❷宝井舜介君の事案ー平凡キック!
マーリンはさらに追い打ちをかける。
「もちろんそれだけではありませんよ。この王国の建国記念日には必ず、『腹上死男』宝井舜介しかも『童貞(笑)』が同胞を見殺しにしたことが公式に語り継がれることでしょう。」
待て待て、童貞が腹上死とかないでしょ、普通。そして(笑)ってなんだよ。アメリカ育ちだからって誰もが「進んでる」とか思うなよ。
「え……え……?」
俺、そこまでされるほど悪いことした覚えがありませんが?
「いいですか? 将来あなたは『
うわ、そんなことされたら恥ずかしくて死ぬ。いや、もうすでに死んでるけど。まさに『死体蹴り』じゃねえか。俺は怒りがフツフツと沸いてくるのを感じた。
「なぜそこまでされなきゃならんのですか?」
俺の声はかなり怒りのトーンが入っていた。
「為すべきことを為さらないのは罪です。」
マーリンのトーンにも怒りがこもる。
「犯さなきゃ罪にはならないですけど。」
俺は反発した。
「宝井くん。」
そこにキングが割って入った。
「犯罪(crime)と罪(sin)は違うよ。正確には、犯罪は罪の一部分でしかない。君は今、仲間の人間を助ける力がある。それを使おうとしないと結果は明らかだよね。つまり、そういうこった。」
俺は黙ってしまう。
「確かに、起き抜けにこんなことを言われたら誰でも混乱しますよね。私も配慮が足りませんでした。申し訳ありません。」
マーリンが謝る。素直に謝られると俺も弱い。
「すんません。俺もわりと低血圧で寝起きが悪い方なんで、こっちも言い過ぎました。で、なぜ俺なんですか?」
俺は若干、期待していた。もしかしたら俺には生まれつき素晴らしい素質があるのかもしれないことに。
「私はあなたの
マーリンは善意で言ってるつもりだろうが、俺を刺し貫く言葉だった。
「私はこれからあなたに尋常ではない
あなたは何も描かれていない真っ白なキャンバスのように美しいのです。」
俺はぐうの音も出せず、ひたすら落ち込んだ。たった18年生きただけで、俺の全ての可能性を否定されたわけだ。
「ですから、『真っ白なキャンバス』と言いましたよね。なんの取り柄がないのがあなたの取り柄なのです。」
俺は少し悲しくなった。
「やりますよ。やればいいんですよね。もう、お願いですから、その俺の『平凡さ』をひたすら褒め称えるという精神攻撃は止めてください。地味に効きすぎなんですけど。」
マーリンも嬉しそうな表情をうかべる。
「良かった。あなたならきっと引き受けてくれると思ったんです。しかし、なぜその『平凡さ』が嫌なんでしょう? とても、そう、とても素晴らしいのに。」
もう半分涙目の俺に、マーリンは俺の小さい頃からの『平凡ヒストリー』をうっとりと語り続ける。
絵が好きだが、入選どまりとか。スポーツが好きだが補欠どまりとか、ゲームが好きだがギルドのトップチームには入れない、とか、もう情けなくなってきた。
流石に哀れに思ったのかキングが止めに入った。
「マーリン、もうそれくらいで勘弁してやってくれ。もう、時間が無いのだろう?」
「おお、そうでした。では宝井君。立ち上がってください。」
悲しみにくれた俺が力なく立ち上がる。
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