星暦1年。新たな世界への招待。
①「ウロボロスの蛇」事件。
「ジャスティンが暴走を起こしました。」
ジャスティンが暴走し、アジア系、アフリカ系の移民船が居住区画をパージしたのだ。40人の人命と貴重な受精卵が永久に失われる。
「ち…貴重な
哲平は舌打ちする。大和人は第三次大戦後、100年以上にわたる移住生活の間に混血が進み、独自の人種的特徴をほぼ失っていた。それゆえ、この2基の持つ受精卵は、新しい世界に人種の多様性を保つためには欠かせない遺伝子群であったのである。あとは残ったアメリカ船たちに期待するしかない。
「原因はなんだ?」
哲平の口調は珍しく荒かった。クルーの答えはいらだっている彼に冷や水を浴びたせるものであった。
「ラストピースの集め方に問題があった模様です。」
「
緊急船長会議が行われる。座長は新たにスフィアグループの代表者になった、ジョージ・ハミルトン博士が務めた。
「ジャスティンから
容赦ない発言は明らかに鞍馬夫妻をつるし上げようという意図がありありとしていた。とはいえ、哲平も可南子も責任を回避する気はさらさらなかった。
「まあ、まずは皆で原因をつきとめよう。かの突然皇帝を名乗って世界を恫喝し、自ら滅びた帝国と同じ人間の脳だ。 戦って負けることもあるまい。」
しかし、そううまくはいかなかった。地上に降りるという選択肢もなくはなかった。しかし、先回のメテオストライクの教訓から各移民船には惑星防衛兵器が構築されており、そのコントロールが奪われている今、船を空けるのは自殺行為であった。
「このままではライフラインを止められるか、惑星砲の餌食になるか。笑えない二者択一ですな。」
皆の笑いは空笑いだった。しかし最悪の現実が待ち構えていた。すべての移民船の惑星砲が起動し、エネルギーが充填され始めたのである。照準はすべて隣接する移民船であった。同時に発射されれば一瞬にしてすべての移民船が墜落することになる。
「ウロボロスの蛇か。」
二匹の蛇が互いを尻尾から喰らい合い最後は二匹とも消滅するというたとえ話だ。事態は「絶体絶命」の様相を呈していた。
「みんなで祈ろう。」
イザナギに戻った哲平の提案は科学者としてはどうかというものであったが人間としてはごく自然なものであった。
クルーもスタッフも全員が輪になって座り、目をつむるとそれぞれが自分の信じるものに祈りを捧げた。
どれほどの時間がたったのだろう。輪の中心が光輝くように感じ、皆が目を開けると、そこには見知らぬ青年が全身から光を放ちながら立っていた。やがてその光はきえる。身長はおそらく2mは超えるだろう。すらっとしたスリムで筋肉質な体質。美形であり、ミケランジェロの彫刻にそのまま魂を入れたようだった。恐ろしさや、驚きのあまり皆がじっと動かずに青年を見つめる。というより観察していた。それは科学者の哀しい
「みなさん、こんにちは。どうやらお困りのようですね。」
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