農薬を飲んだ人がいました。

 処方薬を大量摂取した人がいました。

 ガソリンを被って焼身自殺しようとした人がいました。

 手首や首の動脈を切ることで死のうとした人がいました。

 走っている車に向かって突っ込んでいった人がいました。

 人身事故を起こして失敗した人もいました。

 舌を噛み切った人もいました。

 包丁で胸をついた人もいました。

 首吊り自殺を図った人もいました。

 食べることをやめて餓死しようとした人がいました。

 川や海に飛び込んで入水自殺を図った人、飛び降り自殺しようとした人……とにかくありとあらゆる方法で死のうとした人に出会ってきました。


 車いすの人、消えない傷跡が残った人、薬を大量摂取したせいで内臓が弱った人……。いろんな人がいますが、自殺未遂をして身体的にダメージを受けなかった人、というのは私の知る限り、一人もいませんでした。

(当然ですよね。自殺するには自分を死ぬほど傷つけなくては達せられませんから)


 歩けなくなった人がいました。(車いすになった人がいました)

 内臓のダメージのせいでひどく疲れやすくなった人がいました。

 ひどい火傷を負って美しさを失った人がいました。

 失職した人がいました。

 脳が委縮した人がいました。(首吊り自殺は、脳に酸素がいかなくなるので、脳が委縮します)

 仕事ができなくなった人がいました。

 障害が残った人がいました。

 胃洗浄で地獄の苦しみを味わった人がいました。

 自殺未遂をきっかけに家族の縁を切られた人がいました。

 恋人から別れを切り出された人がいました。

 一方的に離婚された人がいました。

 子供に授乳できなくなった人がいました。


 そして、自殺を図ったのですから当然ですが医療保護入院(自分の意志ではなく家族等の意志によって)で閉鎖病棟に入ることになります。

 つまり、実質的には強制入院(医療保護入院は法的には同意上の入院の扱いになります。自分では同意していなくても、家族等、保護者が入院に同意しているわけですから)の憂き目にあうのです。


 閉鎖病棟では患者の安全のために希死念慮が収まって落ち着いたと判断されるまで、監視カメラ付きの部屋で手足を拘束されます。

 ベッドに縛り付けられます。トイレは部屋の隅にカーテンに仕切られた状態でありますが(ちなみに監視カメラ付きです。水は危険ですからね)医師の許可が下りるまでは導尿(尿に管を入れられる)され、おむつを履かされます。飲水は決まった時間だけ。食事もできない状態だと判断されたら、点滴をされるか、胃ろう(のどに穴をあけられ、胃の中に直接食べ物を流し込まれる)の状態に置かれます。

 状態によってはナースコールを取り外され、自分の意志で看護師を呼ぶことすら許されません。


 薬は絶対に飲まされます。薬を飲んだら、口を開けて、舌の裏まで看護師に見せます。朝昼夕食後と寝る前。毎回、一人ひとり、チェックされます。拒薬をする患者は、注射をされるか点滴をされるか。


 つまり、投薬を自分の意志で拒否することは出来ません。


 状態が良くなっていくにつれ、徐々に自由が与えられ、トイレに行く権利が、好きな時に水を飲む権利が、病院内に限りますが、決まった時間の間だけ外出できる権利が、売店に行ける権利が、公衆電話で電話する権利が、つまりありとあらゆる自由が段階的に徐々に与えられていきますが、それは遠い道のりです。


 精神科の閉鎖病棟での平均入院期間は三か月と言われています。

 入院している間は閉鎖病棟内で治療に専念するしかありません。パソコンや携帯電話に触れることは基本的には、できません。

 病棟内にある娯楽は、テレビと、昔懐かしいCDコンポと、雑誌などだけです。あとは、トランプやオセロなど。それも許可が下りなくては楽しむことができません。


 面会は基本的には家族のみ。それも、特殊な事情を除いて、一親等の家族と配偶者だけで叔父や叔母、従兄弟などには会えません。

 結婚していなければ、恋人には会えません。友人にも会えません。


 選挙は、許可が与えられた人だけ、監視付きの上、病棟内の部屋で投票することができる、という扱いです。選挙権すら制限されます。


 何より、貴重なあなたの時間も奪われるのです。


 例えば、あなたが20歳だとして、残りの人生を50年だと仮定しましょう。

 一日24時間のうち、睡眠時間や食事をする時間をさっぴくとあなたが自由に使える時間は一日14時間くらいでしょうか。


 あなたが使える時間は14(時間)×365日×50(年)です。

 計算すると約25万5千時間です。


 わかりやすくお金に例えましょう。あなたは総資産25万円5千円を持っています。

 そして、1日あたり14円を切り崩して生活しています。


 ただ、お金と違って時間は、増やすことができません。

 どんな大富豪だろうが、ホームレスだろうが、平等に1日14円を強制徴収されます。


 三か月入院するとしたら、あなたは総資産25万5千円のうち、1260円を自分の意思に関わらず奪われることになります。


 自殺に成功できれば(という言い方は良くありませんね)楽になれるかもしれない。

 でも、失敗したら上記のことが起こります。


 自殺の成功率は約10%と言われています。(自殺の方法によって異なりますが)

 つまり自殺を図ると90%の確率で助かってしまい、上記のことが起こります。


 確実に自殺できる方法を選べばいい? そうですね。それも一つの考え方ですね。


 では、私が病棟内で出会った男の人Aさん(実在の人物です)を紹介しましょう。


 彼は三回自殺を図りました。

 1回目は飛び降り。足が不自由になりました。

 2回目は首吊り。助かってしまい、脳にダメージを受けて軽い知的障害になりました。

 3回目は焼身自殺。火事に巻き込まれて2名の方が亡くなりました。

 その2名は多分、死にたくなかったはずです。彼は法律によって罪には問われませんでしたが(裁かれる権利がないからです。罪を償うにも権利が必要なのです)人殺しになってしまいました。


 そして、それでも彼は生き残りました。(今はどうだか知りませんから、生きているかもしれません、と書くべきでしょうか)


 彼の自殺未遂に巻き込まれて亡くなった2名の方を愛する方は彼のことをどう思うのでしょう?


 話は変わりますが、運勢と運命と宿命の違いをあなたは知っていますか。


 運勢は自分の心がけによって簡単に変えることができるものです。ラッキーアイテム、なんてものもありますよね。

 運命は変えることが難しいですけれど、自分の意志で変えられないことはないものです。運命の人、なんて言い方をしますが、その人と結婚しない自由もありますよね? 天職なんてものがありますが、いろんな理由で自分に不向きな仕事を必死に頑張っている方は沢山いますよね。(天職に出会っていない、という可能性も大きいですが)


 運勢と運命は自分で変えられる概念のものです。

 では宿命はどうでしょう。


 人はいつか必ず死にます。

 時給7000万円とよばれるジョフ・ベゾス(Amazonの社長)だろうが、ビルゲイツだろうが、いつか必ず死ぬことからは逃れられないですよね?

 それが宿命です。絶対に人の努力では変えられない概念のものです。


 逆説的になりますが、あなたがどんなに死にたくても、人には『寿命』というものがあります。コインロッカーベイビーの寿命は0年でした。織田信長は49年。


 人は神様が(私は神を信じませんがあえて書きましょう)許してくれない限り、

 死ぬことが出来ないのです。


 それが宿命というものです。


 長々と書きましたが、以上が私が「死にたい」という気持ちになっても、自殺をしない理由その1です。


 続きます。

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