④一難去ってまた一難。

 「ジム・ハリス」。彼は有能ではあるが極度の自己顕示欲と自己認証欲求が強く、いびつな性癖を持っていた。とりわけ、その加虐趣味的嗜好者サディストの性向があまりに異常である、と診断されたため、不適格者としてプロジェクトを外されたのだ。

 病死したと聞いていたが、あろうことか、ラストピースとして自分の脳を送り込んでいたのだ。もちろん、ハリスの脳だとわかっていたらハミルトン教授も責任者として、当然外していただろう。おそらくはだれかに金を握らせたか、あるいは自分の息のかかったものに脳をすり替えさせたのだろう。


「モリアーティ教授?」

宇宙船科学者業界ではこちらの通り名のほうが有名だった。「イギリス+悪者+教授」で検索するときっとこの名が出そうだからだ。


「ここは私たち家族の家です。出てお行きなさい。」

可南子が厳然と命じる。


「おやおやもう見つかってしまいましたか。」

とても渋くていい声である。ひと悶着あるという見る者たちの予想に反して、ハリスはジャスティンを離すと2階の窓から出て行った。


 解放されたジャスティンが可南子に駆け寄った。その顔だちは幼いころの光平によく似ていた。ジャスティンがは可南子に抱き上げられると大泣きする。よほど怖かったのだろう。可南子はジャスティンをあやしながら頭をなでると光があふれてきた。ワクチンがきいたのだろうか。ジャスティンはそのまますやすやと寝息をたてて眠りについた。


「第一種戦闘状態が解除されました。」

惑星砲の照準が解除され、エネルギーの充填は終了したのだ。全移民船のクルーやスタッフから歓声が上がる。危機は去ったのだ…と思った瞬間だった。


突然、移民船の生命維持装置をはじめ、ライフラインが停止したのである。

「なぜだ?」

再び非常事態モードに陥った船内でクルーたちもパニックになる。


「脱出ポット。ロックされています!」

退路も断たれている。

「ゲイブ、これはいったい?」

少々パニック気味の哲平がゲイブに詰め寄った。

「分かりませんか?」

ゲイブはやれやれといった表情を浮かべた。


「ジャスティンは眠っているのです。『寝る子は育つ』というでしょう。彼は大人になるまで眠ったままです。つまりあなた方の面倒を見てくれるものはいなくなったのです。それを知っていたからこそ、先ほどの男はあっさりと身をひいたのです。」


哲平はそれどころではない。

「じゃあ、その成長は一体いつまでかかるんだ?」

「さあ。それは彼次第です。100年でも1000年でも。」

ゲイブの答えは飄々としている。


哲平は深呼吸してから言った。

「それは困る。」

「それはそうでしょう。すぐに手を打たねばあなた方は死に絶えます。確実にね。」

ゲイブの平然とした顔に、一発殴ってやりたいという気持ちを一回飲み込んでから哲平は尋ねた。

「俺はどうすればいい?」


ゲイブは我が意を得たりという顔をする。

「簡単なことです。それまであなたがジャスティンの代わりをすればいいのです。さあ、あなたもリンカーをおつなぎなさい。」

哲平がリンカーをつなげると、豪華な古城のような場所にいた。大広間のよな広大な空間であった。

「ここは?」

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