⑤ 王様「は」私。

哲平が傍らにいるゲイブに尋ねる。

「 ここがあなたの城ですよ。あの鏡をごらんなさい。」

ゲイブは柱をさし示す。柱は鏡張りになっていた。哲平は鏡に映りこむ自分の姿を見て驚いた。黄金の西洋鎧に赤紫クリムゾンカラーのマント。頭には黄金の月桂冠が乗っていた。


「どうです?」

ゲイブの語調にはさあ喜べ、という気持ちが入っていた。しかし、哲平から返ってきた答えは期待外れだったに違いない。

「コスプレですか?かなり痛い部類に入りますね。忘年会でこれをやったらさぞかし皆の酔いが醒めるでしょうね。」


 断わっておくが、哲平は決して不細工顔ではない。大和人は混血が進み、全体的にハーフ顔ばかりなのだ。名前こそ純和風だが、彼を流れる大和人の血は1/3程度でしかない。


「いえいえご立派ですよ。」


ゲイブはお世辞を言った。

「妻は…可南子はどうなるんだ?」

それが哲平の最大の懸案だった。


「こちらにおいでなさい。」

ゲイブが手招きをする。そこはプライベートルームのようだった。奥に女性用の姿見があり、そこから覗くと可南子が幼いジャスティンを抱いていた。

「こちらからいつでもご覧になることができますよ。」


「見るだけなのか?コンタクトはとれないのか?」

哲平の問いにゲイブは言い放つ。

「できません。あなたがここを離れることはシステムの休止を意味しますから。年に1度にとどめてくださいね。もちろん、あなたの仲間を育てればあなたの代行もできるようになるでしょう。」


「仲間?」

哲平は訝しげに尋ねる。

「そうそう。すっかり忘れていました。あなたは一人ではないのです。あなたを支える10人の仲間をご紹介しましょう。いえ、あなたとともに目覚めさせるのです。」

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