❸ テラフォーマーズ(Gはいないから安心しな)

 テラフォーミングが始まった。スフィアにわたった移民宇宙船は18基。9基ずつ南北回帰線上に展開する。機首を下に下げ、静止軌道上からさらに降下する。成層圏ぎりぎりの距離に到達するとまず機体のうち機首と居住区画をスライドさせた。


 次いで、次のユニットからカーボンナノチューブで編まれたケーブルを地表に向かって降下させる。これは将来軌道エレベーターとなる布石である。そして、どのケーブルをつたってナノマシンプラントユニットがおろされた。こいつが、おびただしいナノマシンを生産して大気中へとまき散らすのだ。これらは惑星の両極に滞積する氷の層に取り付き、水分を酸素と水素に分解する。人類の生存に適した大気組成を作り上げるためだ。水素は回収してエネルギーに利用する。


 さらに機体からはエネルギープラントユニットが展開し、土星のリングのような受容体を作り出す。これは太陽光とヘリウム3の核融合方式のハイブリット発電だ。これで太陽光が当たらなくなる「蝕」の時間帯でも安定して発電できるすぐれものである。受容体の周りには小惑星が盾としてはりめぐらされ、機体を飛翔物との衝突から守る。


 最後にケーブルにそってリフトが昇降し、ロボット掘削機や金属生成ユニットなどを地表におろしはじめる。地表のマシンたちは鉱物を集めるとそれを工場で精製してリフトで宇宙船に戻して宇宙船を基地(コロニー)とするための増築を始める。ここまでの段取りを終えるのに3年を費やし、哲平たちは再びコールドスリープに就いた。


 哲平たちがコールドスリープの眠りから起こされたのは80年後で、大気圏内の酸素量が植物の生育に十分に達したころであった。今度はそれをさらに人類の生育に適するようにするため、地球から持ってきた種をまき、森林の形成を図る。海に受精卵から培養した魚類を放ち、地表には昆虫や鳥類を放つ。こうすれば惑星のすみずみまで植生を広げてくれるだろう。この段取りでまたコールドスリープに入る。


「科学者が創世神話の真似ごとだぜ。笑っちまうな」

こうして、地球のテラフォームをした宇宙人が神と呼ばれたのだろうか、皆面白がって笑った。逆に、哲平が「神」という存在を意識した瞬間でもあった。


 次に起こされたのはさらに120年後であった。今度は受精卵から育てた動物たちを放つ。あいにく、恐竜はいなかったが。あと100年もすれば第二の地球が出来上がっているだろう、こうして彼らは三たび、眠りについた。しかし、不慮の事故が生じてしまう。


 それは、あとテラフォーミングの完了まで10年をきったというころ、小惑星がスフィアと衝突したのである。

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