③「女の胤と蛇の胤」。
ゲイブは皆を見回した。そして哲平を見据えて答えた。
「わたしはこの惑星(ほし)の管理者として、テラフォーミングの様子を含めて皆さんを観察してきました。失礼とは思いましたが、すべてのアーカイブも見せていただきました。あなたが、ここを大切に使ってくださると約束していただけるなら、この惑星への入植する権利を与えましょう。誓えますか?」
ゲイブの申し出は 上からであったが、この緊急事態に背に腹はかえようもなかった。
「誓います。」
手を挙げて哲平が誓いを立てる。
「よろしい。」
ゲイブは満足そうに微笑むと哲平と可南子を膝まづかせる。両手を二人の頭においた。そのままゲイブは話を続ける。
「 みなさん。ジャスティン君は暴君なのでしょうか?いいえ、彼はただの幼子です。彼が求めているのは母親の愛ある世話です。彼はいま、病気にかかっています。中に悪辣なウイルスが潜んでいるのです。それを取り除き、あの子を癒し、あの子が大人になれるよう慈しみ、育み、導く存在が必要です。それができるのは可南子さん、あなただけです。あなたは彼が求める母親なのです。あなたにしかできません。引き受けてくれますね。」
「はい。」
可南子は立ち上がり、自分のクルーシートに戻るとリンカーをつなげた。
ジャスティンの世界は荒んでいた。人類の歴史(その多くは戦争と災害、飢饉や疫病といった負のものが多い)の映像が繰り返し流されていた。ジャスティンの持つ記憶は無傷にすごす権力者ではなく、一方的に奪われ、殺され、苦しみにあえぐ民の目線からのものだった。
「酷い……。」
すべての移民船のモニターに可南子が目にしている同じ映像が流れている。どの船のクルーもスタッフもそれに見入っていた。
可南子がまっすぐ歩いていくと、おしゃれな家が建っていた。
「まさか…。」
哲平は絶句する、そのデザインは新天地へと移民したらこんな家を建てようね、と二人でとある休日に戯れでデザインしたものだったからだ。
可南子は家に入ると迷うことなく、「子供部屋」に向かった。ドアを開けると初老の男性が幼児を抱いて座っていた。端正な顔立ちで黒いスーツに白いシャツ、リボンタイをしめたまさにナイスミドルな白人の男性であった。可南子は彼と面識はなかったが、見知った顔である。可南子は自分の記憶を手繰り寄せ、思い出そうとしていた。
「…ジム。ジム・ハリス。なんでやつがこんなところに?」
同じ映像を見ていたジョージ・ハミルトン博士がつぶやく。ジェームズ(ジム)・ハリス博士はハミルトン博士の同僚で、彼の国の惑星移民プロジェクトではソフト面(ようするに宇宙船以外の部門)の統括責任者であった。
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